終章
終章
次の月曜日。
もう、あれから4日が経った。
弦内と嶺華はサントス教授の部屋に呼ばれている。
「と言うわけで、残念デスガ、やっぱりふたりは先週の高校に通えばイイジャナイ?」
なぜ疑問形かは不明だが、そんなサントスにふたりは笑顔で応える。
「はい、分かりました」
「ありがとうございます、サントス教授」
老婆の家での弦内誘拐未遂事件の後、ふたりは研究所の寮に戻ってきた。
事件の結果、弦内が誘拐される危険はなくなっていた。
そのこともあって弦内と嶺華はそのまま茂香高校へ通学したいことをサントスに訴えた。
一旦、訴えは却下されたのだが、研究所の高校過程担当講師のスケジュールが誤って全部キャンセルされていたことが発覚。先週の授業はなく、今週以降も数人の講師とスケジュールの再調整がとれなくなっていたのだ。
このためサントス教授は宿題や週末の実験協力などを条件に高校卒業まで茂香高校に通うことを半ば渋々承諾したのだった。
勿論、理由が理由だから、まりやと美鈴も一緒だ。
「ソレカラ住むところも、あなたたちの要望をゴックン飲みましょう」
「えっ、いいんですか!」
「嬉しいです、ありがとうございます」
笑顔でお互いに見つめ合う弦内と嶺華。
「もう、アツくてウザイです。ハヤク用意してイッテイッテください」
言葉の割にちょっぴり寂しそうな顔のサントスに頭を下げるとふたりは部屋を出た。
「良かったね、またおばあさんのところに住めるんだね」
「今度こそご恩返しをしないとね」
あの後、老婆は病院に運ばれ、一命を取り留めた。
老婆が『死と同時に移る』と言っていた彼女の特殊能力は、彼女の生存にもかかわらず嶺華に移っていた。昨日、病室に見舞いに行った弦内は老婆にその理由を聞いたが、
「それを調べるのが、弦内さんのお仕事ですよ」
と言われただけだった。
ただ、老婆の魔力はあの事件の時に完全に失われたそうだ。
「今日おばあさん退院って言ってたよね」
「病院に寄ってから行きましょうか」
ふたりは3階にある嶺華の部屋の前まで歩いてきて。
「今日からまたおばあさんのお家にお邪魔するんだね」
「そうね、今日はみんなの分、わたしが晩ご飯を用意しなくちゃ」
「豪華に鯛の塩焼きとお赤飯だね」
「そうね」
ふたりが幸せそうな会話をしていると、
チャ~ンチャンチャンチャンチャン チャ~ンチャンチャンチャンチャン
チャ~ンチャンチャンチャンチャン チャチャチャチャ!
弦内の携帯から、顔は子供で頭も高校生な探偵マンガのテーマが鳴った。
「あっ、メールだ…… 関からだ!」
チャチャッ チャチャチャチャチャッ チャチャチャチャチャッ
チャチャチャチャチャッ ~うっ!
全く同時に嶺華の携帯からは、マンボの五番目のような音楽が鳴った。
「あっ、伊能さんからだわ!」
「担任の先生ったら、明日から僕たちが登校するって発表したみたいだね」
「そうね、それでメールが来るなんて、嬉しいわね」
嶺華の携帯着メロ曲を勝手に変えてやろうと思いながら、弦内は嶺華を見つめて。
「これで全てがハッピーエンド、だね」
「……ううん、まだ、ハッピーエンドには足りないものがあるわ……」
嶺華の切れ長の瞳が上目遣いに弦内を見つめる。
どきり、と弦内の心臓が跳ね上がる。
「嶺華さん……」
「弦内さん」
「……」
「……」
嶺華の瞳が少し潤んで、そしてゆっくりと閉じられていく。
「……」
「……」
弦内の右手が嶺華の碧い髪に回されると、彼の顔がゆっくりと下を向いて。
「弦内さ、ん?」
「……!」
と、何かを感じたふたりは、慌てて階段の方に顔を向ける。
そこにはまりやと美鈴のにやけた顔が。
「あ~あ、惜しかったな。もう少しだったのに気づかれたか!」
「そうですね~、お熱かったのに残念です」
弦内は顔を真っ赤にして。
「いつからそこにいたの! 何で黙ってたの!」
「だってここは廊下じゃん。こんなところでやってたら当然見ちゃうじゃない?」
嶺華も真っ赤に頬を染め俯いたままで。
「ひどいですよ!」
「まあいいじゃないですか。これからおふたりにはたくさん時間がありますから~」
やがて4人は顔を見合わせると誰ともなく大きな声を出して笑いだした。
どこまでも澄み渡る春の青空へ届けとばかりに。
無敵な魔女の方程式 完
あとがき
日々一陽です。
無敵な魔女の方程式を最後までご覧戴きありがとうございます。
この物語は『魔法使い』の話ですが、魔法をあたかも論理的に説明してしまおうと言う『理系のSF』と言った設定で始めました。
でも、正直なところ反省点だらけの作品になったと思ってます。
そんな拙作にもかかわらず最後までご覧戴いた皆様には、私からの熱い投げキッスをお贈りしたいのですが、多分そんな行為は甚だご迷惑でしょうから文字だけにしておきます。
ぶちゅっ。
えっと、最後に。
次回作はこの後すぐに連載開始予定です。
実は、本作の途中から別の作品を同時に連載しようと用意していたのですが、そんな器用なマネはやっぱり出来ないと判断し、本作の完結を優先しました。
次回作は高校の文芸部とエロ本屋を舞台にした、かなり王道のラブコメになってる、と思います。多分。
是非ご愛読戴ければ幸いです。




