2章 第6話
午後の授業が始まるチャイムを聞きながらまりやはサントスに電話をしていた。
「ごめんなさい、弦内くんが行方不明で。はい、弦内くんの携帯で逆探知できませんか?」
予鈴が鳴っても弦内が戻ってこないのでまりやと美鈴、嶺華は授業を抜けて学校の屋上にいる。3人とも真っ青な顔をしていた。
「わたしが……わたしが気を抜いていたから……」
制服の上着を脱ぎ捨てた嶺華の切れ長の瞳からは涙がこぼれている。
「分かったわ、弦内くんの居場所。学校の外よ、行きましょう!」
3人は学校を飛び出すとタクシーに乗り込んだ。
車の中でもサントスと連絡を取り合いながら辿り着いたのは街からかなり外れた山の麓。
3人は車を降りると小高い丘を駆け上る。
「いるわ、お兄ちゃんがいる、ここで間違いない」
もはや自然と弦内をお兄ちゃんと呼んでしまう嶺華だった。
「こっちよ!」
丘を駆け上ると広い原っぱがあって、その中ほどにヘリコプターが見えた。
「急ぎましょう!」
ヘリコプターの方へ駆け寄ると人が見える。十人ほどはいるだろうか。
黒い服を着た数人の男達が銃を向けてくる。
「邪魔よ!」
まりやが叫ぶと男達の銃が宙を舞う。
「あ~ら、思ったより早かったわね、救助隊員の皆さん。でも桐間さんは戴くわね」
ヘリに乗った女性が大きな声を上げる。
彼女の横にはぐったりとした弦内の姿が。
「そこの救助隊員の皆様を葬ってあげて」
彼女がそう言うと3人の女達が近寄ってくる。
「行くわよ美鈴!」
まりやが前に進もうとすると物凄い風が起こり、歩みを止められた。
「えいっ!」
「いやっ!」
まりやと美鈴が風を操る銀髪の魔女に手を突き出す。
「うぐっ!」
銀髪の魔女は二人を睨みつける。
彼女とまりや、美鈴の間に激しい火花が発生した。
「うぐぐぐっ」
「うぬぬぬ……」
火花は壁となりふたりの間で拮抗する。
銀髪の魔女とまりや、美鈴連合軍の魔法力比べだ。
「まあ、そこで楽しく遊んでいて頂戴。じゃあね!」
ヘリに乗った女性がそう言うとプロペラが回り出した。
「そうはさせない!」
嶺華がヘリに走り寄る。
すると今度は別のふたりの魔女が彼女に走り寄る。
びきききき……
嶺華の前に巨大な光の壁が現れる。
その向こうではヘリが離陸を開始していた。
「邪魔よ!」
「うわっ!」
「ひやっ!」
嶺華がそう言うとふたりの魔女が草むらに吹き飛ばされた
彼女たちが倒れ込んだと同時に光の壁が消失する。
嶺華はヘリの元に走り寄る。
「逃がさないわ!」
離陸して地上か5メートルほどの高さにあるヘリコプターを見上げて嶺華が叫んだ。
彼女の碧い髪は逆立ち、その細い体が淡い光にくるまれる。
「ええっ! 何よ、なに!」
ヘリコプターに乗った女が叫ぶ。
プロペラの回転を上げても上げても、ヘリの高度が下がっていくのだ。
まるで何かに引きずられるかのように。
やがてヘリは乱暴に地面に着地する。
「お兄ちゃん!」
嶺華がヘリに駆け寄ると意識を取り戻していた弦内がヘリから飛び降りる。
「レイちゃん!」
「ば、化け物だわっ!」
ヘリに乗った女が叫んだ瞬間、ヘリの機体がバラバラに崩れ落ちた。
「ひいいっ!」
嶺華が後ろを振り向くと銀髪の魔女に打ち勝ったまりやと美鈴の笑顔があった。
***
4人は街中に戻ってきた。
今更学校に戻るわけにもいかず、街角の公園のベンチに座って。
「おにいちゃんごめんなさい、わたし油断していました」
「いや、ひとりでトイレに行った僕が悪かったんだ」
弦内が無事だったにもかかわらず、4人は浮かない顔をして。
「いや、ひとりでトイレにも行けないなんて、それじゃ弦内くんも可哀想だし、誰が悪いとかじゃないよ」
まりやがみんなを見ながら小さく呟く。
「そうですね~、仕方なかったですよね~」
美鈴も笑顔でそう言うが、嶺華だけはくちびるを噛みしめていた。
あのあと、弦内を連れ去った一味は研究所から人たちが身柄を拘束した。
何でもシントウ国の機関の手先だったとかで、彼女たちはもう二度とこの国には入れないそうだ。
「ともかく今日は疲れたから帰ろうか」
弦内の一言にみんなは頷いた。




