第7話:帰ろう
朝日が昇って来た。一体、何時間ここに居たんだろう。新聞配達のバイクの音が、遠くから聞こえてくる。
意外と冷静になれるもんだな、とつくづく感じた。あんなに取り乱して泣いて、叫んで、家を出たのに、ただぼーっと座ってるだけで落ち着いてくる。
どんなに時間が過ぎても、心ちゃんと別れるという現実は変わらない。あたしがそれを認めようが認めまいが、心ちゃんの気持ちはもう決まってるんだ。あたしが無理に心ちゃんの傍にいることを望んでも、もう2度と幸せだと思える日は来ないだろう。心ちゃんの気持ちがあたしにないのだから…。
わかってるんだ、ちゃんと。ただ少しだけ困らせてみたかっただけ。あたしを裏切る心ちゃんを、困らせたかった。それだけだよ。
心ちゃんが辛いのはあたしが1番わかってる。だってあたしが心ちゃんの1番近くにいたから。心ちゃんを愛してるから。心ちゃんが見せた涙も嘘じゃない。全部わかってるよ。
早く帰ってあげなきゃ。きっと心配してる。心ちゃんは寝ないであたしの帰りを待ってる。あたしと同じように苦しみながら。帰ったら、わかったよって優しく言ってあげよう。笑って心ちゃんを見つめよう。最後が涙なんてやっぱり悲しすぎるもんね。
心ちゃんのいない人生なんてつまらないから、少しだけ思い出と一緒に過ごそうかな。そうすれば、悲しくないと思うんだ。少しだけだけどね。きっと心ちゃんはあたしの最後のわがままを受け入れてくれる。それくらいいいよね?罰当たらないでしょ?ねぇ…神様。
あたしはブランコから降りて、お尻に着いた汚れを払った。気付いてみてみれば、髪の毛はぼさぼさだし、すっぴんのジャージ姿。自分の情けない姿に思わず少し笑ってしまった。
大丈夫。笑える。あたしは強くないけど、弱くもない。しばらくクヨクヨしたって、何年かすればいい思い出になるよね。今はただそう信じて、心ちゃんのもとに帰るとするよ。
今はまだ大好きな心ちゃんのもとに…。