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第42話:3のジンクス

ベンチに座って、どれくらい泣いていたんだろうか。どれだけのことを思い出したんだろうか。心ちゃんの好きなところ考えてたら、止まらなくなって…何百個も何万個もあるんじゃないかって思った。きっとその全ての条件が当てはまる人が、この世の中には何人かいるんだと思う。でも、心ちゃんじゃなきゃダメ。結局こう。

なんかわからないけど、愛してる。理由なんかないけど愛してる。結局それが一番強い。

どうしたもんかと、溜め息をついた時、ゆっくり近付いてくる足音が聞えた。たぶん、痺れを切らした大樹が迎えに来たんだろう。…なんて説明したらいいかな。

「…ちこ?」

えっ、今、ちこって呼んだ?…大樹じゃない。

あたしが顔を上げると、心配そうにあたしを見つめる心ちゃんが、そこにいた。なんでいつも絶妙のタイミングで…。

「…人違いかと思った。」

そう言うと心ちゃんは、昔と変わらない笑顔を見せた。声のトーンも話すリズムも全部変わらない。あの頃のままの心ちゃんだ。

「なに…してるの?」

聞いてから、ハッとあたりを見回した。もしかしたら一人で来たんじゃないのかもしれないって思ったから。でも、どうやらあたしたちの他に人の気配はなかった。

「なにって…なんもないけど。」

「なにそれ。」

思わずあたしが笑うと、心ちゃんは自然と隣りに腰掛けた。…この感じ、懐かしいな。

「…元気にしてた?」

「うん。普通に元気だった。」

もちろん、嘘をついた。寂しかったとか逢いたかったとか、言ってしまったら今日までの3年が無駄になっちゃう気がしたから。

「…そっか。」

「…心ちゃんは?」

「俺は…」

心ちゃんはじっとあたしを見つめたかと思うと、何も言わずに下を向いた。あたしを捨てた分際で、自分も『元気だ』と言うのは違うと思ったのだろうか。心ちゃんは優しいからね。

何を言えばいいのかわからず、お互い黙ったままの時間が流れた。

隣りにいる心ちゃんの手を握りたい、その腕にくるまれたい…そんな欲が次から次に出てきて、その感情を押さえ付けるのでいっぱいいっぱいになる。逢って声を聞くとなおさらわかるんだ。あたしはまだ心ちゃんを愛してるってこと。

…こんな日に逢いたくなかった。出来ればもう二度と逢いたくなかった。

「…あたし、そろそろ帰らないと。」

これ以上一緒にはいれない、そう思った。我慢の限界。心ちゃんが今日という日にこの場所に来たこと。それだけで、あたしはこっそり期待してた。あたしに逢いに来たんじゃないかって。

…だったら、なんなの?心ちゃんがあたしに逢いに来たんだとしたら、あたしはなんて言うの?

今の自分には何も答えを出せなくて…時々、頭の片隅に車の中で待つ大樹のことが浮かんだ。そして、頭の中の大輝が『何のために来たんだ』ってあたしを叱るの。

「…送ってくよ。」

帰ると言ったのになかなか動こうとしないあたしより先に、心ちゃんがそう言って立ち上がった。

「大丈夫。…待ってる人がいるから。」

ちゃんと言わないと、流れのまま心ちゃんと一緒に帰ってしまいそうな自分がいた。また、肝心なところで大輝を裏切ってしまう。早くこの場を去らないと…。

「…彼氏?」

「…。」

あたしはあえて何も言わなかった。彼氏だと嘘をつきたくもなかったし、彼氏じゃないよって言うのも『あなたを引きずってます』って感じがして言えなかった。あたしはようやく立ち上がり、車の鍵をポケットから出した心ちゃんに

「ありがと。」

とだけ言って背を向けた。

バイバイは言いたくなかった。これでほんとに最後。もう二度と逢わないだろうけど…バイバイは今のあたしには悲しい言葉過ぎる。まだ、言えない。歩き出したあたしは、絶対に後ろを向かないと心に決めた。あたしを見送る心ちゃんの姿を見たら、たぶん泣き崩れてしまう。必死に涙を堪えて歩いた。何もなかった顔で大輝の元へ帰ろう。それがきっと一番幸せなんだ。

「…ちこ!」

手首を掴まれ、びっくりして、あたしは足を止めた。…どうして追いかけて来たりなんかするの?

「このままじゃ、今日ここに来た意味がない。」

「…え?」

あたしが振り返って首をかしげると、心ちゃんはゆっくりあたしから手を放した。

「この前、ちこに逢いに行った。あの飲み屋でバイトしてるって知って。…もう、辞めたあとだったけど。で、今日ここに来るって聞いたんだ、男の人に。『ここに逢いにくるくらいなら、11月5日にちかに逢ってくれ』って。言いたい事はそこで言って欲しいって言われた。」

「そんなの、聞いてない…」

それを言ったのは間違なく大輝だ。あたしが今日ここに来るのを知ってるのは、大輝しかいないもん…。

どういうつもり?大輝の意図がわからない。

困惑してるあたしをよそに、心ちゃんは落ち着いた様子で話し始めた。

「あいつも、今日に賭けたんだと思う。俺も今日に賭けた。」

「ちょっと待って、話が見えない…」

「忘れられなかった。ちこのこと、毎日考えてた。俺から別れるって言ったくせに、実際ちこがいないとなにも手につかなかった。家に帰るとちこがいる気がして…ちこが、どれだけ俺の中ででかかったのか離れて気付いた。」

あたしは口を開けたまま、心ちゃんの話を聞いていた。いや。聞き流す、という表現のほうが近いかもしれない。今、自分の目の前で起こっていることが、全部幻のように思えた。心ちゃんの言ってる意味がわからない。なにが起きてるのかわからない。

「…なに、言ってるの?だって、すずは?」

「…今思えば、同情だったんだと思う。可愛がってたのは事実だし、弱ってる姿を見て助けたいと思った。でも、フラれた。」

「え?」

「ちこと別れたら、毎日必要な何かが足りない感じで、人を助けてやれる余裕なんてなくなった。超ダメ男だったから…言われて当然だったと思う。このままじゃダメだと思って、ちこに何度も何度も逢いに行こうとした。でも、あんなに沢山泣かせたくせに、今さらどんな面下げて逢ったらいいのかわかんなくて、結局…。」

「なに、調子いいこと言ってんの…?あたしがほんとに必要なら、別れる前に気付いて欲しかった!あんなに一緒にいたのに、他の子に負けて…。今さら忘れられないとか言われても信じられるわけないじゃん!」

「それはわかってるよ…。」

心ちゃんは少し俯いて、泣きそうな声でそう言った。

「そう言われると思ったから逢いに来れなかった。そんなんでぐずぐずしてる間に何年も経って、今さら逢いに行っても、ちこは幸せにやってるんじゃないかって…」

「…幸せなんかじゃなかった!心ちゃんのせいでずっと苦しかった。あたしがどれだけ心ちゃんを好きだったか、知ってるでしょ…。簡単に消えるわけないじゃん…」

涙が零れた。勝手に『幸せにやってる』だなんて思われてたことが悔しかった。あたしはずっと心ちゃんに苦しめられていたのに。

「この前、ちこの声聞いたら、止まらなくなったんだ。頑張って忘れようとしたけど、やっぱり無理だった。勝手だって言われてもいい。俺はちこが好き。ちこじゃなきゃ、ダメなんだよ…。」

心ちゃんの声が、言葉が、あたしの胸を締め付けた。こんなにも嬉しいのに、こんなにも苦しい。

この3年、大輝のそばにいて、ずっと忘れようとしてきたのに、心ちゃんのたった一言で気持ちが揺らぐ。ずるい。何で今さらそんなこと言うの…。今、心ちゃんの胸に飛び込んだら、あたしの3年はなんのためにあったの?全部無駄になるんじゃないの?別れて大切だって気付いたって…そんなの、あたしのプライドが許さないよ。

「…あたし、ずっと心ちゃんを忘れようとしてきたんだよ?なのに、今さら好きって言われても素直に受け止められない。そんなの許せない。信じられない。」

大輝は何を望んだの?あたしがこれを乗り越えて、大輝のとこに帰らないとダメってこと?そこまでしないと、あたしの『心ちゃんを諦める』って言葉が信じられないってこと?

「信じられないなら、信じてもらうまで何年でも言い続ける。俺はもう後悔したくない。どうしてもちこが好き。受け止められないなら、ちゃんとフって。」

そんなの、卑怯だ。あたしが心ちゃんをフれるわけない。サヨナラなんて言えるわけない。今でもこんなに好きなのに。

…でも、支えてくれた大輝を、無償の愛をくれた大輝を裏切りたくない。もう傷つけたくないよ…。

「…わかった。心ちゃん、ばい…」

あぁ、ダメだ。

「だめ、言えない…。」

そう言って、あたしは首を横に振った。バイバイって口にしたら、涙がびっくりするくらい出てきたから。…体は正直だ。大輝にサヨナラするときも悲しくって涙が出た。でも、ほとんどが大輝を傷つけたことに対する『ゴメン』って気持ちの涙。でも、今は違う。また心ちゃんを失うことへの恐怖の涙。

心ちゃんも大輝もどっちも大切。でも、失って苦しくなるのは…心ちゃんだ。恋愛は綺麗事じゃ片付けられない。大輝を失ってもいい。傷つけてもいい。それでもやっぱり目の前のこの人だけは、失いたくないの。ひどい女でごめんね、大輝。

「…俺ともう一度付き合って?」

心ちゃんはそっとあたしの涙を拭いて、そう言った。こんなことされたら…NOなんて言えるわけない。

「…ずるいよ。」

そう言って泣き止まないあたしを心ちゃんは力強く抱き締めた。懐かしい心ちゃんの匂いがあたしを包む。なんだか幸せで余計涙が零れた。

大輝を裏切った自分はすごく嫌い。悪い女だと思う。心ちゃんをフって、あたしを大切にしてくれた大輝を選んだら、それはそれは素敵な恋だったと思う。みんなその恋を選ぶのかもしれない。でも、あたしには出来なかった。あたしにはこれが真実だった。

あたしたちは2人で大輝の元に行くことにした。ちゃんと、話さなきゃと思ったから。でも、駐車場に着くと、そこにはもう大輝の車はなかった。

「…わかってたのかな。」

心ちゃんが言った。もしかしたら、そうなのかもしれない、と思った。あたしがこの状況でも心ちゃんを選ぶって、大輝にはわかってたのかも…。あたしはこの前の大輝の言葉をふと思い出していた。

『それくらいのダメージがないと諦められない』

…きっと大輝は今日が最後の日だって、最初から決めてたんだ。勝負を賭けてなんかいなかった。

「…ありがとう。」

もう、声の届くはずのない大輝にあたしは呟いた。大輝に出会ったこと、一緒にいたこと、それもあたしの人生で大切な時間。必要な時間だったと思うの。


それからあたしたちは大掃除したての、あの部屋に帰り、また一緒に暮らすことにした。周りはあたしを馬鹿だって言うと思うけど、今はとりあえず幸せ。

あんまり自慢できるような話じゃないかもしれないけど、これで良かったと思うの。3年離れても消えない愛があった。それはすごいことだと思うから。

これからはずっと心ちゃんと一緒にいれますように。


付き合って3年で別れ、それから3年の時が流れ、今のあたしたちがいる。幸せな笑顔がある。

これがあたしの『3のジンクス』。

読んでいただきましてありがとうございます!!この話を書き始めてから、あたし自身も波瀾万丈の毎日でした…(・ω・`;)彼氏が浮気をして、まんまとフられてしまったあたしですが↓↓笑 結局『お前じゃないと…』ってコトで、揉めに揉めてヨリを戻したんですが、その半年後、浮気相手と関係が終わってなかったというコトが判明…揉めますよね。笑 かなり束縛が激しくなるよ、って条件で今はうまくやっております!! まぁ、おかげでこの話が長期間ストップしてしまったり、いきなり更新したりと、かなり不安定でしたが、なんとか書き終えることが出来ました☆皆さんの声援のおかげですね(´∀`●) この話のように、自分も振り回されっぱなしですが、結局惚れた方が負けだと最近はドンと構えてますね☆笑 次回作は出来れば温かい話が書きたいです!!今後も頑張りますので、応援お願い致します('◇')ゞ感想などいただけたら嬉しいです!!よろしくお願いしまーす☆

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