第41話;時間よ止まれ
11月5日、ついにこの日が来た。仕事もなく暇を持て余していたあたしは、この2週間、部屋の大掃除をしたり、買い物に出かけたりと、普段出来なかったことを沢山した。半分、現実逃避だったのかもしれない。でも、今日はちゃんとケリをつけなきゃ。
あれから大樹とはメールのやりとりだけしていた。前と変わらずくだらない話ばっかり…それが大樹の最上級の優しさだと感じた。
そんな大樹は
『今日はどうしても一緒に行きたい』
と、いくら断ってもきかなかった。近くまで送り、車の中で待ってるから…と。なんだか、さらに追い込まれた感じ。きっとそこまでしないと、あたしがちゃんと答えを出さないと思ったんだろう。…あながちハズレでもないような気はするけど。
「…じゃあ、行って来るね。」
「うん。」
「ほんとに何時間も待たせると思うよ?朝になるかもよ?」
あたしは車のドアを半分開けたまま、大樹にそう言った。
「はいはい、わかったから。早く行ってきな。」
大樹が少し笑ってあたしにでこピンを食らわせた。あたしは観念して車から出て、中で待つ大樹に手を振った。
駐車場から少し歩いたところに、綺麗に夜景が見えるベンチがある。あたしはそこに座り、ゆっくりと息を吸った。この夜景は何度見ても綺麗だなぁ、と思う。そして何度見ても心ちゃんを思い出す。ここでいろんな話ししたなぁ…。今でも全部覚えてる。
出会ったときは、こんなに心ちゃんを好きになるなんて考えもしなかった。何年も一緒にいて、どんどんどんどん気持ちが膨らんで…それは心ちゃんも同じだと思ってたのにな。ほんとに心ちゃんが全てだったんだって、離れてみて実感した。どこに行っても苦しくって、一人になれば涙が出て…逢いたくて逢いたくてしょうがなかった。
心ちゃんと沢山喧嘩したはずなのに、別れて思い出すのは楽しかった事とか嬉しかった事ばっか。だからなおさら、気持ちが募ってく。あの頃より今のほうが、もっと愛しいと思うのは、やっぱり変なことなのかな…。どう頑張っても心ちゃんは消えないよ。
痛い。苦しい。悲しい。どうしてこんな感情を、人は恋だって言うのかな。恋愛は楽しいだけじゃないって…じゃあ、苦しいだけのこの想いも、恋愛と呼ぶんですか?誰か教えてよ。
あたしは声もあげずに静かに泣いた。涙で滲む夜景も案外綺麗に見えた。
ねぇ、心ちゃん。あたしは今でも心ちゃんが好きだよ。でも、もう3年が経っちゃったね。そろそろ潮時かなって思ってる。気付くのが遅すぎるくらいだよね。
あと5分で今日が終わっちゃう。このままもう止まってしまえばいいのに…。