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第40話:帰り道で

いったい何から話せばいいのか、何を伝えるべきなのか、あたしにはよくわからなかった。でも、大樹にはあたしの気持ちを全部伝えなきゃいけない、そんな気がした。

「…辞めたのって俺のせい?」

少し申し訳なさそうな声で大樹はあたしに聞いた。あたしはなんて答えればいいのかわからず、ただ下を向いて歩いていた。

大樹のそばにいられないって思ったのは、バイトを辞めるきっかけだったけど…それはあたしの心の弱さが原因。むしろ自分のせいだ。

「…あたし、このまま大樹のそばにはいられない。」

「でも俺は、やっぱりちかが好き。代わりでもいいからそばにいたいと思う。」

今大樹がどんな顔でそのセリフを言ったのか、それを確認する勇気はあたしにはなかった。゛覚悟を決めた゛って目で見られたら、それを断ることはあたしに出来ないと思ったから。

「大樹は…利用するにはいい人すぎる。」

「いい人なんかじゃねぇって。弱みに付け込んでんだから。」

「そんなことないよ。大樹はあたしにとって大切な人。大切な人を傷付けるような人間になりたくないって思う。」

しんみりした空気の中、あたしたちは何も言わず、帰り道の途中にある公園に立ち寄った。あたしの家に着くまでの10分で、話のケリがつくとは思わなかったから。

「大樹のこと、好きになれると思った。」

あたしは公園のベンチにゆっくり腰掛けた。大樹はあたしの斜め前に立ったまま…。あたしは泣きそうな顔を見られたくなくて、少し下を向いて話した。

「ほんとに大樹は完璧なんだよ。あたしの理想そのものっていうか…。」

「でも、元彼には勝てないんだ?」

「…うん。ディズニーランドに行った日、あたし大樹のものになるって、覚悟してたつもりだったんだけど…」

あの時心ちゃんから電話が来なかったら、あたしたちは普通の恋人のように幸せに過ごしていただろうか。…いや、きっといつか自分の気持ちが誤魔化せなくなる日が来てたはず。ほんとの気持ちに気付いてたはずだ。

「…うん。ちかの覚悟はちゃんと伝わってたよ。」

大樹は優しくそう言うと、あたしの隣りに腰掛けた。

「電話がきて、あたし期待したの。…より戻そうって言ってくれるんじゃないかって。」

「うん。」

「…そう言われてたら、あたしは大樹を裏切って、すぐにでも元彼のところに帰った。何年も一緒にいて、あたしを大切にしてくれた大樹を裏切って、自分だけ幸せになろうとしたんだよ…。そんな自分がいるってわかったとき、自分のことほんとに最低だって思った。」最低で…そんなずる賢い自分には大樹の気持ちは真直ぐ過ぎた。綺麗で眩しくて、あたしはそれと同じものを返せなかった。

「元彼とは3年付き合ってたんだけど、あたしにとってはものすごくおっきな時間で…。何度も忘れようとしたのに、どこに行っても何をしても思い出しちゃう…全然消えない。」

「…。」

大樹はあたしの話を静かに聞いていた。所々に小さく相槌を打ちながら。大樹の顔を見る勇気がなくて、あたしはただずっと地面を蹴る自分の足を眺めてた。声のトーンとか空気で感じるのは、大樹が怒ってるわけじゃないってこと。あたしの気持ちを全部すくい取ってくれてるような、そんな気がした。

「元彼にはっきりフられたって気もしないんだ。…だからたぶん、いつか戻って来るんじゃないかって思っちゃうんだよね。大樹の言った通り、3年もほっとかれてるんだからありえない話なんだけどさ。」

あたしが少し無理して笑うと、それに気付いた大樹があたしの頭を撫でた。どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。自分で言うのもおかしいけど、あたしにこんな話されたら大樹だって辛いはずだよね…。なんで大樹を好きになれないんだろうな…。ほんと恋愛って理屈じゃない。

「で、元彼が戻って来るまでずっと待ってるつもり?」

「…うぅん。来月の5日ね、記念日なんだ。いつも…記念日に行ってた思いでの場所があるのね。そこに行って、自分の気持ちにケリつけるつもり。思い出の品たちも、全部捨てる。…とりあえず、そこから。あとはまだ何も決めてない。」

ようやく大樹の方を向いて、あたしは笑ってみせた。話したいことは全部話せたと思う。なんか…スッキリした。

「大樹、ごめ…」

ごめんね、と謝ろうとした時、突然大樹はあたしをきつく抱き締めた。

「気持ちにケリつけたら、俺んとこくればいいじゃん。」

「や、でも、それは…あの…」

「他の誰かを好きになるより、俺を好きになる方が簡単だと思わない?」

「それは…そう、なんだけど…」

大樹はあたしを抱き締める力をゆるめ、深く息を吐いた。

「…それが一番だと思う。待たせて。」

「でも…あたし、その日までに元彼に何か言われたら、平気で大樹を裏切るよ?!」

「それでもいーよ。ちかが元彼に戻ったら、そんときは潔く諦める。つーか、たぶんそんくらいのダメージないと諦めらんない。…ちかもそういうことでしょ?」

体を離し、大樹はあたしの顔を覗き込んだ。あたしは返答に迷い、口をパクパクさせ、目をそらした。

大樹の気持ちが正直嬉しくて、その反面苦しかった。その想いに応えられなかった時、大樹をどれだけ傷つけるんだろう。あたしと同じくらい泣いて、同じくらい引きずるんだろうか。

「嫌って言うのは無しね。どっちにしろ諦めがつかない気持ちは、ちかが一番わかるでしょ。」

「…傷ついてもいいの?」

「ちかは傷つくのが嫌だから諦めるって、そんな風に出来なかったでしょ?」

確かに…。大樹の言葉はいつも確信をついてるんだ。あたしがうまく言いくるめられる相手じゃない。

「ん…ありがと。」

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