第39話:送別会
「ちかちゃん絶対遊びに来てよ!?」
香は涙を浮かべながらあたしに抱き付いた。しんみりした別れが嫌だからって、せっかく送別会を企画してもらったのに…あたしも悲しくて泣けてきちゃった。
「メールとかめっちゃするからね!?」
「うん。あたしもする。」
「…。」
千秋ちゃんは、あたしの勝手な決断に少しすねているようで、何も言わず香の後ろでこっそり泣いていた。
別にもう一生会えないってわけでもないのに、
なんでこんなに悲しいんだろ。
「まぁ、まぁ。女性陣、そんなに泣くと綺麗な顔が台無しになるよー。」
小鷹君がそう言ってあたし達を慰め、匠は酔った勢いで香と一緒になってくっついてきた。
「ちょっと!匠、ウザーい。」
香が匠を押し退けてそう言うと、ようやくみんなに笑顔が戻った。そんな中、大樹は何も言わずあたし達を見ているだけ…。前までの関係だったら、真っ先に大樹があたしの泣き顔を笑ったのに。
この1週間、大樹とは仕事以外の話はしてない。
多少気まずい空気はあったけど、仕事中はいつも通り優しくあたしに接してくれた。でも、仕事が終わると『お疲れ様』だけまるで決まり事のように言い合い、あたしはそのまま一人で帰るようになっていた。そんなあたし達の異変にみんなが気付かないわけはないけれど、あえて誰もそのことには触れなかった。最後までみんなに気を使わせてしまって、申し訳なかったな…。
「…あげる。」
香の後ろで泣いていた千秋ちゃんは、まだ少し怒った様子でヒヨコのストラップをあたしに渡した。
「…可愛いー!ありがとう。」
「それ、ちかちゃんに似てるから買ったの。香とあたしとお揃いだよ。」
千秋ちゃんがそう言うと、香が
「えへへー。」
と言いながら、携帯につけてあるヒヨコのストラップを揺らして見せた。
「えっ…超嬉しいんだけど!」
「なくさないでよ!」
あたしはストラップを両手で握り締め、うんうんと首を振った。
「あれ?俺らのは?」
「…ない。」
「ひっでー!」
匠が泣きまねをして小鷹君に抱き付き、そんな匠を小鷹君が突き放し…まるでコントのような光景を見て、またあたしたちは笑った。
「じゃあ、そろそろ…」
少し遠慮しがちに小鷹君がそう言うと、あたしたちは諦めたように頷き、少し涙を滲ませた。…しょうがないよね。別れはいつかくるもんだから。
「…じゃ、ちかは俺が送ってくから。」
「えっ?」
さっきまで蚊帳の外にいた大樹が突然そう言って、あたしの腕を取った。
「ちょっ、大樹…」
「じゃあ、お疲れ様〜!」
大樹はあたしの言葉を遮ってそう言い、みんなに手を振った。
「お疲れー!ちかちゃんまたねー!」
みんなもこうなるのが当たり前って感じで、違和感なく手を振り返している。
「あっ、えっ、いや…」
「行くぞ。」
「…はい。」
有無を言わせない大樹の高圧的な声に、あたしは素直に従うことにした。
「またねー!」
みんなに手を振り、先に歩き出していた大樹の近くまで、小走りで駆け寄る。
これがいい機会だ。大樹とちゃんと話そう。
もう逃げないで。