第38話:ここにはいられない
「辞める?!」
「はい。」
突然の申し出に驚いた店長に、あたしは苦笑いをしながら頭を下げた。
ここにはもう、いられない。本当はずっとみんなと一緒にいたいけど、これ以上大樹に迷惑かけたくなかったし、正直どう接したらいいのかわからなかったから。
「実家に戻る予定なんです。出来れば夜は家にいてあげたいし…」
あながち嘘ではなかった。本当にもうあの家にはサヨナラしないといけない。とりあえず実家に帰って、新しい環境で自分を変えていきたい。
「わかった。じゃあ、今週末で終わりにしよう。んー、みんなで送別会やらなきゃなー。」
「いえっ、そんな、悪いです…」
「そんくらいいいだろー。最後はパーッとね!」
店長は笑ってあたしの肩に両手を乗せた。もちろん善意で送別会を企画してくれるんだ。…断れるわけがない。
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、今日も張り切って仕事してね!」
「はい!」
あたしは元気よく返事をし、笑顔を見せた。大樹と気まずいからって、やる気がない態度をとっちゃダメだもんね。この店にはほんとに感謝してる。だから、最後は迷惑かけずに終わらせたい。ありがとうって気持ちをちゃんと残して去りたいんだ。
でも、あと一週間。大樹とどうやって接したらいいんだろう。どんな態度が大樹にとってベストなんだろ。もうこれ以上大樹を傷つけたくない。あたしが辞めるって知ったら、どう思うかな…。みんなにもちゃんと話さなきゃ。色々考えて、こうするのがベストだと思ったって。納得してくれるかわからないけど、この考えはもう変わらない。みんなにはひたすら謝るしかないかな…。
来月はもう11月。心ちゃんとサヨナラした季節。あれからもう3年経ったんだ…。こんなに引きずることってあるんだなぁ。
それくらい愛せる人に出会ったってこと。これだけでも、あたしの人生最高だったって思うの。だから、もう一度誰かを死ぬほど愛したい。誰かと比べたりしないで、ただ一人だけを見つめていたい。
まずは心ちゃんを忘れよう。思い出の品も全部封印。家も出る。11月5日、記念日にあの場所に行こう。それをあたしの気持ちの最後にする。新しいあたしになる。