第32話:報告
「ちか、煙草取って。」
「ん。」
あたしは大樹のロッカーから煙草を取り、手渡す。そんなありきたりの光景をマジマジと見つめる香達…。
「…お前ら見過ぎ。」
「だってぇ〜。」
香達はニヤニヤと笑い、『ねぇ〜』と声を揃えて言った。
「ずっと応援してたかいがあったよ。」
小鷹君の一言にみんなが頷く。あたしは恥ずかしくなって下を向いた。
「これで今度から6人で遊ぶ時は気ぃ使わないで済むね。」
そんな香の一言に
「お前ら気ぃ使ってたの?」
と、大樹は大袈裟に驚いて言った。
確かにみんな好き勝手やってなぁ…と改めてあたしも笑った。お泊まりの時だって大樹と2人きりにされたし、気ぃ使ってたなんて到底思えない。
「これからはお泊まりも有りだね。」
千秋ちゃんがサラッと言った言葉にあたしは固まった。大樹と付き合うって決めたものの、まだそういう『行為』は考えたくなかったから。手を繋ぐのですら何か違和感があって、照れくさくて…あぁ、これから先が思いやられる。
「あのキャンプの時は大樹地獄だったろうからね。可哀相でしょうがなかった。」
『可哀相』なんて言いながらも小鷹君達は笑った。きっとその日もみんなコッソリ笑ってたんだろう。
キャンプの日、大樹はあたしよりも普通で…全然そんな素振り見せなかったのに。…平気なふりをしていたんだろうか。だとしたら、かなりのポーカーフェイスだ。
「…まぁ、しばらく地獄は続きそうだけど。」
溜め息混じりに言った大樹の言葉に、みんなはいっせいに笑うのをやめ、そして憐れんだ目で大樹を見た。
「変な目で見んなよ。」
「もしかしてキスもまだなの?!」
「………。」
顔を赤くして黙り込むあたしの横で大樹は
「俺意外とシャイだから。」
なんてかっこつけた。本当はこの前されそうになったんだけど…。お察しのとおり、あたしはそんな大樹を受け入れることが出来なかった。もう付き合ってから1ヶ月以上経つのに…。自分が情けない。子どもじゃないんだし、キスくらいちゃんとしなきゃ。