第23話:友達
夏の暑さも和らいだ9月末。
約1年ぶりに高校時代の友達と飲み会をすることになった。毎年このくらいの時期になるとメールが回ってくる。仲良しだった同じ部活の友達。中には結婚した人もいるし、未だに恋をしたことのない人もいる。そんなみんなと人生について語るのは、すごく楽しい。まぁ、そんな語れるほど年はとってないけど。
でも、今日は別れたことを報告するはめになるだろう。何せあたしは昔から嘘が下手だったから。
飲み会は地元でやることになった。卒業後地元に残った人が多いから、こればっかりは仕方ない。地元はあたしの大好きな場所だったけど、心ちゃんと別れてから、行きたくても行けない場所になっていた。あそこに行ったら、あたしはきっと無自覚に心ちゃんの姿を探すだろう。…2人並んで歩いてる姿はなるべく見たくないけど。
「かづみー!久しぶりぃ。」
「あー、ちかぁ。元気しった?」
学生時代、1番仲の良かったかづみが駅まで迎えに来てくれた。
「…かづみ痩せた?」
「わかる?ちょっとダイエットしてんの。」
かづみはニッコリ笑ってそう言ったけど、それが嘘だということにはすぐに気付いた。
もともと、ダイエットをするような子じゃなかったし、いつもの笑顔と違かったから。この歳になって、友達に相談するのが恥ずかしいのだろうか。それとも、無駄な心配はかけたくないと大人ぶってるのだろうか。どっちにしろ、あたしにはかづみの嘘が気に食わなかった。何があったのか、はっきりはわからないけど、おそらく彼氏がらみだと思う。
「…かづみ。あたし心ちゃんと別れたんだ。」
「えっ?」
かづみはびっくりした表情を見せたけど、すぐに笑顔を取り戻した。
「嘘でしょー?」
本当にあたしの告げた事実を、かづみは嘘だと思ってるんだろう。あたしたちをよく知っていたし、あたしが結婚すると言っていたのもわかってるから。
「嘘じゃないよ。」
少し困ったように言ったあたしに、かづみは表情を曇らせた。
「ほんとに…?」
「いろいろあったんだよ。」
「え、だって…考えらんないよ…」
かづみは泣きそうになりながら、震えた声でそう言った。きっとあたしの声のトーンで、心ちゃんから離れていったと察知したんだろう。
「…大丈夫?」
かづみの問い掛けにあたしは首を横に傾けた。大丈夫な気もするし、そうでない気もする。でも、別れた頃に比べればだいぶマシになったかな。
「…あたしもね、渉と別れたんだ。」
「…そっか。今日は語り合えそうだね!」
あたしはかづみと手を繋ぎ、腕をぶんぶん振って歩き始めた。まるで子供の頃に戻ったみたいにはしゃぐあたしに、かづみもつられて笑った。20を過ぎた大の大人が、手を繋いで歩くなんて少し恥ずかしいけど、これも友情ってことでありでしょ?
「…聞いてもいい?」
「いいよ。」
かづみが何を聞きたいのか、あたしにはわかっていた。でも、とても言いずらそうにしているので、あえてあたしはかづみの言葉を待つことにした。
「…まだ好き?」
「…今はね。」
「いつ別れたの?」
「2月。」
「そっかぁ。」
その後少し沈黙が流れて、かづみは立ち止まった。きょとんとした顔でかづみを見ると、かづみは大きく息を吸い込んだ。
「会いたい?」
今回の質問は超難問だった。余計な考えを省いて、素直な気持ちで答えるなら…会いたい。でも、会ってどうなる?心ちゃんはもう違う人生を歩んでる。その姿をまじまじと見たって悲しくなるだけ。何も話すことは無いし、普通に話せる自信も無い。会いに行ったら、忘れるのが遅くなるだけだ。
「…あたし、ちかの気持ちよくわかるよ。どっちを選んでも後悔すると思う。だから、1番正直な気持ちを選んでもいいんじゃないかな。」
どっちを選んでも後悔する…確かにその通りかもしれない。かづみは渉君に会ったのかな。でも、あたしには会って話しをするとか、そんなこと考えられない。心ちゃんがどれだけ悩んであたしと離れたかわかってるから、気安く会いに行ったり出来ない。心ちゃんが困るのが目に見えてわかる。でも…やっぱり…
「…遠くから見るだけでもいい。心ちゃんをもう一回だけ見たい。…ついて来てくれる?」
不安そうに問い掛けたあたしに、かづみは
「いいよ。」
と笑った。