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姉さんに片付けられないようにすることを考えて、僕たち三人は一斉に動き出した。アイコンタクトも声をかけることもしない。各々が思い思いの動きを始めた。他二人を気にかけている余裕なんてものはない。
僕は、姉さんが僕を連れてくと明言してる以上、僕に真っ先に狙いをつけて刈り取りに来ることはないだろうと信じて、涙を流し歯を食い縛り蹲って未だにうめき声を上げながら腕を折られた激痛に悶える蜂の救出に向かった。僕を除いた三人の中で、今一番刈り取り易いのは蜂だ。姉さんの『倒す』がどの程度のレベルを指すのかは分からないけれど、流石に腕を折るだけでは済まさないだろう。もっと上の段階があるはずだ。ならば、蜂がもっと酷い目に遭う前に救出するのが最善だろう。
「う――うううううううううううううううううううううううううううううううううううう」
蜂は呻いている。幸いにも、姉さんは動き出した明紀と蜘蛛ちゃんの方を優先すべきと考えたのか蜂からは離れていた。助けるなら、今しかない。
「蜂、とりあえずこっちへ――」
蜂の両肩を掴み、後ろから抱くような姿勢で蜂を起こそうとする。そこで僕は初めて蜂の表情を見た。
「クソッ――クソが……クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがッ!!」
泣いているというのにその瞳には怒りと恨みが宿っており、姉さんに向かって黒い殺気を放っていた。それでも感情が抑えきれなかったのか、無事な方の左腕を振り上げて、床めがけて降り下ろすなんて無駄な行動までとっている。その動作を三回ほど繰り返した後、蜂は左手を床につくと、それを支えに身体を起こそうとした。が、どうやら能力を使ってしまったらしく、左手の下に手のひらサイズの穴が開き、支えを失いバランスを崩して左肩から崩れそうになる。相当気が動転してしまっているらしい。僕が支えられたからよかったものの、なにもしていなければ顔面も一緒に強打していた可能性があった。
「落ち着け、蜂。感情的になっても姉さんに流されるだけだよ」
「クソが……ッ、逆に何でお前は冷静なんだよ……ッ! 腕折られて平気でいられるわけないだろ、俺は初めてなんだよバーカ!」
未だにボロボロと涙を溢しながら八つ当たりのように恨みがましい視線を僕にぶつけて蜂は言う。どうやら痛さのあまりキレているらしい。何で冷静なんだと言われて思わず謝罪したくなったけれど、よく考えてみてみれば痛いのは蜂だけなので僕が冷静なのは当然のことだった。
「クソがァ……ぜってぇ一発喰らわす……!」
僕の手を借りつつフラフラと立ち上がって蜂はそんなことを言うけれど、痛みに耐えるのにやっとだというのにどうやって一発喰らわすのだろうか。場違いにも疑問を感じずにはいられなかった。
少し離れたところでは、中々多彩な動きを見せる蜘蛛ちゃんと、絶妙なタイミングで死角をついてくる明紀を軽くあしらっている姉さんがいる。戦いながら、二人をどうやって無力化させようか、なんて考えていそうだ。
五体満足で二人がかりなのにあの様だ。右腕を折られて、痛みでうまく動けない蜂があの中に入っていけるとはとても思えない。正直なところ、元気な僕があそこに入っていけるかどうかも怪しいレベルだ。
「やっぱりこっちが先かしら」姉さんは唐突に動き出す。「ごめんなさいね」
「え」
がしりと姉さんが明紀の頭を片手で掴んだ。其処まではこの目で見ることができた。だが、そこから先はよくわからなかった。なんだかとてつもない速度で、明紀の頭を掴んだまま明紀を振り回すように一回転して、その遠心力で蜘蛛ちゃんを吹っ飛ばしたように見えたが、実際にはどうだったのだろうか。分かるのは姉さんしかいなさそうだ。僕たちに分かるのは、次の瞬間には明紀はものすごい音をたてながら床に後頭部から叩き付けられたということだけだ。一瞬の静寂が訪れる。
そして、それを認識したとたん、僕の視界は一気に赤く染まった。
「――――!!」
何を言ったのかは分からない。多分、本能のまま叫んだのだと思う。叩き付けられて、後頭部から血を流し動かなくなった明紀を直感的に想像して、叫ばずには、動かずにはいられなかったのだと思う。
「今のは、姉さんでも許せそうにないよ」
姉さんに避けられて隣にあったデスクを破壊したということを確認しつつ、僕は告げた。親友を壊すのは、たとえ誰であっても許さない。




