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一旦仲間を疑うことをやめて考えてみると、訊き忘れていたことに気がついた。だから僕は「調べて何を掴んだんだ?」と訊くことにした。
「まず、何を調べてたんだっけ?」
「んー? 最近は通り魔の被害者を全部当たってみてたぜ。そんで、まあ、『全員暴力団関係者なんかじゃなかった』ってことは確定した。どいつもこいつも、その辺にいる普通の平和に暮らしてた一般人だったよ」
なーんで暴力団関係者なんかにされちまったんだかなー、と明紀はわざとらしく言った。どうせ、その辺も見当がついているのだろうに。
「このことって案外でかい事実でよ、このことから通り魔がどんな人間かかなり絞り込めるようになったんだわ」明紀は話を続けた。心なしか表情が生き生きとしている。「マスコミがあんだけ暴力団関係だなんだ騒いでたんだ。通り魔は大規模に情報を操作することが出来る人間だって俺様は思い始めてるぜ。或いは、情報の発信源か。後者だったとしたら、警察関連ってなるけどな。ははっ、警察のなかに通り魔なんてこえー国だな」
「笑い事じゃないだろ」
笑えないことを言う明紀に僕は思わず真顔で突っ込んでいた。その予測があながち間違いでもなかったから襲われたという可能性があるのだ。掃除人は警察公認で成り立っている組織なのに、これ以上警察に敵が増えると本当に存続が怪しいかもしれない。
「……あれ? でも、警察も通り魔に襲撃されたって……仲間割れ?」
「おっ、お前にしちゃあ良いところに気付いたな。そうなんだよ。なんか妙に引っ掛かるよな? だから、色々調べて共通点を探してみたんだが……困ったことに一つしか見つからなかった」
「へえ、一つは見つかったんだ」
よく見つかったものだ。僕はそれがなんなのか、被害者のデータを全く見ていないので皆目見当もつかない。だから明紀の言葉を待つことにした。
すると明紀は、急に笑っていた顔を真顔にして、真っ直ぐに僕を見つめて口を開くのだった。
「……『壱之瀬遥矢』。それが共通点だ」
壱ノ瀬遥矢。響きからわかるように、それはとある人物の名前であることを示している。そして、僕はその名前に嫌というほど覚えがあった。否、覚えがなくてはいけなかった。
「……なんで僕をご指名なんだよ」
微妙に声が震えてしまった。仕方がないかもしれない。なんせ世間を震え上がらせ、長期間、連日ニュースを騒がせている通り魔の被害者の共通点が、僕だというのだから。
壱之瀬遥矢というのは列記とした正真正銘の僕の本名だ。おぎゃあとこの世界に生を受けてから、拒否権も選択肢もなく押し付けられるようにつけられ、今日に至るまでの十六年間ずっと共に歩んできた名前だ。今の学校では『勝間田遥斗』という名を名乗っているため、この名前を知る人物はほとんどいないし、この名前で呼ぶ人間など更に少ないが、しかしいくらか使わない名前であろうと、流石に自分の本名だ。思うところは色々ある。
「奥田が殺されたって時点で気付けばよかったんだけどな。通り魔の被害者は全員、中学時代の同級生とか、その親とか、そんなんだったんだよ。今思えば病院だって遥矢が入院してた病棟だけ虐殺事件の舞台になってるし、警察は掃除課が標的だった。な? お前関連だろ?」
「……どうでもいいけど、明紀に遥矢で呼ばれるの違和感すごいな」
僕は思わず話をそらしてしまった。
想像してしまったのだ。警察にも情報が流せて、僕にもっとも関わりが深く、僕に関わったことのある人間を殺す。そんな犯人像に合致する人物を。
そんな人物、居るわけがないだろうと思いたいところだったのだけれど、どうしても一人だけ居てしまうのだ。もしかしたら、明紀はもうとっくにそれに気付いているのかもしれない。すごく、嫌だな、と思うけれど。こんなことなら、仲間を疑っている方がいいとすら思えてしまう。
壱之瀬紗英。
僕の姉である彼女は警察官として働いている。例のごとく僕を昔から溺愛しているし、小学生の頃僕をいじめた男子集団を一人で制圧したなんてエピソードも持っている。疑うには十分な理由だ。
しかし、自分の家族を、大好きな姉を好き好んで疑う弟なんてものが存在するだろうか? いるのなら、一度お目見えしてみたいものだけれど、生憎僕はそれではない。だから、僕は姉さんを疑わないためにも本当の通り魔を探そうと誓うのだった。




