第一部 春の夜風より速く、高く‐2
家のなかには様々なものが残されたままだったけれど、あのひとは整理整頓が好きな人だった。
あとから軽い魔法的な仕掛けがあったことを知ったけれど、そのときは家の中が綺麗に、なによりも劣化が少なかったのが不思議だった。だから最初、見知らぬ何者かが侵入しているのではないかと思い家中の鍵や窓をチェックしたものだった…とはいえわたしは別にそういったことに詳しくはないから単に見ただけに過ぎなかったけれども。
ひとりぼっちで過ごすことが多かったわたしの楽しみは家のあちらこちらに保管された彼の記憶をたどることだった。きちんと整理整頓はされていたけれど、あちらこちらに分散されて未だにどこに何があるのかわからないし、まだ中身を確認していないものもたくさんあった。何よりも今は日々、様々なことが起こっていて彼の思い出をたどることは後回しになっていた。
今の冒険も楽しいけれど、それはちょっぴり気になっていた。
贅沢な悩みだけれど、わたしとあのひととは三つ歳が離れていた…わたしの方が年上でそのせいで同じ故郷ではあったけれど地区が違ったりしたこともあって、彼ときちんと出会ったのは高校生時代だった。そしてきちんとした交際をはじめたのは彼が高校を卒業をしてから、それまでは仲のよい友人の一人だった…だからこそ未だにそれまでのことを詳しくは知らないのだ。
もちろん思い出話はしていたけれど、あのひとがいなくなって、何よりもこの家で彼の思い出をたどるうちにわたしはまだ彼のことで知らないことがたくさんあったことを知ったのだ。それはべつに彼が隠していたわけではなくて、日々新しいことが起きていたからそれだけでも充分だったのだ。
でも物語が好きだった彼はたまに思い付いた話としてそれを聞かせてくれることがあった。それは亡くなる直前までそうだった。そのときのわたしは単なる創作物語だと思っていたけれど、今となってはどこまでが創作だったのか自信がない。
もしかしたらあの物語は彼が実際に体験したことなのかもしれなかった。
そして彼が残していたものと、過去の彼の冒険によって、「わたし」の冒険の日々が始まるのだった。
そのときはまだ知る由もないことだったけれども。
本当にゆったりとした文章で説明がつづきますが、もう少し辛抱していただければ幸いです。
このあたり最初のものと統合も考えています。
今の自分の実力ではのんびりとした展開なのかもどかしいところです。