第一部 春の夜風より速く、高く‐3
それは木製のしっかりした小さい箱のなかに仕舞われていた。
その日もあのひとの思い出を求めて探っていたのだけれど、彼が子供時代に使っていたと思われる学習机のなかにそれはあった。
机のなかには教科書やノートに鉛筆などの文房具にカセットテープと色々と雑多なものが詰め込まれていたけれど、そのひとつひとつがわたしにとっては大切なものだった。
性的なものもあるかしら?とちょっと悪戯っぽい気持ちで探っていたのだけれど、特にはないようだった。多分どこかにあると思うのだけれど未だにそれは見つけきれていなかった。
それはともかくとして一通り机のなかを探り、満足して部屋をあとにしようとしたのだけれど、何か感じるものがあってまたひとつひとつの引き出しのなかを確認した。
心のなかで何かが引っ掛かっていた。
それは気がつけば単純なことだった…でも、それに気がつくのが大変だった。
何度も引き出しを開け閉めしているうちにやっと違和感の理由に気がついた。それは物理的な引っ掛かりだった。
学習机には薄い引き出しとタテ三つに並んだ深い引き出しの四つの引き出しがあったけっれど、タテの方の二番目のものが他のものより微妙に引っ掛かりを感じたのだ。それは重さからくるものだった。
二番目の引き出しにはカセットテープやノートなどの文房具が入っていたけれど、どう考えてもすべて合わせてもそんなに引っ掛かるほどの重さだとは思えなかった。
そしてわたしは二番目のものを苦労しながら引き抜いた。
その下部には素材の違いからあとからつけたしたとわかる、小さな隠し引き出しがあった。
もしかしてあのひとの性的な趣味のものかしらと笑みを浮かべてしまったけれど引き出しのなかにあったのは小さな木製の箱がいくつかこれまた整頓されて置かれていた。
それぞれの箱のなかにはひとつずつ小さな水晶の珠が入っていた。
それはどれも美しい輝きを放っていたけれど同時に不吉なものを感じた。それが何かわからなかったけれど、わたしのなかにある本能がこれらは決してよいものではないと告げていた。
事実それらは邪悪なものだった。
わたしはすぐに元の場所に箱を直すと引き出しのなかに差し戻そうとした。
そのときなぜか急に力が抜けた(あとから聞いた話ではおそらく邪悪な力の影響によるもの)その衝撃で引き出しを落としそうになり慌てて力を込め直したのだけれど、隠し引き出しが勢いよく開いてそのなかのひとつが転がり落ちた。
箱は地面に落ちると同時に蓋がひらいてなかの水晶珠が飛び出した。
水晶珠は簡単に、ものすごい音をたてて砕け散った。
落ちた高さはそれほどでもなかったのに破片はいきおいよくあちらこちらに飛び散りそのうちのいくつかはわたしの手に突き刺さるほどだった。
思わずわたしは引き出しを落としてしまった。
そして…すべての水晶珠は最初と同じように粉々に砕け散っていった。
わたしはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
ただただ、何であれだけ破片が飛び散ったのか疑問に思うばかりだった。
第一部の三回目なのにまだのんびりとした展開なのですが、なんとか次回には少しアクション回に入れそうで個人的にもほっとしています。
今まで短編しか書いてこなかっただけにほぼ初めての長編への挑戦であるだけに色々となれていないことがあるのですが、お付き合いいただければ幸いです。




