表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様、その正義は許可できません。  作者: 葱市場
一章 お嬢様、それが貴族で御座います。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

第六話 お嬢様、君子危うきに近寄らずで御座います。


 アイゼンフェルト子爵家筆頭執事、セバスチャンの朝は早い。

 未だ薄暗い中起きると、まずは素早く着替えて身嗜みを整える。

 

 出来る男とは余裕がある。

 

 朝番のメイド達に矢継ぎ早に指示を与え、夜番の者達からも報告を受ける。

 特に、お嬢様の就寝時間や夜間の動向を確認し、体調管理に役立てる。

 それらが終わって初めて、セバスチャンは朝食を取り、朝の散歩も兼ねて裏庭の管理に向かう。

 到着したセバスチャンは、目の前に広がる無惨な焼け跡に愕然とした。


「……なん、だ……と」


 ――昨日まであった裏庭の雑木林は、焼失していた。



 時は遡り、深夜。

 アイゼンフェルト子爵家の屋敷裏、雑木林の中にある池では、超常の者達によって、今まさにとある公爵家の存亡を賭けた議論が進行していた。


「……処すべきと心得る」


 冷えた瞳で断言する鳥。


「……賛同致す」


 目を閉じて得心した様に述べる亀。


「でもさ、セバスチャンは無事だよ?」


 首を傾げ、不思議そうな子犬。


 三匹の内、二匹は怒っていた。

 鳥がその翼を広げ語気を強める。


「我等が想い人に手を出した。

 ……それも人間風情が戯れにぞ?」


 亀が首を縦に振り同意する。


「そうだ、許せる訳が無い」


 二匹を見ていぬっさんが質問する。


「……でもさ、セバスチャン怒らない?」


「「……」」


 いぬっさんの質問に、鳥と亀が動きを止める。


「……まぁ、軽くお仕置きする程度で良かろう」


「そうだな、軽く、あまり騒がれない様にじゃ」


 自身の言葉で態度が急変した二匹に、首を傾げる子犬。


「さっきと言ってる事違くない?」


「「子供にはわからぬ」」


「……じゃあ、セバスチャンに聞いてくる」


「「待ていっ!」」


 慌てる二匹を尻目に、元気良く駆け出す子犬。

 その様子に焦った鳥が叫ぶ。


「蔵六、何とかせいっ!」


「心得たっ!」


 亀がそう言うと、淡い緑色の光が雑木林全体を包む。


「我謹製の結界を張った。

 これであの子犬はここを出れぬ。

 よって、我らは主人には怒られぬよ」


「ようやった、蔵六。

 あとはあの若僧を捉えてしまえば、一先ず安泰ぞ」


 そう言って子犬の去った方へと飛び立つ鳥。

 手入れの行き届いた雑木林を少し飛ぶと、すぐに子犬に追い付いた鳥は、近くの枝にとまって、結界の際で穴を掘る子犬の様子を観察する。


 (……蔵六めの結界ぞ?

 我ですら正面からは破れぬ結界ぞ?

 穴を掘ったくらいで出れる訳あるまいに……)


 矢張り子供の浅知恵よと、冷笑気味に見ていた鳥の目の前でそれは起こった。

 突然、子犬の体から光が溢れると、子犬が前脚を大きく振りかぶる。


「……えいっ!」


 子犬の気の抜けた声と共に振り下ろされた前脚が結界を殴ると、大きな音と共に結界にガラスの様なヒビが入った。


「――ちょおっ!」


 目の前の事態に慌てた鳥が翼を振るうと、子犬と結界の間に炎の壁が現れた。

 それは周りの木々を巻き込んで、大きく燃え盛っていた。


「うわっ!」


 びっくりした子犬が、炎から飛び上がって距離を取ると、鳥が慌てた様子で話しかける。


「非常識にも程があろう!」


「あ、鳥のおばちゃん!」


「なっ!

 我、生まれてまだ二年ぞ?

 ぴちぴちぎゃるぞ!」


「……お魚じゃないのにぴちぴちしてる?」


「違ったらすまんが……お主、ひょっとしてアホの子かや?」


「僕はセバスチャンのお嫁さんだよ?」


「そ、それは我ぞ!」


「……いいや、我が夫故に諦めよ!」


 炎を見て、慌てて転がってきた亀が甲羅から首だけ出して叫ぶ。


「……ならば、今ここで格の違いを教えてやっても良いが?」


「……ふむ、是非も無し」


 鳥が挑発し、亀もそれに乗る。

 だが、いぬっさんは冷静だった。


「面倒だけど、僕はセバスチャンのお嫁さんだからね、おばちゃん二人にはわかって貰わないとだね」


 鳥の目が細く鋭くなる。

 亀の甲羅が薄っすらと光を帯びる。

 子犬が欠伸をする。


 ――次の瞬間。




「……おばちゃん、何か焦げ臭い!」


「……鳥のっ!

 燃えとる!」


「ぬぅわにぃぃっ!

 我の炎がっ!」


 ――雑木林が延焼していた。



 時は戻り、屋敷裏。


「一体全体、何故こんな状態になっているのです?

 ……まずは、皆さんの安否を……」


 私はこの異様な景色の中、池があったであろう場所へと走ります。

 流石に、あの三匹がどうにかなっているとは思えませんが、世の中何があるか分かりません。

 実際に、こうやって彼女達の住処が灰になったのです。

 何らかの脅威があったとみるのが自然でしょう。

 お嬢様の安全の為にも、原因の究明は急務と言えるでしょう。


「――みなさん、無事ですか!」


 私は池の近くまで急いで到着すると、そこにいるであろう彼女達に向かって叫ぶ。

 そして、私の目に飛び込んで来た景色とは……。


「……何をなさっているのですか?」


「「「……」」」


 鳥さんが地面に平伏し、亀さんといぬっさんが腹を見せて転がる光景でした。

 ――話し合いの必要性を認めます。



「何故っ!

 何故我が斯様な粗末な小屋などに?」


 鳥籠から必死に叫ぶ鳥。


「主殿!

 我が甲羅が狭いと嘆いておる!」


 小魚用の生簀に嵌って動けない亀。


「セバスチャン!

 僕を繋ぎ止めたいからって、実際に首輪と鎖で繋ぐのはやり過ぎだと思う!」


 首輪と鎖で庭木に繋がれた子犬。


 あれから話し合いという名の弁明をお聞きしましたが、終始お互いに相手が悪いと仰るので、三匹揃って反省して頂く事になりました。


 さて、私も執事として些か忙しい身の上です。

 何か聞こえますが、一旦放置して次の仕事へと向かいましょう。


 裏庭の片付けを、専属の庭師にお願いした後、今度はお嬢様の朝練へと向かいます。

 庭の開けた場所へ着くと、既にメイドの沙織と共にお嬢様が待っておいででした。


「おはよう、セバスチャン!

 今日も朝から良い天気ですわ!」


「……お嬢様、お待たせしてしまい、すみません。

 ちょっと対応が必要な案件が発生しておりました」


「セバスチャンは朝から大変ですわね?」


「いえいえ、既に問題は解決しております。

 ただ、これから数日は、屋敷裏には行かない様に願います」


「……わかったわ」


 ……これはわかっていない顔ですね。


 それから数時間後、お嬢様のお昼を無事終え、ヴィオレッタ様へと引き継いだ私は、一時の休息をとる事にします。

 自室にて、お気に入りの紅茶を嗜みつつ、過去の有名な時計職人が書いたという専門書を熟読致します。

 この作者は専門書なのに、専門用語を使わず、素人でも理解し易い様に配慮している所がとても良いと思います。


 開けた窓から午後の陽気に誘われたのか、鳥が一羽入って来ます。

 また、亀と子犬も……。

 私は無言で三匹をベッドのシーツで纏めて縛ると、そのまま窓から放り投げます。


「……良き天気ですね」


 私は一口、紅茶に口を付けると、お嬢様の授業が終わるまで、読書を続ける事に致しました。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ