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お嬢様、その正義は許可できません。  作者: 葱市場
一章 お嬢様、それが貴族で御座います。

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2/6

第二話 お嬢様、責任を取るのが上司です。


「お嬢様には困ったものです。

 ですが、あの動物を受け入れるなら、一応筋は通さねばですが……ここは相変わらずですね」


 屋敷の裏、人工的に作られた雑木林の小道を、私は慣れた足取りで歩く。

 屋敷の敷地内にある為、さほど広くはないこの雑木林には、ある特徴があった。


「今宵も、皆様お揃いですね?」


 雑木林の中程、開かれた場所にある小さな池。

 清く澄んだその池の中央にある岩場に、甲羅だけで1メートルはある大きな亀と、体の2倍はある長い尾羽を持つ大きな赤い鳥が佇んでいた。

 この二匹は共に、お嬢様が拾ってきて、そのまま居着いたものだった。


「さて、今夜は皆さんにご報告が御座います。

 お嬢様が、また新たな動物を拾われました。

 顔合わせは後日になりますが、先に伝達しておきます」


 あくまでも事務的に伝える。


 (……なぜ、この私がこんな事を――)


 私が我が身の不幸を嘆いていると、『鳥が口を開き、話しかけてきた』。


「で、主人あるじよ……その動物、我とどちらが可憐だ?

 いや、わかっておる。

 主人が我にぞっこんなのはわかっておるのだ。

 だが、我の乙女心……中々に難しい。」


 更に、『亀が鳥に文句を言う』。


 赤い鳥と亀が口喧嘩ですか……。

 

 (……私、何を見ているのでしょうね?)

 

 私は一人、達観する。

 

「いや、鳥の――

 主人どのが真に想うは我ぞ?

 主人どのの想い、まさに我が甲羅が如くだ!」


「なにを言うか、蔵六よ。

 主人の我を想い浮かれるさま、まさに我の華麗なる羽毛の如しじゃ!」


「……またですか……」


 鳥と亀のやり取りを聞きながら、私は夜空を見上げた。

 

 (そもそも、拾われたお嬢様ではなく、何故私に懐くんでしょうね……)


「「……で、新しき動物とは如何に?」」


 鳥と亀が声を揃えて問い掛ける。


「……子犬ですよ。

 ちょっと光る程度の、貴女方が気にする必要もない存在かと」


「そういう事を言っているのでは無い。

 我とどちらが魅力的かと言う――」


「私は性癖ノーマルです。

 亀や鳥や獣に欲情する変態ではありません」


「「そう照れるでない」」


「……何故、そこだけ息ぴったりなのですか……

 とにかく、後日連れて来ますので、各自勝手に判断して下さい」


 セバスチャンが少し疲れた声色で告げる。


「それもそうじゃな……

 それよりも、いつ主人は我と祝言を挙げるのだ?」


「そうだな、我との祝言の日取りも決めねばなるまい。

 なんなら二人一緒でも構わぬ。

 我らは人と違って細かい事は気にせぬからな」


「そうじゃ。

 じゃから主人は何も気にせずに、我ら二人を愛でるが良い」


「ですから、私は――」


 セバスチャンが口を挟む隙も与えず話す二匹。


「そうじゃ、蔵六よ。

 はねむぅんとやらはどうする?」


「いや、だから話を――」


「ふむ、やることヤレるならば、我はどこでも構わぬ」


「……話を――」

 

「そうじゃのう、そこが肝要よ!」


「――話を聞けぇぇえっ!」


 その夜、屋敷裏の雑木林には、夜遅くまでセバスチャンの声が響いた。


 次の日。


「今こそ魅せる、正義の一撃!」


「踏み込みが甘い!」


 気合一閃、ラティの上段からの振り下ろしを軽くいなしたセバスチャンが、そのまま軽く木刀を回すと、ラティは手にした木刀ごと地面に叩きつけられた。


「……まだまだで御座います」


 セバスチャンは、地面に転がるラティに、恭しく頭を下げながら声をかける。


「むぅ、まだまだでしたか……」

 

 ラティとセバスチャンが、いつもの様に朝稽古を庭で行っていると、屋敷の方から子犬が走ってくるのが見えた。

 その姿に目を輝かせ、ラティが嬌声をあげる。


「まあっ!

 いぬっさんが来ましたわ!」


 ラティのその言葉に、セバスチャンが一瞬だけ目を見開くと、恐る恐る質問する。

 

「……お嬢様、一応確認ですが……いぬっさんとは?」


「いぬっさんは、いぬっさんですわ。

 昨日の子犬の名前に決まっているではないですか。

 私、あれから精一杯考えましたのよ?

 いぬっさん……我ながら素晴らしい名前ですわ!」


「……お嬢様がそれで良いのなら」


 若干の呆れを含んだ感想をセバスチャンが述べていると、子犬は一切減速することなく、両手を広げるラティを素通りし、セバスチャンの前で急停止をした。


「……なんと言いますか、今更ですが、あなたも大変な方に拾われましたね?

 名前には思う所もあると思いますが……いいですか?

 ……あなたはこの方、アイゼンフェルト子爵家次期当主、ラティ・フォン・アイゼンフェルト様に拾われたのです。

 今後はラティ様の良き従者として、誠心誠意仕えるのですよ?」


「そうですわ、いぬっさんは私の可愛い従者ですのよ!」


 そう言われた子犬は、あからさまに嫌そうな顔で叫ぶ。


「……イヤです」

 

「「……喋った!?」」

 

「それよりも運命の人、私と番いになりましょう!」

 

 セバスチャンは一歩下がり、ラティは満面の笑みでうなずいた。

 

「ええ、よくってよ――」

 

 その瞬間、セバスチャンの足元に座ったいぬっさんが、ゆっくりとラティの方を見て――。


「――ぺっ!」


 唾を吐いた。


「ぬぅぅわぁあんでですのぉぉおっ!」


 その想定外の態度に叫ぶラティ。

 その姿を見ていぬっさんは再度――。


「――ぺっ!」


「……はしたないですよ」


 そうセバスチャンがいぬっさんに言うと、吐いたツバは消え去り、いぬっさんはただ足にじゃれ付き、幸せそうにしていた。



 そんな朝の一幕から数時間後。

 


「セバスチャンだけズルいですわっ!」


 ラティは荒れていた。

 

「……何がズルいかは聞きません。

 お嬢様、今はお勉強のお時間です」

 

 朝の一件からしばらく後。

 ラティは机に肘をつき、不満を隠そうともせずに口を尖らせていた。

 

「どうして、いぬっさんは私に懐きませんの……」

 

(……なんとはしたない)

 

 そのラティの様子を見て、セバスチャンが内心でため息をついた、その時――

 

「まあ、あんな名前を付けられたら、たとえ犬でも普通は懐きませんよ?

 犬ってこちらの言葉を理解しますし、理解できるなら、あの名前は黒歴史一直線ですし……」

 

 横から口を挟んだのは、メイドの沙織だった。

 

「普段は完璧なセバスチャン様も、ネーミングセンスだけは無いのですね?」

 

「……訂正致します。

 名付けはお嬢様です」

 

「「……」」


 即答するセバスチャンの一言に、沙織は一瞬固まり、目を泳がせた。

 

「さ、さすがはラティ様……大変趣のあるお名前で……」

 

「沙織、今日のおやつは抜きですわ」

 

「そんなぁ……!」

 

 涙目の沙織を横目に、セバスチャンは淡々と告げる。

 

「では、お嬢様も本日はおやつ抜きで御座います」

 

「な、なんでですの!?」

 

「沙織さんはお嬢様付きのメイド、つまりお嬢様の部下で御座います。

 部下の処遇には、主であるお嬢様も責任を負います」

 

「な、ならば撤回――」

 

「朝令暮改は貴族に有るまじき行為です。

 やるならば、看過できません」

 

「ま、まさか!」

 

 ラティは慌てて背筋を伸ばす。

 セバスチャンは一礼した。

 

「では本日のおやつは、主従共に抜きで御座います」

 

「横暴ですわぁぁあっ!」

 

「そんなぁっ!」


「蒔いた種は刈り取る。

 お嬢様には、この言葉を贈らせて頂きます。」


 澄まし顔で述べたセバスチャンにラティが叫ぶ。


「そんな農業の基本はどうでも良いですわ!

 それよりもおやつですわぁぁあっ!」


 お嬢様と沙織さんの声が屋敷に響く。

 その姿に、セバスチャンが呆れ顔で漏らした。


「……ここは本当に貴族の屋敷でしょうか」


 


 


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