第8話 犬VSクマ 北海道犬獣猟競技会を実況
北海道犬はもともとは、アイヌ民族が優秀な猟犬を選抜育成してきた犬種だ。
彼らのヒグマの狩猟方法は生身の人間が弓矢を持つスタイル。
矢尻に毒を使っていたとしても即効性がなく、ヒグマを足止めする相棒が必要になる。
それが、『セタ』と呼ばれたアイヌ犬だ。
攻撃力が高く敏捷なヒグマを足止めするため、犬は様々なステップを駆使して攻撃を躱しながら、アイヌの狩猟をサポートしてきた。
足止め方法は主に二種。
吠え止め、咬み止めといわれる。
北海道犬の獣競技大会では、これらの特性が審査される。
犬が本物のクマと対決したときの、北海道犬特有のステップや吠えを競うのだ。
参加するクマは以前はヒグマだったが、私の出場時はツキノワグマだった。
法改正や飼育の難しさなどの要因らしいと保存会の方に聞いた。
獣猟競技はこの厳重な檻に入ったクマの元に、飼い主とロングリードの犬が近づくというシンプルなものだ。
北海道犬はクマの平手を警戒して前後左右にステップを踏み、吠えてクマを足止めするような仕草を見せる。
どんな基準なのかは謎だが、審査員が点数をつけてくれる。
ヒグマの増えた昨今、北海道の田舎では、偶然ヒグマに遭うことはもはや想定内。
『自分と飼い犬がクマと出会ったとき、犬はどんな反応をするのか?』
可愛い愛犬がいざというとき自分を守ってくれるか、自分だけ逃げる犬か試したいと思うのは、私だけではないはず。
ゲスト参加したツキノワグマさんが可哀相な気もするが、本物のクマを前にした経験が番犬としての警戒心を高める。
指導教官として立ち会って貰うことには大きな意義があるのだ。
北海道大会に出場したけれど、参加者は全国から集まっていた。
獣猟競技参加者は気合いが違うのだ。
いよいよ獣猟競技が開始した!
北海道犬ならどれも勇敢に戦う素振りを見せると予想していたが……。
――――違った!!
ほとんどの犬がクマに近づくどころか、怖すぎて目も合わせられない!
途中で止まって怖ション!
ガタガタ震えて脱糞と棄権の嵐!!
これは運営委員会のお掃除が大変だあ!!
…………なんか思ってたのと違うな。
クマと戦う某犬マンガで見かけるみたいな、猛者ばかりが出るんだと思っていた。
いよいよKと私の出番。
幼犬雄部門がスタートした。
Kの猛犬ぶりは凄まじかった。
クマの進む方向へ先回りして吠え立てる。
クマが動く素振りを見せればサイドやバックへとびすさる。
さすがは天才犬だ!
かっこいいぞ、K!!
だがKは調子に乗りやすい三歳男児みたいな性格。
クマが檻に入っていて安全だと気づいて、途中でなめきった態度になってしまった。
吠えながらこちらをチラチラ意識して、笑顔で褒められ待ちしだした!!
そういうのいいから!
ちゃんと前向いて吠えなさい!
あとでおやつ買ってあげるから!!
ここで会場から思わぬ大ブーイングが。
「いいぞ犬!! 飼い主がダメだ!
飼い主、もっと犬に合わせて動けぇえ!!」
そう。
エリート猟犬の血筋のKはクマの動きに合わせ素早く先回りする。
だが、私がリードを持ってるせいでKの動きが制限されている!
野次られながらもなんとか競技が終了。
思ってた何倍もハードだった。
Kは幼犬雄部門で優勝してしまった。
甘えん坊なKは、一日中みんなにかまわれて楽しそうだった。
近所で開催されたらまた行ってみたい。
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