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4.遂に私は空を羽ばたく鳥になる


 卒業式を終え、俺は正式に“自由人”になった。

 あの式のあと、妙に現実感が薄くて――しばらくは何も考えずにぼんやりしていたが、時間が経つにつれてようやく頭が現実に追いついてきた。

 だが、その“現実”というのが問題だった。

 ダンジョンがあり、スキルがあり、人が狂い、そして“試練”が存在する世界。

 そんなものを知ってしまった以上、普通の生活に戻れるはずもない。


「……まあ、やることは変わらないか」


 小さく呟き、思考を切り替える。

 【ダンジョンの攻略とレベリング。】

 それが今の俺にできる、最優先事項だ。

 実際――レベルはすでに15まで上がっている。

 理由は単純だ。

 庭にあったダンジョンが、消えていなかったからだ。

「……普通、消えるだろ」

 思わず苦笑する。

 一度攻略したはずのダンジョンが、何事もなかったかのようにそこにある。

 違和感しかないが、今さらだ。

 この世界は、もう“そういうもの”なのだと割り切るしかない。

だが――

 「……思い出すと、マジで気持ち悪いな」

 昨日のことを思い返し、思わず顔をしかめる。

あれは、正直なところ今までで一番キツかった。



----------------------------------------------------------------



 庭に出たとき、違和感はすぐに分かった。

 空気が違う。重いというか、淀んでいるというか。そして――

「……なんでダンジョンがあるんだ?」

 ぽつりと呟く。

確かに、ここは一度攻略した場所のはずだった。

それなのに、また同じように空間が歪み、入口が 存在している。

普通に考えれば異常だ。

 だが、そのときの俺は深く考えなかった。

「……まあいいか。危険だし、壊すか」

 軽い判断だった。今思えば、あまりにも甘い。

だがそのときは、“いつものダンジョン”くらいにしか思っていなかったのだ。

 そして――足を踏み入れた瞬間、それが間違いだったと理解する。中は、明らかに異質だった。

薄暗い空間。湿った空気。

 そして、どこか生臭い――いや、腐ったような匂い。

「……っ」

思わず顔をしかめる。

 生理的に受け付けない臭いだった。

だが、引き返すという選択肢は浮かばなかった。

 ここで逃げれば、次も逃げることになる。そんな予感があったからだ。


「……怖いけど、行くしかないか」


自分に言い聞かせるように呟き、一歩踏み出す。

すると――

闇の中から、それは現れた。

グール。

内臓がむき出しになり、体液を垂らしながらこちらを見ている異形の存在。

「……うわ、マジかよ」

吐き気が込み上げる。

 今まで戦ってきたスライムやゴブリンとは、明らかに“質”が違う。

視覚的な嫌悪感が、桁違いだった。

だが――

逃げるという選択は、やはり取れなかった。

「……やるしかねえ」

歯を食いしばり、意識を集中させる。

念動力。

核を潰すイメージ。

――ぐしゃり。

鈍い音とともに、グールの体が歪む。

だが、それでも完全には止まらない。

「ちっ……!」

すぐに距離を詰め、日本刀に魔力を纏わせる。

そして――斬る。

嫌な感触。

肉を断つ手応え。

腐敗臭が一気に強くなる。

「っ……!」

 吐きそうになるのを必死でこらえながら、さらに一撃。そしてようやく――動きが止まった。

「……はぁ、はぁ……」

呼吸が荒れる。

頭がクラクラする。

 だがその直後、レベルアップの感覚が脳裏に浮かぶ。

成長はしている。確実に、強くはなっている。

それでも――


「……無理だろ、これ」


視線を落とす。

 そこにあるのは、倒したグールの死体。

 あまりにも生々しく、直視できるものではなかった。臭いも、感触も、全部が現実だった。

ゲームじゃない。

これは、本当に“戦い”だ。

「……今日はやめだ」

ボスがいる可能性も理解していたが、それ以上進む気にはなれなかった。

重い足取りで、外に出る。

庭に戻った瞬間、ようやくまともに息ができた気がした。

残ったのは、勝利の達成感ではなく――

吐き気と、強烈な不快感だけだった。



----------------------------------------------------------------



「……まあ、それでもレベルは上がったんだけどな」

現実に戻り、小さく呟く。

苦痛はあった。

だが、それ以上に“成果”もあった。

だからこそ、やめられない。

「……で、だ」

スマホを取り出す。

次に考えるべきは、今後の動きだ。

画面には、大学からの通知が表示されていた。

内容はシンプルだ。

“当面の間、登校禁止”

さらに――

“安全が確認されるまで来校しないこと”

「……来るなってことかよ」

思わず笑う。

まあ当然だろう。

この状況で通常通りの生活なんて、無理に決まっている。

世界は明らかに変わっている。

それを“精神病”として処理している時点で、すでに限界だ。

「ってことは……」

思考を巡らせる。

そして、すぐに結論が出る。

「……暇だな」

ぽつりと呟く。

普通なら最高の状況だ。

だが、今は違う。

これは――猶予だ。試練までの、準備期間。

「……強くなるしかねえ」

やることは明確だった。

レベルを上げる。スキルを鍛える。戦闘経験を積む。そして――

「……仲間、か」

一人では限界があることはすでに実感している。

 持久力や判断力それに戦術、どれも足りていない。

「……ソロは無理ゲーだな」

結論は出ていた。

だから――探す。信頼できる仲間を。

「……ネット、使うか」

スマホを操作する。

すぐに見つかったのは、“覚醒者スレ”。

中身は予想通り、カオスだった。

だが――

「……ちゃんといるな」

自分と同じ存在が、確実にいる。それだけで、少し安心する。

そして次に開いたのは、SNS。

黒歴史の詰まったアカウント。

「……うわ」

思わず顔をしかめる。

だが、背に腹は代えられない。

覚悟を決めて、投稿する。

『覚醒者募集。ダンジョン攻略できる人、連絡ください』

送信。

数秒後――通知が鳴り始めた。

「……は?」

予想以上の反応だった。

そして、その中に。

見覚えのある名前を見つける。

西 恵

「……マジかよ」

メッセージを開く。

短い一文。

だが、それだけで理解した。

「……あいつも、か」

同じ“側”の人間。

そう考えると、妙に納得できた。

やり取りを重ね、状況を確認する。

どうやら、西も戦えているらしい。

「……頼もしいな」

自然と、笑みがこぼれる。

さらに数人、まともそうな相手も見つかった。

「……よし」

決断する。

「一度、会ってみるか」

来週。顔合わせ、不安はある。

だが――

「やるしかねえよな」

立ち止まる理由はない。

試練は、もう始まっている。

そして俺は――

その中で、生き残るために進むしかない。




仲間一覧


 -俺

 -恵

 -?1

 -?2

 -?3

 -?4

 -?5

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