第九話 裏
いきなり、大規模修正するとは思わんかったわ……
※なろう運営からの警告によって一部分黒塗り措置を施しています。
「知ってるか? 誰にでも最適な物件を紹介してくれる不動産屋があるってよ」
「へぇ、面白い。何処にあるんだ?」
ここ最近、魔物の間で広がる噂だ。
国を強大に栄させたアーエール王は、国民から絶大な支持を得ていた。しかしこの国には裏があった。アーエール王は気に入らない人間がいれば、王国に飼い慣らせた魔物を使って襲撃させ、不慮の事故として処理してきたのだ。
ゼティアは王直系の娘ゆえ、国王の裏の力も自由に使うことができた。そして王国付きの魔物に、屋敷へ呼び込ませるよう噂を流布させていたのだ。前回に引き続き、今回のターゲットもゴブリンになりそうだ。
ゼティアは情報を受け取ると、当該ゴブリンの身辺を調査させ、財産の差し押さえをフォルグに命じた。
後は、ターゲットのゴブリンが屋敷に来るのを待つのみだ。
「こんな場所に、不動産屋があるとはナァ」
ちょうど手狭になった巣を、大きくしたいと思っていたその矢先、ゴブリンは不動産屋の噂を聞いたのだ。
ギギギ……と、扉を開く音。
「あら、いらっしゃい。待ってたわ」
部屋の奥から現れたのは、令嬢ゼティア。
「ハハハ! マジか。ここの店主は人間の女か。こりゃ傑作なんだナァ」
「なにかおかしい事でも?」
「いや、てっきり魔物が出てくるのかと思ってナァ。しかもお前、ゴブリンの言葉が理解できるのナァ」
「そんな事を言いに此処にいらっしゃったの? 違うでしょう?」
「そうだったナァ。俺は巣を構え、子を作りたい。良い物件を紹介して欲しいんだナァ」
「ご予算は?」
「はぁ? 予算? 人間に払うもんは何も無ぇナァ!」
――これだからゴブリンは嫌いだ。
ゼティアは思った。このくだり、何回やるのか? 毎回違うゴブリンのはずなのに大凡の展開は毎回同じだ。どうせまた私に襲いかかるのだろう。フォルグに任せておけば、自分に被害が及ぶ事は無い。
「ひ、ひぃぃいい! 勘弁して欲しいんだナァ!」
――ほら、結局こうなる。
ゴブリンはフォルグにボコボコにされた後、財産の全てをゼティアへ支払う事を同意させられる。その後、令嬢と共に内見へ出発したゴブリンは、物件を見るなり感嘆の声を上げた。
「っほ〜ん。こりゃあ〜確かにいい巣だナァ」
「気に入って頂けたようね」
ゼティアが紹介するその巣は前回も紹介した物件だった。洞穴は綺麗に清掃されていて、まさかゴブリンバスターに殲滅された曰く付きの物件だとは気づかない。
それは今回だけの話ではなかった。その前も、その前の前も。ゼティアは代々ゴブリンに、この物件を紹介し続けてきたのだ。
「ああ、これなら今すぐにでも引っ越したいんだナァ」
「でも一つ約束して欲しいの。この物件を使い続ける限り、決して人間とその家畜を襲わぬと」
「ナァんだと?」
財産を奪い、そして人間を襲う欲望を制止する。それは、人間を守るため、果ては悪役令嬢の悪行を抑止して断罪されないよう……なんて小細工の為では無い。
種を増やすことしか能のないゴブリンは、その内追い込まれて人間を襲う。ゼティアはそれを狙っていた。制限するほどにゴブリンは残虐性を増すのだ。
「簡単でしょ?」
「お断りだナァ。████████████████が出来るんだナァ」
流石のゴブリンも最大の目的である『種の繁栄』が完全に塞がれてしまっては、反発しか覚えない。そこでちょっとした飴を与えるのだ。そうすると簡単にこの条件を飲む。目先の問題解決しか見えていない。つまりゴブリンは馬鹿なのだ。
「そう言うと思いましたわ。そこで、ご紹介したい方がいらっしゃるの」
ゼティアはそう言うと「パン」と手を叩き雌ゴブリンを呼ぶ。
「ナ……!?」
「イヒヒ、驚くのも無理はないわ」
「あ……ありえない。雌ゴブリンなんて見たこと無いんだナァ」
このゴブリンの言う通り、この世界に雌ゴブリンは存在しない。ではゼティアは如何にして雌ゴブリンを用意したのか。
雌ゴブリンは、ゼティアを離れ雄に近づく。
(おい! 助けてくれ!)
何かを必死に訴えるも、声が酷く嗄れて上手く伝わらない。それもその筈、喋られないように声帯が傷つけられているのだ。
「あら、おアツいこと」
「ほーぅ。これは期待できるナァ。色々と」
(違う! 何を言ってるんだ。俺は体を雌に改造されているだけで、雄だギャ! この女は……コイツは悪魔ギャ!)
ゴブリンは██████████ことができる。それには雌も雄も関係ないのだ。例え██████████元雄のガルムだったとしても同じことだ。
「さあ、来い。早速子作りをするんだナァ」
雄ゴブリンは、ガルムの腕を荒々しく掴み苗床へ連れ込む。
(い、嫌だ! 待ってくれ! ██になるなら死んだ方がマシだ! やめろ! やめてくれぇぇえええええ!)
「イヒヒヒ。私はこれで失礼いたしますわ。御機嫌よう」
ゼティアは特殊な能力などは備わっていない只の女性だ。しかし、早希だった時の記憶と、与えられた環境をフルに活用して計画を実行する。
「ほら早希。この展開前回までと同じだよ? このままじゃあ、また悪評が広がってしまうかも。断罪されるとおしまいだ」
フォルグの嘆きも早希にとってはなんのその。
令嬢は午後のティータイムを始める。それは彼女にとって大切な時間なのだ。今日の紅茶は『ヒュードル』。アーエール北部にあるヒュードル山系に産する紅茶だ。紅茶を少し飲んでから、令嬢は答えた。
「いいのいいの! これも私の計画の内なんだから……」
「その計画、僕にも教えてくれればいいのに」
「イヒヒヒ。ヤダよ!」
ちょっと戯けて否定してみせる。だが早希はフォルグに計画を絶対に教えないと決めていた。仮に彼が計画を否定して、協力してくれなかったとすると全てが破綻してしまう。彼はそれほど重要な役割りを担っているからだ。それと、フォルグに引かれて嫌われたくない……という乙女ゴコロも少し入っていた。
「フォルきゅんは、私の事信じられないの? 近衛兵なら忠誠を誓ってみてよ」
「ふぅ。わかったよ……」
フォルグは観念したかのように、ゴホンと咳払いをして、跪く。
「忠誠を誓います。ゼティア様」
「だーめだよ! 早希様と呼んで!」
「分かりました。あなたを信じます。早希様」
「よろしい……ぷっ! イヒヒヒ。真面目顔のフォルきゅん可愛い!」
「あー! ちょっと真剣にやってんのに! 茶化さないで、恥ずかしいだろ!」
「イヒヒヒ。ごめんごめん。でもね、フォルきゅん」
目に涙を浮かべるほど笑った早希は、それを拭いながらフォルグに告げる。
「断罪イベントなんか、どうって事ないんだから!」
悪役令嬢は破滅エンドを恐れない。
とりあえずゴブリン編はこれで終わります。
3ヶ月以内には次話投稿できれば……と思います。
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