突然すぎて
ギリギリセーフといっていいのだろうか。俺はお兄さん方の洗礼を受けたせいで学校に到着するのがとても遅れた。式中に俺はひっそりと体育館に登場し、知りもしない校歌を歌い、最後に礼をしたのだった。
「隣に人がいなくてめっちゃ気になってたんだけど、なんかあったの。」
と、ご親切に校長の長話という退屈な時間に話し相手になってくれたやつがいた。そいつの名前は舞原麻衣。県外に住んでいたらしく、高校に入学するのと同時に引っ越してきたらしい。そのため、周りに知り合いがおらず、話すきっかけがあった俺に話しかけたというわけだ。
俺は丁重に名を名乗って、俺が遅れてきた理由を手短に説明した。すると、
「この辺、怖い人が多いことで有名らしいよ。」
「全然、知らなかった。帰り道は警戒しなければ、また襲われるな。」
俺は冗談交じりに言ったつもりだが、実際もう勘弁だ。
「じゃあ、今日一緒に帰ろうよ。」
うん。それナイスアイデア、ってうぉぉい。ナチュラルすぎるだろ。最近の女子ってこんなにも自然に何の抵抗もなく、初めて会った男と帰るのか。
「お、おう。よろしくな。」
「うん。」
ということで今日はれでぃとの帰宅だ。心して臨むように。俺の心の中の恋愛師範さんが話しかけてきた。というか、誰だお前。最近の男子高校生の心の中にはこんなやつが現れるのか。要するにすべての景色が新鮮だったわけだ。女子と話した、というか同い年の人間と話したのは何年ぶりだろうか。
といったことで入学式はあっという間に終了した。その後は、これからの一年間過ごす予定の教室で、一年間面倒を見てくれる担任の先生の紹介があった。まあ、これといった特徴がない、ぱっとしない教師だった。初日はこれといった試練はなく、自己紹介は翌日に行うらしい。俺からしたら助かる話だ。今日みたいなハチャメチャドッキドキみたいな日は、はたく帰って、家のソファーで寝るのが一番だ。
いや待て、俺はこれからハチャメチャドッキドキなのだった。女子との帰り道。俺の試練はこれから始まるのだ。この試練をクリアして俺は成長していくんだ。そうだ、その志こそ恋愛上達への近道だ。と何とか師範がまた何か言ったが、無視しておこう。俺は、お前と話している暇などない。
「舞原さん、帰ろうか。」
「あっ、うん。今行く。」
よく見るとかなりかわいい。顔面偏差値80後半といっても過言ではない。なんて俺は運がいいんだ。
「じゃ、いこっか。」
俺たち二人は学校を出た。俺は舞原さんの会話の相手をしながら周りを警戒するという元ボッチとは思わせないスペックを発揮していた。
俺はとりとめのない会話を続けていった。日も暮れそうで、夕日が明るく照らしてくれているようだった。
突然のことだった。人気のない路地に舞原さんは俺を連れ込んだのだ。俺は当然、驚いていた。しかし、俺が驚いたのは舞原さんが俺を急に路地に連れ込んだということではない。そんなことよりも舞原さんが俺の腕をがっしりつかんだことに多大な衝撃を受けた。なんだこの柔らかさは。
そしてさらに思いがけない一言を放ったのだった。
「悪魔に気をつけて。」
俺は何も反応できなかった。というよりかは何を言ったのか理解できなかった。
「ここでは詳しく話せない。また話すね。」
俺はとりあえず首を縦に振った。
「今日はありがとう。また明日会おうね。とおるくん。」
彼女は、そっと呟くように俺の耳元でそう言って、離れて行った。俺はその状況を理解できず、ただ呆然とそこに立ちつくした。
悪魔とは一体。というか彼女はいったい何者なんだ。クエスチョンマークの連続攻撃に俺の頭が耐えられるわけがないので、考えることはやめた。
「とおるくんか。」
俺はそのことで頭がいっぱいになった。気づいたら、もう家の前にいて、夕食のにおいが俺の引き締まられていた緊張感を一気に緩めた。
最近、家で飼っているグッピーの子供たちがすっかり大きくなったことに気づかされました。




