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男爵令嬢が王家に嫁ぐ?現状無理だってわかってるけどなんとかしないと明るい未来はやってこない!

「だ、大丈夫ですか!?」

蹲ってシクシク泣く私に神官長が慌てて祭壇から私の元に駆け寄る。

そして片膝をついて背中をさすってくれた。

予想よりいい奴じゃないか。

私はゆっくりと顔を上げた。

「!」

彼の目が驚愕に彩られる。

なんでそこで驚くのか。

嘘泣きかとでも思ったか。

悪いがマジ泣きだ。

「あ…っと…」

彼が言葉を詰まらせる。

彼の親指が私の目元を拭って…


「何をしていらっしゃるのですか?」


寒々しい声が大聖堂に響いた。


ばっと凄い勢いで立ち上がり離れる神官長。

つかつかつかと粗々しく足音を響かせて馬車で待たせていたはずのスチュワートが近づいてくる。

「いや、これは…」

スチュワートが神官長と私の間に立った。

「何をなさっていたのです?」

再度詰問する。

神官長は私に救いを求めて視線を送る。

「どこを見ている?」

それがまたスチュワートの逆鱗に触れた。

彼の声がキンキン煩い。

私は己の不運を嘆くことさえできないのか。

段々と苛々してきた。

スチュワートがさらに何か言おうと口を開いたが私は立ち上がり被せるように彼の名を呼ぶ。

「スチュワート!」

「は」

すぐに一歩下がり私に頭を下げる。

「私は貴方に馬車で待てと命じたはず。なのに何故ここにいる?」

「お戻りが遅く様子を伺いに参りました。」

「勝手な真似をするな!」

容赦なく叱責する。

そして、彼を舐めるように見る。

見てはならないものを見た感じはない…か?

普段通りの無表情からは何一つとして読み取れなかった。

私達が気づかなかっただけで、最初から見ていた可能性も否定しきれない。

馬車で待つよう命じたが本当に遂行したかは怪しいのだ。

私達に悟られないようどこかでこっそり監視していた可能性も否定しきれない。

そして見ていたからこそ、私と神官長の距離が近づいた時に割って入れたのではなかろうか。

あくまで推測ではあるが。

いや、泣いて蹲った時に入ってもよかったのだから、それをしなかったということは、やはり偶々なのかもしれない。

「神官長。」

「は」

呼ばれて返事はするがこちらは頭を下げたりはしない。

「また明日朝一で参ります。

その際、話せる場所を用意しておきなさい。

今回みたく邪魔の入らないよう細心の注意を払っておくように。」

「貴女の手の者の失態を私がカバーせよと?」

「今後長い付き合いになるのですから、接待場所くらい用意なさい。」

「はいはい。」

神官長の軽い返事に一瞬眼を釣り上げるスチュワート。

「行くわよ」

「は」

言って私は踵を返し大聖堂を後にした。


帰りの馬車の中。

馬車が走りだした途端、スチュワートは口火を切った。

「お嬢様、一体何があったのですか?」

「特に何も。」

「嘘を仰らないでいただきたい。

お嬢様がお泣きになられるなど余程の事。

あの男は一体どれ程公爵令嬢たる貴女様に無礼を働いたのですか?」

「煩い」

私は即座に切り捨てる。

「しかし…」

「煩い、同じことを二度言わせるな。

それにお前の失態が消えたと思うなよ?」

ジロリと私はスチュワートを睨む。

小娘がいくら凄んでも怖くないのだろう、彼は全く動じたふうではない。

「ご命令を無視したのは申し訳ありませんでした。

しかし、お帰りが遅かったのもまた事実。

何事かに巻き込まれ…あるいはあの神官長に手篭めにされている可能性も否定しきれずあのような暴挙に出てしまいました。」

「無能が。」

私は吐き捨てるように言う。

子供じゃないんだからたかだか少し話し込んだだけで様子を見に来るなんてやめて欲しい。

と、いうか、私が手篭めって…あ、そうか。

「貴方、私が神官長に無体を働いていると思ったわね?」

私の問いに彼の表情が初めて僅かに揺らぐ。

すぐに戻るほど小さな揺らめきではあったが私は見逃さなかった。

神官長が私を手篭めにするなんて天地がひっくり返ってもあり得ない事なのはスチュワート自身がよくわかっている筈。

なのに、なんでそんなことを言い出したかといえば、馬鹿正直にお前がなんかやらかしていると思ったから止めに来たなどと雇い主の娘に言えなかったからだ。

「阿呆らしい。」

私は再度吐き捨てるように言った。

「大人しくマテも出来ないとは犬にも劣るな、スチュワート。」

スチュワートは項垂れることなく真っ直ぐに私を見据えてくる。

「罰を…」

言って馬車の椅子から降りて膝をつこうとするがそれを制する。

「いらない。」

「………は?」

かつて私が失態を犯した彼に罰を与えなかった事があるだろうか?

勿論ない。失態を犯さなくても気分次第で鞭をくれてやっていたのだ。

「お前には失望したよ、スチュワート。

お前にくれてやる鞭すら惜しい」

それだけ言うと私は目を閉じた。

疲れたのだ、馬車の揺らぎに身を任せ少し微睡みたかったのだ…。


だから私は知らない。

閉ざされた瞳の先でスチュワートがどんな表情をしていたかなんて。



「お嬢様、到着しました。」

夢を見る直前でスチュワートの声がかかり意識が浮上する。

目を開ければいつもの無表情なスチュワート。

ああ、着いたのか。

私は立ち上がる。

馬車から降りる時、スチュワートが手を差し出してきたので、それを支えに降りた。

手はすぐに離し、屋敷に入る。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

屋敷総出での出迎えだ。

それなりの人数が働いているので圧巻である。

私は帽子を適当なメイドに預ける。

「夕飯は?」

後回しにしていた夕飯について問いかける。

「は、お嬢様は三日眠られており、胃腸が未だ不完全と思われますので、まずは軽い粥とスープを用意させております。」

そう答えたのは執事の一人セバスだ。

我が家は広い。

メイドも一山幾らなレベルでいるが執事だってまた複数いるのだ。

正確に言えば二人。

一人はスチュワート、もう一人がセバスだ。

セバスの方が年上であり、初老の域に達したベテランだ。

彼は主にお父様専属として働いており、メイド統括、私の世話などの雑務はスチュワートの仕事だ。

従って今の問いかけはスチュワートにしたものであった。

少なくても私はそのつもりだった。

しかし、それに答えたのはセバスであった。

それに少しばかり私は驚く。

しかし、極力平静を装い軽く頷く。

「そう、すぐに行くわ。」

私は言葉をかけて食堂へと行く。

私の後に続くのはセバスだった。

「?」

はて、なんでスチュワートが着いてこないのだろうか。

遂に職場放棄か。

私は鼻で笑って自身の席に着く。

すぐにメイドにより給仕される。

スープ皿に注がれる熱いスープ。

私はスプーンで掬って口に流し込む。

我が家は優秀なコックを雇っている。

満足出来る最高の一皿だ。

口元を笑顔に歪めて私はさらに食べ進める。

「…お嬢様」

「何?」

スープを飲み干したところでセバスから声がかかる。

「スチュワートの事で御座います」

「ああ…」

私はグラスに注がれた冷たいお茶を飲みながらセバスの出方を伺う。

「スチュワートの失態は使用人筆頭たるこの私の不徳の致すところでもあります。

何卒寛大な処置を。」

深々と頭を下げてくるセバス。

私はそんな彼を見下ろす。


………何言ってるんだ?

私は視線を少し動かして考える。


十中八九彼は神殿でのスチュワートの失態について言っているのだろう。

でも、正直いつもの事だと思ってる。

別にセバスが頭を下げるような話ではない。

確かに自分が仕えている人間が他人に無体を働くという前提で動くのはどうかと思うけど、自分の過去を振り返れば当然とも言えるのだ。

もう、終わったことだしどうでもいい。

セバスのように毒にも薬にもならない優秀な執事でさえも私には関わらないで欲しいと思う。

本格的に人嫌いになってしまったようだ。

「どうでもいいわ。」

私の真意を測りかねたような顔をする。

「興味がないわ。」

「……そうですか。」

タイミングを見計らったように皿に粥がよそわれた。

スプーンで掬って口に入れる。

うん、絶妙な塩加減。美味しい。

「一度お伺いしたいと思っていたのですが…」

「何?」

少し不機嫌になる。

食事の手を止めねばならないことに。

「ご結婚の際、我が家からはどの程度使用人を引き抜いていかれるおつもりなのでしょうか。

旦那様はお嬢様に一任するとおっしゃっておりましたが…」

言われて私は少し考える。

予定通り結婚するならそれは二年後。

学園卒業後の話だ。

「随分先の話ね。」

「もうすぐで御座います。準備がありますので。」

「準備?……ああ。」

何人抜けるかわからないままでは新しい使用人をどれだけ新規採用しなくてはならないのかがわからない。

それに雇ったばかりの人間が即戦力とは必ずしもならない。

ある程度の教育と引き継ぎが必要になる。

その時間を考えれば確かに二年は短いかもしれない。

だが。

「それは無用よ。」

「は?」

「我が家からは誰も連れていく予定はないわ。」

「そ、それは!?」

使用人筆頭とは思えぬ慌てぶりをセバスは見せる。

そんなに喜ばなくてもいいだろう。

新規採用、教育の手間暇はなくなりまた、私に引き抜かれる哀れな生贄もいない。

素晴らしい話ではないか。

………まあ、予定通り嫁げばだけどね。

事実上婚約は破綻しているから引き抜きもクソもないだけなんだけどね。

まだ本決まりではないから言えないだけで。

「ス、スチ…」

「その話は終わりよ。」

私は口元をナフキンで拭う。

「貴方の話は退屈だわ。そんな話しか出来ないなら黙りなさい。」

「…はい」

セバスは以降口を開くことはなかった。



食事を終え部屋に戻りメイドに手伝って貰いながら服を脱ぐ。

「お風呂に入るわ」

「畏まりました。」

既に準備は整っているのだろう、本日二度目となるがバスルームへ向かう。

シャワーを浴びて湯船に浸かる。

先程入ったお湯はとうの昔に捨てられて綺麗なお湯に入れ替わっている。

ラベンダーオイルを数滴垂らしてリラックス効果を高める。

暫し、何も考えずラベンダーの香りを楽しむ。

今日は本当色々あった。

濃すぎるくらいだった。

だがどれも後回しには出来ない案件だった。

後悔はしていない。


ただ、疲れたのだ。


特に最後。

なに、あのハイスペック。


オーバーキルでしょうに…。

全属性プラス未発見属性?

二種類の加護持ち?

勘弁してくれ。


ぶくぶくぶく…と沈んでみる。


考えれば考えるほどおかしいだろう。

何かの手違いじゃなかろうか。

しかも加護。

なーーーーんでしれっとこいつらは私を加護しているのか。

意味がわからない。

実際に魔法を使ってみれば未発見属性がなんなのかとか、加護がどのように働くかとか全てわかるだろう。

しかし、魔法を使えば面倒な事になるに違いない。

私は絶対に魔法なんて使わないでおく。

魔力のコントロールを学ぶうえで魔法が使える旨の報告は諦めるが使用するかどうかの裁量は私に任されるはずだ。



…ん?


はたと私はある事を疑問に思う。


魔法使いになることで価値のあがった私を王家は手放すだろうか……?


答え

手放さない


「うわ!」

私の意識は一気に浮上する。

沈んでリラックスしてる場合じゃない!!


そうじゃなくても現状私はランバルトの婚約者なのだ!

既に手中にある宝を王家が手放すか?

それも取り替えっこしたいものはそこらの小石。

ダイヤモンドと小石を取り替える阿保はいない。


「まずい!非常にまずい!!」

私は頭を抱える。

なんとかしなくては!


でもどうする?

魔法が使える旨は報告しない?

いや、魔力コントロールが出来なければ遅かれ早かれ魔力が暴走して死んでしまう可能性が出てくる。

それは最も回避しなくてはならない最悪の事態。

私の価値は下げる事が出来ない。


「あー。どうしよう!ランバルトとアリスの結婚を王家に認めさせる方法…」

言ってみてなんだが、私が魔法使いでなくても女子供向けの恋愛小説じゃあるまいしある訳ないのだ。

あまりに彼女の価値が低すぎる。

男爵令嬢という下級貴族出身というのも致命的だが市井の出というのが最も痛い。

王家は血統を重んじる傾向が強い。

そこに貴族の青い血が半分しか流れていない彼女が嫁げるかと言えば答えはノーだ。

王家に嫁ぐ人間は事前に血統と家柄を調べに調べて議会を経て決められる。

半分平民の下級貴族の家柄の彼女では議会のテーブルの上にさえ登らないだろう。

これで彼女が優秀な頭脳の持ち主とかならまだ救いはあった。

しかし、学園での彼女を冷静にみれば頭は悪くないようだがそもそも基本的な教育を受けていないように見受けられた。

彼女は入学当初文字の読み書きが出来なかった。

計算も単純な四則計算さえ間違える始末。

貴族必須の礼儀作法なんてぐちゃぐちゃで入学から一年経った今でも嘲笑の的だ。

どう贔屓目にみても無理だ。

卒業まで後二年時間があるが、正直たった二年たらずで王家に嫁げるレベルに仕立てるのは不可能に等しい。

そうでなくても無理なのに対抗馬の私の価値がまた一段あがれば二人の婚姻が成り立つ可能性は完全に無くなる。

仮になんらかの奇跡が起こって嫁いだとしても周りの貴族から馬鹿にされる未来しか見えない。

学園に通わない選択をする貴族も多いし、同世代以外の貴族は二人の馴れ初めなんてよく知らない。

馬鹿にする貴族は彼らが想像する以上に多いと思うし、多分味方の方が少ない。

その味方も長いものに巻かれていけばやがて王といえども孤立するだろう。

場合によっては二人の婚姻が原因で王家と貴族が対立し内紛にまで発展する可能性も秘めているのだ。

まさに二人の婚姻は百害あって一利なし。

私が王様なら即座にそう判断する。

あまりに二人が真剣に訴えるようならば、これ以上二人を側には置けぬと引き離してさらには私と王子の婚姻も早めるという暴挙に出るだろう。


「やばい!やばい未来しか見えない!」

考えれば考えるほど最悪だ。

このままでは私の希望がなに一つ叶わないという最悪な状況となってしまう!

だが、どうにもならない。

私の価値が下げられないならアリスの価値をあげなくてはならないが二年死ぬ気で頑張っても私とアリスの差は埋まらないように思える。

「諦めるな、私!諦めたらそこで試合終了だ!」

私は自分を鼓舞する。

なんとしてでも二人をくっつけなくてはならない。

アリスが嫁げば私の希望二つが同時に叶う。

王妃にならずに済むし、王妃になった彼女は忙しいから友達とのんびり会ってお茶する暇などないはずだ。

つまりおのずと疎遠になれるはず!

なんとしてでもくっつけなくては!

「まずは簡単なところから手をつけるべき…」

時間がかからず結果が出るところから手をつけるべきだ。

まずは下級貴族の出を変えてしまう。

これは比較的簡単に処置できる。

男爵令嬢から…そうだな伯爵令嬢へと変えるのはどうだ?

男爵出身が王家に嫁ぐに不十分なら伯爵家に養子に行けばいい。

実に簡単な話だ。

早急に探すべきだ。

正直伯爵家でも弱い。もうひと段落あげたいが、さすがに男爵令嬢を受け入れてくれるような家はないだろう。

伯爵家なら探せば受け入れてくれるかもしれない。

次は礼儀作法。

せめて社交界で恥をかかないレベルにまで引き上げたい。

国内の内輪パーティなら多少の失敗も微笑ましいで納得出来るが他国も関わる外交パーティはそうもいかない。

王妃の失態は国の失態。

王の顔に泥を塗るし、共に出席した貴族も巻き込まれて恥をかく。

一度や二度ならまだしも続くようなら侮られて国が得るはずの利益を横から掻っ攫われる。

今からでも遅くないから王城に放り込んで王妃教育を受けるべきだ。

私もやった…というか現在進行系でやってるが優秀な教育係が揃ってる。

彼らにしごいて貰えばなんとかなる気もする。

そこまでやってもまだ私の足元にも彼女は追いつかない。

足りないぶんは熱意と愛情で説き伏せて貰わねばなるまい。

或いは私の悪評判をこのまま維持、寧ろ向上させていけば…!

いける!いける!!いけるかな?なんて弱気ではダメだ!

いけると思い込んでいくのだ!!


私はざばっと湯船から立ち上がりぐっと拳を握るのだった。



お風呂から出た私はメイドにネグリジェを着せてもらい部屋へと行く。

もう疲れた。

私は病み上がりなのだ。

さっさと寝るに限る。

しかし、それを許さないかのように部屋にスチュワートがいた。

ドアを開けたら無表情で幽鬼のように立っているものだからちょっと本気で驚いた。

「うわっ!ってなんだスチュワートか。

貴方を呼んだ覚えはないのだけれど?」

「はい、呼ばれておりませんので。」

「呼ばれてもいない主人の部屋で何をしているの?」

さっさと寝ようと思っていたのに邪魔されて苛つく。

私は彼を押して部屋の中へと入る。

「申し訳ありません、しかし、どうしてもお伺いしなくてはならない事がございまして。」

「何よ?私の睡眠時間を削る価値ある質問なんでしょうね?」

私は言いながらベッドへと潜り込む。

枕に頭を預けて最早寝る気満々だ。

「セバスより婚姻の際に当家からは使用人を誰も連れてはいかないと伺いましてその真意をお聞かせ願いたく思いご迷惑と重々承知でお部屋で待たせて頂きました。」

言われて私は眉をひそめる。

真意も何もそもそも嫁ぐ予定がないのだ。

連れてく場所は特にない。

とはいえ、まだ内々の話なのだ。

使用人風情に話せる段階ではない。

「言葉通り、誰も連れて行かないわ。」

「何故かお伺いしても?」

「結婚後も使いたいと思えるような使用人は当家にはいない」

「それは私もでしょうか?」

使用人にもプライドというものがある。

それは長く勤めたものほど、苦労したものほど高いらしい。

それが本当なら彼のプライドはそこらの山より高いだろう。

彼が我が家にやってきて10年。

よりよにもよってこの私に10年仕えたのだ。

その結果が役立たず判定では救えない。

だが、私に仕える使用人にとって今回の私の言葉は福音だ。

最高のご褒美だろう。

「当然でしょ?」

何を聞いているのかと不思議そうに私は言ってあげる。

「安心して、結婚するまではたっぷりコキ使ってあげるから。」

にっこりと微笑み私は不幸の宣告をする。

一生結婚出来そうもない私は一生彼をおもちゃとして扱うという宣告だ。

それに気づいた時の彼の絶望した顔が見てみたい。

普段表情が変わらない彼だがさすがにその瞬間は変わるだろう。

私は話は終わりと目を閉じた。

しかし。

「私は役に立ちます!」

悲鳴のような声に驚いて私は目を開けた。

そこにはやはり無表情なスチュワート。

…今の声はスチュワートだよね?

聞き間違い?

「………役に立ってみせます……

ですから、どうかお嬢様に付き従う許可を…」

「無礼者」

私はむくりと起き上がる。

「誰に物を頼んでいるかわかる?」

「………リナリードナー様です。」

「そう!公爵家の令嬢に一介の執事風情が頼み事など偉くなったものね?」

「わかっております。罰なら幾らでもお受けします。

ですからどうか…」

「今日犬以下だった自分を忘れてしまったの?」

「…!」

「口ではなんとでも言えるわ。でもマテすらできない使用人など連れてはいけない。

わかるでしょう?」

「どうかチャンスを…!名誉挽回のチャンスをください!」

追いすがるようにスチュワートは言う。

見た目は何も変わらない無表情なのに言葉には感情が篭るというチグハグさを生み出していた。

このまま追い出そうかと思った。

でも、このまま追い出してもまた明日同じ事を言い出すかもしれない。

セバスも口を挟んでくるかもしれない。

更にはお父様も何か言ってくるかもしれない。

お父様はお人形だけど我が家の当主なのだから使用人の問題解決には力を尽くさなくてはならないだろう。

その一環として呼び出しくらえば無下には出来ない。

結局一番面倒を減らせるのは今何かしらの指令を与えることか。

ならば…

「わかったわ、貴方の熱意に免じてチャンスを与えましょう。」

「ありがとうございます!」

「貴方には探し物をして貰いたいの。」

「探し物ですか?」

「ええ、とある男爵令嬢と養子縁組をしてもよいと言ってくれる伯爵家以上の貴族よ。」

「それは…」

何か言いたげなスチュワートを手で制する。

「詮索は無用。貴方はただ探せばいいの。」

「畏まりました。ただ無償で養子にしてくれる貴族はいないと思います」

「お金なら勿論用意するわ。まずは相手の希望をよく聞いて。

交渉はこちらでやるわ」

「畏まりました。期限は?」

「早ければ早いほど貴方の評価が高まるとだけ言うわ。」

「……!必ずご期待にそう結果を出してご覧にいれます。」

「そう?なら頼んだわ。あと、明日朝一で神殿に行くから準備をよろしく。」

「明日は学園が…」

サボるに決まってる。

「午後から行くわ。」

「しかし…」

「いい、スチュワート?私は三日も眠っていてまだ本調子ではないの。

だから学園に行く前に神殿で治癒して貰う。

何か問題があって?」

「………いえ」

「わかればいいの。それでは明日はよろしく。」

言って私は目を閉じて夢の世界へと旅立ったのだった。









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