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王都帰還

生まれた…!

先程まで敵同士であったのにいつの間にか生まれた連帯感。

一緒になってよかったと喜んでいるのは紛うことなきモンスターだが、意思疎通が可能というだけでこうも仲間意識がうまれるのか。

『ははさま、だいじょうぶか』

『だいじょぶか』

『いもうと、このままでよい?』

コボルト達が女型モンスターに問いかける。

女型モンスターは赤子を口から吐き出すと、すぐに普通のほっそりとした女性型へと変貌する。

口も人と変わらぬ位置に変わらぬ大きさで存在し、目も鼻も復活する。

あまりに人間と変わらなさすぎて、衣服を纏っていないのが妙に気恥ずかしい。

……しかし、そう思うのもつかの間、女型モンスターはゆっくりと老いていく。

ゆっくりといっても人間の老いを考えれば急速ともいえる老いは異常であった。

「何!?」

私は誰にともなく問いかける。

そう問いかけているうちにも女型モンスターはどんどん老いていき、瑞々しかった裸体は浅黒い枯れ木のような体へと成り果て、顔も老婆そのものへと変化してしまう。

茫然としていると、女型モンスターはケタケタと笑い出した。

「驚いたか?」

「そりゃ、ねぇ。」

一体何が起きたのか?

「娘を産むのに力を使い果たしたのだ。

これより先、さらに娘を育てる為、私の力は更に搾り取られていく。」

うわぁ…。

まじか、出産、育児ってそんなに大変なのか。

「回復用にと貯蔵していた人間の死体も使い果たしたし、はてさてどこまで赤子を育てられるか。

まあ、この命を余すことなく注げば、独り立ちまでいくだろう。

もう、次の出産はないなぁ。」

揺りかごでいつの間にか寝てしまった生まれたばかりの赤子を見る。

これまた、銀髪の人間の子供となんら変わらないようにも見えるが地味に発光しており自身がモンスターだと主張している。

「……独り立ち?…もしや、この赤子光の妖精ですか?」

「………ほう、わかるか?」

女型モンスターはニヤリと笑った。

「光の妖精って…」

ふと白ローブを思う。

そういえば、アレどうした?

えーっと、この女型モンスターが待ってて、いつの間にかなくなっていたような。

「あれは娘の羽を使った物故、返して貰いたい。」

ふわりと白ローブが空中に現れ女型モンスターの手に落ちる。

「そこをなんとか!」

あれがないと私死ぬ自信がある!

まだ元も取ってない!

私は両手を合わせてダメ元で頼み込んでみる。

「むう…。では、私の羽をやるからそれで手打ちにして貰えないだろうか。」

「え?」

私は女型モンスターを見る。

…若々しかった頃なら喜んでむしり取ったと思うけどこんなしわくちゃなおばーちゃんからはちょっと…。

てか、羽、ないよね?

「お嬢様、妖精母の羽は稀少中の稀少。

妖精母の羽と光の妖精の羽なら絶対にこちらの方が価値がありますし、マジックアイテムに加工すれば光の妖精以上の恩恵が得られるかと愚考します。」

「でも、羽、ないよね?」

「妖精の羽は妖精の背にある間、人間には目視不能です。

抜け落ちた羽のみ人間は見る事が許されるのです。」

「よし、あるなら交換しよう!」

「おおう、娘の遺品を返してくれるのか。

感謝しよう!我が羽でよければ持っていくがいい!」

ふわりと私の目の前に漆黒の羽が浮かぶ。

私は両手を水を掬うような形にして羽を受け取った。

「妖精母たる妾が人間に羽をくれてやることなど基本ないぞ。

しかも、奪われたのではない羽は意志を持って所有者を守る。」

「おー!」

普通の妖精母の羽より凄いってことか!

「それと、もしお主が他の妖精に何か害になるような事をされたならば、この羽を見せて妾の名を告げよ。

妾の名にかけてお主を悪意ある妖精から庇護しよう。」

「…失礼ですが、お名前は?」

今更ながら名前を問う。

「おお、そうだったな。妾の名はマザー。

全ての妖精の母にして光の妖精を育てるものよ。」

「マザー…」

できれば彼女の名前を使うことがない事を祈る。

「ところで、オリハルコンなんだけど…」

エリーがおずおずと声をかける。

「おお、そういえばお主らはオリハルコンを求めて妾達の棲みかに侵入したのだったな?」

「まあ、そうなんだけどよ…」

「…オリハルコンは三種の妖精の力を要する魔法の金属。

この鉱山では大地の大妖精とコボルト、そして妾と力を合わせてオリハルコンを作っていた。

しかし、娘を産むにあたって妾の魔力は全て腹に集中してしまった故オリハルコンは作られなくなった。

残存部を掘り尽くしてしまえば、この鉱山はただの山に過ぎぬ。」

「今後の予定は?」

「妾は子育てに尽力を尽くす故やはりオリハルコンを作る余裕はない。」

「あう。」

と、いうことはオリハルコンは手に入らず…。

手ぶらじゃないけど、オリハルコンが欲しかった!

「そのようにがっかりするでない。

安心せい、妾は力を込めることは出来ぬが生まれた娘が代わりに力を込めてオリハルコンを作ることになるだろう。」

『おー!』

スチュワート以外が歓声をあげる。

「まあ、一年以内には再びオリハルコンが採れるようになるだろう。」

「一年!」

思ったよりかは早いがそれでも遅い。

「もう少し早くはならない?」

「さすがに無理だな。大地の大妖精が魔力の馴染みやすい土を作り、その土を金属の妖精たるコボルトが黄金に変える。それだけでも時間がかかる上に作った黄金に娘の魔力が馴染む時間はどうしても必要だ。」

「うーむ。」

「なんだ、急いで必要なのか?」

「そうなのよ。私は魔力が多くて自身の魔力暴走を抑えるべくオリハルコンを求めてここまで来たの。」

「なるほど、それはのんびりしている暇はないな。」

「でしょ?だから一欠片でも構わないからオリハルコンがあるなら分けて欲しいのよ。」

「ふむ、そういうことなら…この揺りかごを作る過程で弾いたオリハルコンでよければ持っていくがいい。」

「ん?弾いた?」

「揺りかごに使っているオリハルコンはオリハルコンの中でも特に魔力がよく馴染んだ特別性だ。

しかし、そう簡単に作れる訳ではなく、制作過程で失敗作として棄てたオリハルコンがある。

揺りかごには不適格でも普通に使うぶんには問題ないと思うぞ?」

『それでいいんで分けてください!』

スチュワート以外が見事に声をハモらせ手を差し出した。

「息子よ、持ってくるがいい。」

マザーの言葉に大地の大妖精がヌポっと土と同化してどこかへと行ったかと思うと数分でオリハルコンを抱えてやってきた!

『ひゃっほー!!』

スチュワート以外全員が歓声をあげる!

「すげぇぇ!こんなたくさんのオリハルコン見た事ねぇ!」

「いゃあーん!新しいドレスと棒杖が買えるわん!

ううん、いっそこれを加工して…!」

「俺も剣を新しくするぜ!」

「皆で山分けよ!山分け!!」

私達がキャイキャイ言い合っているのをスチュワートは静かに佇み見守っていた。

「…妾の羽より喜ばれるとは…複雑なのだが…」

マザーが若干引き気味で言う。

ざっと山分けすると一人頭数キロになった。

もうホクホクである。

「…最後にお聞きしたいのですが、その光の妖精。」

スチュワートがマザーに問いかける。

「いつまでここにいるのですか?」

「力ある妖精ほど成人するのは遅い。

光の妖精ともなれば、独り立ちまで百年といった所か。」

「そんなにかかるの…」

「そう、百年かけて慈しんでいた子が下界に出た途端殺されたこの心の痛みがわかるか?」

マザーは白ローブを強く握りしめて言う。

私が悪いわけではないが申し訳ない気持ちになった。

「…あれ?下界にってここから出たの?」

モンスターは決まった所からは出れないのでは?

「光の妖精は旅人です。定住の地を持ちません。

見た目も人間にそっくりなので、正体を偽り人に混ざって暮らしている場合もあります。

モンスターで唯一人間と共存可能なモンスターと言ってもいいでしょう。」

スチュワートが補足してくるが、リュド様そんな害のなさそうなモンスターを狩りとったのですか。

「光の妖精は妖精母の次に強い。モンスターは単体で強ければ強いほど数が少ない傾向にある為、光の妖精の羽素材は稀少価値が高く、たとえ害のない状況であっても発見され次第狩りの対象となるのです。」

人間の欲望とは罪深いものである。

「成る程ねぇ…。まあ、その子は大事に育てなさいな。」

揺りかごで寝ていた赤子を見る。

しかし、裸というのが妙に落ち着かない。

「….つかぬことを聞くけど、この子ってこのまま裸なの?」

「何か問題でも?」

「…人間感覚でいうと服を着せたくなるのよね。」

ぱちっと赤子が目を覚まし銀色の瞳が私を写す。

発光さえしていなければ、可愛い新生児である。

「ふむ?そう言われても、妾たちに服を着る習慣はないし、そもそも手に入らないしの。」

「キングコボルトは鎧を着てるじゃない。」

「こやつらは進化前のコボルトと進化後のコボルトで見た目の差を出す為に殺した冒険者の防具を奪ってつけさせただけじゃぞ。」

言われてよくよくキングコボルトを見れば皆種類の違う鎧を着ていた。

そういえば、スチュワートが妖精母は妖精を進化させると言っていたが、それは妖精母の意思でコボルトをキングコボルトに、大地の妖精を大地の大妖精に変えるということなのだろう。

しかし、キングコボルトは犬だから裸でうろつくのは構わないが、人間の姿であるマザーと赤子はダメだろう。

「手に入ったら着る?」

「そうだな…?」

マザーは服に興味がないようだった。

しかし

「あー、あー、あー!!」

揺りかごの中で赤子が唸る。

「どーやら、娘さんは服に興味があるようよ?」

「ふーむ?」

マザーは考え込む。

「なんなら、出産祝いに服を贈ろうか?」

「ほう!」

マザーの目がきらりと光った。

「あっあっあー!」

「ついでに赤ちゃん用のおもちゃとかも…」

「おもちゃ?」

マザーが首をかしげる。

「人間の赤ちゃんは積み木とかガラガラ…音の鳴るおもちゃで遊ぶのよ。」

「ほう!それは興味深いの!」

マザーは服よりそちらに興味を持ったようだ。

「服を着て、積み木で遊ぶ赤ちゃんを魔撮したら可愛いでしょうね!」

「魔撮?」

「撮影機と言姿を一瞬で絵に出来るマジックアイテムがあるのよ。

最近貴族の間で流行っているの。」

「ほほう!!!それがあれば娘の愛らしい姿がずっと手元に!?」

凄まじい食いつきである。

「纏めて出産祝いとして贈るわ。」

「なんと!ありがたいの!人間と交流を持つのも悪くないな!」

マザーの顔がホクホクしている。

うん、私達はオリハルコンを得てホクホクし、マザーは出産祝いを貰ってホクホクする。

全員損してない!

出産祝いをあげてなお私達は今だ貰いすぎな気もするが、これ以上は今の所無理。

「まあ、羽とオリハルコンのお礼ね。」

「羽は亡き娘の遺品との交換故礼を言うのはこちらの方だし、オリハルコンは廃棄処分品だ。

大した事はしていない。」

起きた赤子の頬をつっつきながらマザーは言う。

なら、いいのだが。

「お嬢様。」

スチュワートが声をかけてくる。

「目的も達成しましたし、そろそろ帰りましょう。」

「そうね…。」

とりあえず目的は達成したし、帰るべきだ。

「帰りは嬢ちゃんの魔法で帰れるから楽だな!」

ロバートが言う。

…

「あ、今、魔力がなくて転移魔法は使えない」

『えー!』

マリエリとロバートの声がはもる。

「ならば、自力で歩いて帰りましょう。」

「帰りはお主らをコボルトが襲わないよう指示を出す。

行きより楽に帰れるじゃろ。」

「ありがと!」

「いや、これくらいは当然じゃ。

本当はキングコボルトを案内に出すべきじゃろうが…」

「目立つので大丈夫です。」

キングコボルトの先導で帰るって目立ちすぎて罰ゲームだ。

「妾としても万一の戦力として温存しておきたい」

ここまでこれる冒険者がいるとは思えないのけど。

「鉱山でオリハルコンが採れるようになれば、地下に来る人間は激減するでしょう。

オリハルコンさえあれば、人間は地上、モンスターは地下と棲み分けができて今回のように交わることはなくなるはずです。」

逆に言えば現状オリハルコンがない為、万一を考えるのは赤子のいるマザーならば当たり前なのかもしれない。

「私達は大丈夫。」

「そうか、ではまたいつの日か会おう。」

「次は出産祝いを持っていくわ。」

「なら、すぐに会えるな。」

マザーが手を出してきた。

「ええ。」

私は頷きその手を握りかえす。

まさか殺し合いをしていた相手と打ち解けて握手まですることになろうとは。

「私はリナリーバー・ミハルバー、王国の公爵家の出のものよ。

この鉱山を所有しているワトソン伯爵は公爵家の下の存在だから、何かあれば私の名前を出せば便宜がはかられるようにしておくわ。」

「ほう?まあ、そのようなこと滅多にないとは思うが、お主の名前は覚えておくし、万一の時は遠慮なく使わせて貰おう。」

「では、お嬢様、参りましょう」

こうして私達は鉱山最深部から出た。




敵に遭遇しないなら簡単に鉱山から出れるかと思いきや、時々道に迷ったりそもそもかなりの距離があることも原因で結局鉱山から抜け出すのに丸一日かかった。

出口はまだ見えないが、ランプの道が現れた頃、私の耳が、鉱山外部の音を捉える。

なにやら異常に騒がしい。

何かがあったのだろうか。

近くにつれて皆にも声が聞こえるようになる。

「なんだ?」

「騒がしいわねん?」

「なんか、キセキがどうのこーの言ってるぜ?」

気になったので足早に出入口に向かう。

『…!』

そして、外に出てキセキが奇跡だと知った。

絶句した。

私もマリエリもロバートも、スチュワートさえも呆然としていた。

空から羽がふわふわと降り注いでいたのだ。

勿論、単なる鳥の羽ではない。

キラキラと輝く羽毛サイズの羽が雪のように降り注いでいたのだ。

全ての冒険者が、坑夫が、その羽を掴もうと必死になっている。

「…これは…光の妖精の羽ですね。」

スチュワートが冷静に降り注ぐ羽を掴み取りマジマジと見る。

「小さいとはいえこんな大量に…!?」

「なんで、空から降ってくるのかしらん?」

「だから奇跡か!?」

ロバートとマリエリが言う。

「この羽ってあの光の妖精の羽よね?」

「その可能性が高いかと。」

幻想的ともいえる光景に見惚れながら私が問えばスチュワートが答える。

「あれか?服の話をした時、あの赤ん坊狙ったように起きたし、その礼か?」

ロバートが言う。

…そうなのかな…?

「生まれたての赤子ですでにここまで力を発揮するとは…。

光の妖精とは、げに恐ろしい。

それより上位に位置する妖精母と出くわしてこうして生きていることはまさしく奇跡。

全てはお嬢様の人徳かと思われます。」

モンスターに発生する人徳。

できればきちんと人間に発生してほしい。

「さて、これからどうするのん?」

マリーが問いかける。

「勿論私達は王都に帰るわ。」

「俺もテオと仲間を回収次第ついていくぞ?」

問題はこの二人組だ。

ついてくるのか?

いや、私が言うことじゃないんだけどさ。

「お嬢様はどうしたらいいと思うん?」

マリーが何故か私に聞いてくる。

「何故私に聞いてくるの?」

「だってなぁー?」

エリーがニヤリと笑う。

好きにすればいい!そう言おうと思った。

だけど、この二人が付いてきたらずーっとスチュワートにまとわりつくのは火を見るよりも明らかだ。

ここ限定と思ったからこそ苛ついても我慢出来たのだ。

それが王都でも….?

いや、我慢するべきだ。

スチュワートの幸せを考えれば。

好きな人の側にいるのが一番なのだから。

だから答えは一つである。

しかし、その答えが口から出ない。

だが、体は正直であった。

ぎゅっ。

私の指先がスチュワートのジャケットの端を掴む。

『!!!!!!!』

私以外の全員が息を飲む。

特にスチュワートの狼狽ぶりがひどい。

…ごめん、スチュワート。

「貴方のお嫁さんは私が責任もって探すから!」

コケッ

全員がかくっと体を傾けた。

なにに躓いたというのか。

「まあ、まだまだ賭けはどう転ぶかわからないって訳ねん?」

「ん?俺の勝ちだろ?」

「あはん、私の勝ちでしょん?」

マリエリが意味不明な事をいう。

それを聞くスチュワートが二人に近く。

そして二人になにやら耳打ちひとつ。

ぴたっと言い合いを止めた。

「お嬢ちゃん、私達はぁ、他にもお仕事抱えているいそがしぃーー冒険者だからん、王都までは行けないわん。」

「いやーー残念!はっはっは!!!」

「二人共、何か棒読み…」

『ん?』

二人同時に首を同じ方向に傾ける。

それ以上は聞いてはならない。

そんな気がした。

まあ、ついてこないならそれが一番だ。

女に挟まれニヤつくスチュワートは胸を締め付ける程見苦しかった。

それがないのことは喜ばしいこと。

「じゃあ、互いの進路が決まったことだし、帰りましょうか。」




この言葉を吐いてから実際に別れて王都に帰ったのは二日後だった。

…魔力枯渇した私が復活するのに二日寝込んだからであった事をここに記しておく。




次話、別視点予定

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