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妖精母

産まれるって何!?

私は想定外の事態に頭が混乱する。

いや、女型モンスターが妊婦なのはわかっていた。

妊婦だもの、いつかは子供を産むのもわかっていた。

でも、何故今!?

…あれか!戦闘で無理しすぎて!?

え、じゃあ私のせい!!?

そう思った途端言いようのない罪悪感が襲う。

相手がモンスター、人外だとわかっていても妊婦に無理をさせてしまったと思うとなんだか申し訳ない気持ちになる。

女型モンスターが人間にそっくりな外見であるというのも助けているのかもしれない。

どうしよう…?

ちらりと縋るように大地の大妖精を見れば、こちらもなんだかオロオロしていた。

なんとなく、大地の大妖精さん後は宜しく!っといって逃げる訳にはいかないような気がする。

今なら逃げれるのに、苦しむ妊婦を置いていくのは人としてどうよ的気分になる。

そうこうしているうちに女型モンスターは脂汗を流しながら私を見る。

「!」

もう何も出来ないがそれでも身構える。

しばし睨み合い。

「…頼む…私はこのままお前に殺されても構わない…!

しかし、この子だけは!この子の命だけは助けてくれ!」

圧倒的優位の立場にいたはずの女型モンスターからのまさかの命乞いに私の混乱は益々深まる。

「頼む、頼むから…!お前の仲間もまだ生きている…!

現在戦闘中の息子達は全て引き上げさせる!

だから、娘の命を…頼む!」

女型モンスターの言葉で、別の場所でスチュワートも戦闘中だった事を思い出す。

そうか、生きていたか。

ほっとすると同時に脳味噌が混乱状態から抜け出し事態解決の為、フル回転をはじめる。

女型モンスターはこれより出産にはいる。

その為戦闘不能。

女型モンスターは自分の命よりも生まれてくる子供の命が大事で必死に命乞い。

…そもそも、私は魔力枯渇で何も出来ない。

そんな必死に命乞いをする必要などなく、さっさと背を向けて逃げればいいのだ。

しかし、それをしないということは…。

女型モンスターは私の魔力枯渇に気づいてないということ。

それはこの状況でとても優位に働く。

私は女型モンスターの勘違いを利用する事にした。

生まれてくる子供の命を盾にオリハルコンを手に入れてそれから脱出だ!

我ながらゲスな考えが頭をよぎり、しかも迷わず実行に移そうと口を開く。

嘘はバレるから嘘はつかないで本当のことしか言わないように気をつけて会話をしなければ。

慎重に私は口を開いた。

「……うっうっうーーー!」

しかし、私が話すよりも陣痛?の痛みに晒された女型モンスターの苦痛の声が辺りに響き渡る。

うつ伏せになり地面をばんばんと叩いてとても苦しそうだ。

「た、助けて….」

それでも弱々しく女型モンスターは命乞いをする。

弱々しいのに、何故か気圧されて私は頷いてしまった。

「あ、ありがとう…」

礼まで言われてしまう。

ああ、オリハルコンについて言い逃した…!

しかし、後悔する間を女型モンスターは与えてくれなかった。

「では、私を奥の間に連れていってくれ」

「へ?」

「助けてくれるのであろう?」

まって!さっきの助けては『命を』助けてじゃなくて『出産を』助けてだったの!?

いやいや!そんな通りすがりのご令嬢に何をこのモンスターはさせる気か!

しかし、手を差し伸べてくる女型モンスターを見ていると勘違いですとも言えない。

手を取らざるをえない気分になる。

半ば渋々手を取って肩を貸す。

「た、助かった…!」

「それで、奥の間とはどこに?」

「息子よ…先導せよ…」

大地の大妖精が前を歩き私達を案内する。

「出来れば明るい場所がいいんですけど…」

間も無く暗視が切れる。

切れる前に視界を確保したいのだが…。

「大丈夫…だ。もう…闇を広げていられる…程余裕は….ない。

今も…ランプがあれば…視界の確保は….できる….」

息も絶え絶えに女型モンスターは言う。

そうか、この闇はこの女型モンスターが生み出したものだったのか。

考えてみたら天然の闇が光を上回るなんてある訳ないか。

しかし、この女型モンスター一体何者なのか。

まあ、考えても仕方ない、とりあえず暗視が切れる前にランプに燃料を入れて火を灯す。

女型モンスターの言葉が本当ならばこれで暗視が切れても大丈夫だろう。

私達は暫し無言で奥へ奥へと進んでいく。

地味に下り坂であり、私は地下へ地下へと誘い込まれていく。

…これが罠なら終わりだな…

ふとそう思ったが罠なんて仕掛けなくても女型モンスターの勝ちだったのだから、多分大丈夫だろう。


そんな事を思っていると、私達は最深部へと辿り着いた。

休み休みゆっくりゆっくりと進んだ為、だいぶ時間がかかった。

ドアに当たるものはなく、そのまま奥の間に入り込む。

「!」

私は息を飲んだ。

そこには…

「オリハルコン…!」

公爵令嬢たる私もオリハルコンは教科書に載っている説明文でしか見た事がない。

その説明文通り…。

光の粒子を含んだ黄金、オリハルコンが文字通り揺りかごの形をしてそこにあった。

人間の赤ちゃんが丁度収まるサイズの揺りかごが百パーセントオリハルコンで作られているのである!

な、なんて贅沢な!

王族だってこんなの使わない!

「助かった…!これで娘を…産める…!」

それはよかった。

あの、私はこれで失礼します。

そう言いたかったし実際言おうとした。

しかし。

女型モンスターはふらふらと歩き揺りかごのところまでいくと中を覗くようにして身を乗り出す。

勿論、支えている私も強制的に揺りかご近くに行く事になる。

うわ、触っていいのかな…?

そんな場合ではないのだが、オリハルコンに目が釘付けになる。

しかし、ずっと見つめている事を隣のモンスターは許してくれない。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

死体を食べた時のように顔が歪んで大きく口が開かれる。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

絶叫が奥の間全体に響き渡る。

なんとなく、心配になり半ば本能で女型モンスターの背中をさする。

…今、出産中なのか…な?

人間の出産とモンスターの出産は違うのだろうけど、今私がやってることは酔っ払いの世話みたいなものだった。

動揺しながらもとりあえず背中をさする。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!….すまん….たすかる」

「あ、うん、気にしないで…」

困ったように私は呟く。

背中をさするのはどうやら間違ってはいないようだが…。

はて、私は何故、このモンスターの出産に付き合わされているのだろうか。

ここは他人の私ではなく息子たる大地の大妖精が頑張るべきではなかろうか。

ちらりと大地の大妖精を見れば少し揺りかごから離れたところでヌポーっと私達を見ている。

ダメだ…!こいつは使えない!

ならば、他の息子達…コボルトを呼べばいいのではなかろうか?

「ねえ、他に呼べる息子はいないの?」

「お前が…ころした…息子…以外は…皆お前の…仲間を殺しに…行った…。

戻ってくる…まで…時間が…かかるし…何より…男は…出産の…役には…立たない…」

肩で息をしながら女型モンスターは言う。

そういえば昔お母様が私を産むときお父様がすぐ近くにいたそうだが『まるで家具の如く動かずにいて医師の邪魔になっていた』と言っていた。

そうか、こういう所は人間と変わらないのか…。

変なところで人間とモンスターの共通点を見出してしまった。

しかし、この状況私一人では荷が重い。

役に立つ立たないはこの際置いておくとして仲間が欲しい。

「一応、呼びましょうよ。なんなら私と一緒にいた人間の中には女もいたし、私のスチュワートは優秀だからきっと出産対応もできるんじゃないかな?」

正直マリエリに何かが出来るとは思えない。

スチュワートにも期待は出来ない。

しかし、一人よりかはマシだ。

「そうか…ならば、息子達に連れて…きて…貰おう…うぉぉぉぉぉぉぉ!」

大きな口を開けてえづく女型モンスター。

とりあえず馬鹿の一つ覚えだが背中をさする。

マリエリでもスチュワートでもこの際ロバートでもいい!

誰か助けてくれ!!!

私の願い虚しく誰かがくる様子はない。

女型モンスターのえづきだけが場を支配する。

女型モンスターは変わらず苦しそうだ。

時折、腹が波打つ以外は変化がない。

だが、その波も少しずつ感覚が短くなっていき、徐々に激しさを増す。

その波に比例するかのように女型モンスターは痛みを感じているようで苦悶の表情を浮かべる。

痛い時と痛くない時の差があるようだが、その差も短くなっているようだ。

女型モンスターが叫ぶと発光するようになった。

このあたりで私の暗視効果が切れる。

しかし、ランプと発光する女型モンスターのおかげで視界に不都合はない。

発光はやがて強く絶え間無く起こるようになる。

腹以外にも体の全てが波打つように歪む。

その様はまさに人外。大きな口は顔の大半を埋め尽くし目も鼻も今はない。

獣のような咆哮がこだまし、背中をさする私にいつなんらかの攻撃がくるかわからず、しかし離れる事も感覚的に出来ずただ恐怖に突き動かされて早く終われと背中をさする。

その背中も波打ち手触りは最悪だ。

女型モンスターの見えない目から涙が落ちる。

だけど、泣きたいのはこっちだ!!!

私も涙目である。

ってかさ、もう精神的に限界!!!

叫んでいいですか?

ってかもう、私も叫ぶ!!!!!

「〜〜〜〜スチュワーーーーーートォォオ!」

神様英雄様スチュワート様。

どうか助けてください。

今のカオスがどうにかなるなら魂売っても構いません。

しかし、祈りは届かない……

…かのように思えた。

私の慟哭に応えるように走る足音。

複数あるが、先頭を走るあの足音は間違いない!私は足音の方を期待を込めて見る。

「ーーお嬢様!」

「スチュワート!!!!」

未だ距離はあるが互いを呼び合う。

一瞬女型モンスターの背中をさする手が止まる。「せなが…さするぅぅううああ!」

「あ、すみません。」

すぐに視線を女型モンスターに移して言われた通り背中をさする。

遠くでスチュワートの動揺を察する。

「お嬢様」

つかつかとこちらに歩いてくるスチュワート。

その声には怒りの感情を感じ取ることができる。

その怒りを察した大地の大妖精がスチュワートの進行を妨げようと前に出て…

ドガ

何をやったかわからないが一瞬で粉砕し足を止める事なく私の方にやってくる。

「………なにか……いやな……予感……」

「奇遇ね、私もよ。」

女型モンスターと初めて同じ意見を共有する。

額に流れる汗が一雫落ちる。

そうこうしているうちにスチュワートが私の前で足を止める。

スチュワートは相変わらず無表情ではあった。

しかし、息は切らしているし、ジャケットはシワシワで赤く薄汚れている。

ナイフからは血が滴り落ち、靴は土に塗れていた。

ぱっと見怪我はしていないようだが、髪は乱れ戦闘の激しさを物語る。

そのスチュワートが口を開いた。

「お嬢様、これがロバートの言っていた女型のモンスターですね?」

「え、ええ。」

私が躊躇いがちに頷くとスチュワートはナイフを逆手に持ち振り上げる。

「!」

「きぃぃさぁまぁぁ!モンスター風情がぁぁ!

あろうことかお嬢様にぃぃ!命令するとはぁあ!

万死に値するわぁぁぁぁ!」

目を見開きらしくなく叫んでそのままナイフを振りかぶる!

しかし、その瞬間此処一番の発光が起こりスチュワートの目を灼く。

「くっ!?」

「待って!スチュワート!」

顔を背けるスチュワートに待ったをかける。

考えたらかけなくてもよかったかもしれないがかけてしまったものは仕方ない。

「お、お嬢様?」

「くぁぁぁぁぁぉ!」

スチュワートの言葉を遮るようにして女型モンスターが咆哮する。

ここで、マリエリとロバートが数体のキングコボルトを引き連れて到着。

「あ、あの時の…!」

ロバートが恐怖にひきつるような声をだす。

三人ともボロボロであり、特にロバートは小さくない怪我を負っているように見えた。

「な、何がおこってるのん?」

「なんか、やばくね?」

マリエリも及び腰である。

『ははさま!』

キングコボルトがすぐさま駆け寄る。

『うまれるのですか?』

『いもうと、うまれる?』

「うぁぁぁぁ!そう!!!!うぅぅまぁぁれぇぇるぅぅ!!」

キングコボルトに応えるように絶叫する女型モンスター。

『ははさま、がんばって!』

キングコボルトは応援態勢となるが、待って!

私の位置と変わって!!

「ど、どういった状態なのでしょうか?」

「えっと…流れで出産のお手伝いをする事に…」

説明を求められても困る。

私だって意味不明なのだから。

「出産?ははさまとは母親の意味だったのですか?

ならば、この女型モンスターは妖精の母親にあたるということでしょうか?」

「おそらく…息子ってコボルトや大地の大妖精を呼んでいたし…」

「そういえばそこにいるのは大地の大妖精…!

なら、このモンスター、妖精母!?」

なんか大それた名前がついた!

「嘘!?」

「冗談だろ!?」

「勘弁してくれ…」

スチュワートの言葉にマリエリとロバートが呟くように言う。

「ごめん、何その妖精母って。」

一人話についていけず戸惑いながらも説明を求める。

「妖精母とは文字通り全ての妖精の母。

妖精族最強にして唯一無二の完全たるものにして、意識して妖精を進化させる事の出来る存在です。」

なんかすごいのは伝わった。

でも、

「妖精族って何。」

「そうですね…人種にも獣人、エルフ、ドワーフ等がいるようにモンスターにもおおまかな種族が存在します。

例としましてはコボルトは妖精族、フェンリルやグリフォンは魔獣族です。」

「ってことはフェンリルもグリフォンも同じ親を持ってるの?」

「いいえ、グリフォンはグリフォンからしか生まれませんし、フェンリルはフェンリルからしか生まれません。

しかし、妖精族だけは一つの親から全ての妖精が生まれます。」

「その親がこの女型モンスターってこと?」

「まさしく。」

改めて私は女型モンスターを見る。

私とスチュワートが話している間にもえづき苦しみ悶えていた。

妖精族最強と言われるだけあって強かった。

てか、負けました。

今生きているのは運がよかっただけである。

しかし、その強さの片鱗が今はない。

「モンスターを産もうとしているなら、今ここで狩りとるか…?」

ロバートがぽつりと言った途端、女型モンスターはロバートの方を向く。

目は最早そこに存在していないが、ロバートを視認出来ているようである。

「頼む!!私はどうなっても…どうなっても…構わない!

だが、どうか!!娘だけは…!!!」

嘆くように心に訴えるように女型モンスターは言う。

言い募るものはモンスターであって人ではないとわかっているが心情的に手出しが出来ない。

それはロバートも同じようで、今の言葉もただ言ってみただけのようであった。

「このまま手出しせずに帰るん?」

「だがよぅ、アレってオリハルコンだよな?

オリハルコン目の前にして帰るってのも….な。」

マリーの言葉にエリーが返す。

このままフェードアウトした方が賢いのはわかる。

しかし、人間は欲に忠実な生き物なのだ。

目の前にオリハルコンがあり、先ほどまでの苦労を思えば到底手ぶらでは帰りたくはなくて。

頭の中で天秤がグラグラ揺れる。

「うぁぁぁぁ!!!!」

一際激しく叫び光り、女型モンスターの口から何が出ようとしているのが確認出来た。

あまりにグロくて体が自然と引く。

「うきゃぁぁぁぁぁ!」

悲鳴をあげながら口からソレを出そうともがく。

腹は波打ちながら膨れた部分がせり上がってきており、今は腹より喉が大きく膨れていた。

「うまぁぁぁぁれぇぇぇるぅぅう!」

喉が詰まっているように見えるが、声は出るらしく絶叫する。

「す、スチュワート!なんとかして!」

困った時のスチュワート様だ!

なんとかとは何かもよくわからないがとりあえず助けを求めてみた。

「…申し訳ございません。人間の出産でしたら、対応方法を習得済みですが、モンスターの出産は人間とかけ離れすぎて私では対応致しかねます。」

無表情で断られてしまった。

前置きが一瞬気になったが今はそれどころではない。

もう、何も出来ない。

ただ見守るだけだ。

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」

『ははさま!』

『がんばって!』

キングコボルトが応援している。

手持ち無沙汰になったので、私も応援に徹することにした。

「が、がんばれー!」

私の声援に周囲がぎょっとする。

マリエリやロバート、スチュワートがぎょっとするのは理解出来るが、キングコボルトにまでぎょっとされた。

でも、他にすることないし…。

「がんばれー」

『がんばれー!』

『ははさま!あとすこし!』

「が、がんばれ?」

「え、あ、がんばれ?」

「ま、マジかよ…がんばれぇ」

「…」

流れに乗ってマリエリとロバートも声援を送る。

スチュワートは流れに乗らずに静観の構え。

「がんばれ!」

「がんばれ!!」

当初バラバラとしていた声援が次第にまとまってきた。

『がんばれーーー!!!』

声が一つになりひたすら応援し続ける。

『がんばれーーー!!』

「ぐおおおおおお!」

『がんばれーーー!!』

「ぐおおおおおお!!

声援に応えるような咆哮を女型モンスターはあげる。

そして、遂に時はきた。

『がんばれーーーー!!!』

「ぐおおおおおお!」

幾度目かの応援の後、喉が大きく伸び縮みして大きな口がより一層大きくなり、遂にナニかが吐き出された。

でろりと出てきたベタベタのソレは揺りかごに落ちる。

私はその様子を特等席であますことなく見てしまう。

グロい…。

くらっと立ちくらみがした。

スチュワートが無言で支える。

「生まれましたね。」

見ればわかることをスチュワートは言った。

ああ、生まれたよ…。

「ほぎゃぁ、ほぎゃぁ、ほぎゃぁ!」

『!!』

か弱い泣き声が場を支配する。

一瞬の沈黙の後、私達は半ばヤケクソ気味に万歳三唱をしたのだった。








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