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揺りかご

自然と目が覚めた。

どれ程の時が経ったのだろうか?

不明ではあるがとりあえず生きている。

周囲は暗く自身が仰向けなのかうつ伏せなのかも判断不能。

とりあえず明かりが欲しい。

「ーーー明かり!」

口がじゃりっとするのは大地の精霊に口内を蹂躙されたからか。

それを我慢しての魔法発動。

しかし、明かりが発生しなかった。

「!?」

暗闇は暗闇のまま私の前に存在する。

もう一度!

「明かり!」

結果は同じ。

…何故だ?

もう一度試す。

次は慎重に。

「明かり」

やはり結果は同じ。

しかし、慎重に魔法を発動させてわかった。

神経を尖らせて魔法を発動させれば、小指の爪先程の魔力が消費された感覚があった。

正しく魔力が消費されているならば魔法は発動しているはず。

にも関わらず目視不能。

これいかに?

…

あ。

私はロバートの言葉を思い出す。

ランプは最初しか役に立たない。

何故ならば奥に行けば行くほど闇が深まり最後は明かりを飲み込んでしまうから…。

みたいな事を言っていたような?

そうか、今私は明かりを飲み込むほどの奥深くにいるのか。

なるほど、闇が明かりを凌駕する場所で明かりを何発打とうが意味はない。

ならばどうやって視界を確保するか。

ロバートは感覚を研ぎ澄ませばわかるみたいな事を言っていた。

よし、やってみよう。

感覚…研がれーー

…

「出来るか!」

自分で自分に突っ込む。

そんな私は戦士じゃないのだ。

か弱き令嬢にそんな真似出来る筈もない。

他の方法を考えよう。

もう、目覚めて数分経ったが視界は暗闇のままであり、このまま行動するのは不可能である。

たぶん、時間がもっと経っても結果は同じ。

考えなくてはならない。

まず、自分に出来ること…魔法。

魔法に視界を確保する系のものがあるか検索。

…ない。

まあ、考えたら当たり前だ。

視界確保したいなら明かりの魔法があれば大抵はこと足りる。

じゃあ、魔法以外に出来ること?

何もない。

荷物にはランプがくっついているが、勿論なんの役にも立っていない。

点灯しているのかいないのかさえも不明だ。

それ以外は食べ物しか持っていないので、道具を使用してなんとかするのもだめ。

ああ、万事休す。

スチュワートが助けに来るのを待つしかないな。

…助けにくるよね?

あのまま、全員死んでたりしないよね…。

急に不安になる。

ダメだ、誰かが助けにくるのを悠長に待ってなどいられない。

自分に出来ること、他にないか?

…

ない。

見事にない。

ああ、私はどうしてこうも無能なのか。

何が未発見の属性持ちだ、何が加護持ちだ、理持ちも役割も何も役には立たないじゃないか!

心の中で幾ら悪態をついても事態は変わらない。

結局、自分でなんとかしないとどうにもならないのだから。

「…ったく、本当、どうでもいいスペックばかりあって肝心な時に役に立たない。

厄介事しか持ってこないなんて最悪だ。」

舌打ちをする。

泣きたい気持ちもあるが、泣いてる場合ではないのだ。

唇を噛んで堪える。

まずはもう一度自身の持つ魔法について検索してみよう。

本来の使い方以外で明かりを生み出せばいいのだ。

まずは明るくといえば光、光属性魔法。

光属性魔法は回復と浄化に特化した魔法。

回復魔法は発光しないから必然浄化魔法に目が向く。

たとえば、光属性最上級広範囲魔法『天界への扉』

巨大な扉を生み出しその扉が開かれると莫大な光が放たれる。

無論その光は浄化の光であり、ゾンビなど死霊全てを一掃する。

扉は一度生み出すと数分程度開かれたまま存在してくれる。

数分とはいえとりあえず周りを見通せるだけの光は生み出せそうだ。

…なんか、魔力の無駄遣いな気もするが仕方ない。

私は呪文を唱える。

「天界への扉!」

魔力ががりっと削られた。

感覚で扉が生まれた事を察する。

その扉が開く音がした。

光が…見えた!!!

眩しいぃいいい!!

私は黒から白に塗りつぶされた光に目を灼かれ慌てて目を閉じる。

目を閉じても感じる光の洪水!!!

ダメだ!

眩しすぎて意味がない!!

もう少し光量を抑えた魔法!

扉が消えた後、次の魔法を放つ。

「太陽!」

光属性上級広範囲魔法『太陽』

小さな太陽を生み出しその光でゾンビなど一部の死霊を浄化する。

「眩しいぃいいい!!」

本日二度め。目を灼かれました。

うっうっう…

なんか私、とても間抜けな気がする…。

しかし、ここで挫けてはならない!

続いて…!

「月!」

光属性中級範囲指定魔法『月』

『太陽』の下位互換魔法。

これなら…ってあれ?

発動はしたのに見えない…。

闇の方が濃いってこと??

じゃあ、『太陽』と『月』の間くらいの光…

ってないよ!!

そんな丁度よく光量を調節出来ないから!

ダメだ、光魔法はダメだ。

ならば!次!同じく発光する系の魔法ならば、地、水、焔、風でいえば勿論焔!!

ただ、ここがどの程度の広さなのかがまったくわからないでぶっ放すのは勇気がいる…。

狭いなかで放てば私の身が危ない。

しかし、もう悩んでいる場合ではない!

最上級はやめておこう!下からいけば多分平気だよね!?

「火柱!」

焔属性中級単体魔法『火柱』

火柱を生み出し対象を焼き尽くす!

広範囲は怖かったので単体にしてみたのだが…焔が見えず!

次!…ってまてよ?

焔属性の魔法って熱で相手を焼き尽くすのがメインだから等級をあげても熱の温度が上がるだけで焔の明るさは変わらないのでは…?

いや、試すか?

でも試して熱かったらやだな…

他にはないのか?

地、水、焔、風…どれも使えない。

発光しないのでは意味がないのだ。

光は調節ができない。

闇はねぇ、考えるまでもない。

暗いところに闇をもってきても仕方がないだろう。

考える余地なし!

そう頭の中で切り捨てた。

だがその時思い出す。

闇属性魔法に『盲目』という魔法があった事を。

文字通り目が見えなくなる魔法なのだが、あれって別に闇を生み出したわけじゃないよな?

…ん?

私は何かを掴みかける。

沈黙、難聴、混乱、闇っぽいけど考えてみたら闇は別に必要ない。

なのに、闇属性。

闇属性魔法とは何か。

それは『転生』魔法を除いた殺傷能力のない単体型の魔法で構成された状態異常魔法だ。

見えない、聞こえない、話せない、混乱状態は典型的な状態異常である。

今の私は『見えない』という状態異常だが、それは闇を払えば解決する。

しかし、闇属性魔法はそうじゃない。

光を与えれば解決するわけじゃない。

目を閉ざしているわけじゃないのに閉じているという錯覚を起こす魔法なのだ。

沈黙もそう、本当は話せるのに話せないという錯覚を起こす魔法だし、難聴も混乱も同じ。

発現の形は違えど根本的なところは単なる錯覚だ。

では、錯覚って何?

…脳が誤情報を与えられ真実を誤解した状態。

脳を誤解させる…。

私の脳も誤解させれば見えるか?

いや、実際問題光が足りずに見えないのだから、単純に『見える』と思い込んでも見えないだろう。

そうじゃなくて私は『僅かな光さえも捉える目を持つ』と誤解すればいいのではなかろうか。

さしづめ闇属性初級単体魔法『暗視』とでも名付けるか?

完全にオリジナルの魔法だが、出来るだろうか。

呪文はどうでもいい、あんなものは飾りなのだから。

私は呪文をすっ飛ばして呟いてみた。

「暗視」

瞬間、視界がクリアになった!

明るすぎず暗すぎず、程よい感じだ!

…出来たけど…なんだか、すごくくだらない事に時間を費やした気がする。

よくもまぁ敵に襲われなかったものだ。

私は立ち上がる。

体は幸い痛くない。

ローブのおかげ…ってローブ着てない!

あれ高かった!役に立ってるけどまだ元は取ってない!

探さなくっちゃ!

私はきょろきょろ周りを見回す。

そこは想像よりも広い空間だった。

高さもあるし、広範囲の焔属性魔法をぶっ放してもバックファイアで黒焦げにはならなかっただろう。

しかし、ここはどこなのだ?

今私はどのあたりにいる?

移動して平気?

迷子の場合は動かないが鉄則だけど…。

現在地も不明な状態で動くのは勇気がいるが、スチュワートが動ける状態とは限らない以上私が動くしかない!

私は適当に進む。

出来ればあのお喋りわんちゃんに会いたい。

彼らなら私の現在地やスチュワートがどうなったかを知っているうえに意思疎通が可能なのだから。

私は出会い頭、負けないよう呪文を唱える。

衝撃波程度じゃ効かないことはわかった。

幸い広さもあるここでなら多少の無茶は効く。

次は遅れをとらない!

『おんなあるいてる』

『ここであるけるさすがあねさまをころしただけはある』

『だけどたたかえまい』

『ははさまがあそんでいいとおっしゃった』

『なぶってやろう』

『なぶってやろう』

『あねさまのかたきだ』

『ようしゃしない』

声があちらこちらから響いてくる。

どこにいるのか暗視しているがわからない。

しかし、問題なかった。

呪文は既に唱え終わっていたから。

「茨!」

地属性初級広範囲魔法『茨』

茨の蔦で広範囲にわたって敵を捕縛する。

殺傷能力がない代わりにかなりの広範囲の敵を捕縛し、魔力の込め方で強度も変わる。

『ぐわっ!』

『なんだ!?』

『これは…動かない!』

次々巻き起こる動揺の声。

向かってくる者がいないので、全員捕獲した模様。

「どこかな…。」

私は蔦をたどって探してみる。

簡単に一体発見。

茨の蔦にがんじがらめにされた哀れなワンちゃんがそこにいた。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど?」

『きさまにはなすことはなにもな…」

ぎりぎりぎり

『うわぁぁ!』

「ちょっと聞きたいんだけど?」

『な、何をだ…?」

締め付けを強くしたら話す気になったようだ。

「まず、ここはどこ?」

「ここはははさまのすまいさいしんぶ」

ははさま?母様?

すまい…棲まい…?

さいしんぶ…最深部!?

「ここにオリハルコンが!?」

きらっと目を光らせ問いかける。

「おりはるこん?ゆりかごのことか?」

ゆりかご…揺りかご!?

「私はオリハルコンを採りにきたのよ。

それさえあればここには用がないのだけれど?」

「だめだ、ゆりかごは、まもなくうまれるいもうとにつかう。

ははさまがそういっていた」

「そう、じゃあ母様とやらのところに案内しなさい!」

「きさま、まさかあねさまだけでなくははさままといもうともころすつもりか!?」

「その、あねさまってなに?」

「しらばっくれるな、われらのあねさまをころしてしろいふくにかえたくせに!」

「いやいや、あれは光の妖精を使った品でわんちゃんは関係ないし…」

「きさまぁぁぁ!やはり!われらのあねさまをころしただいざいにんかーーー!」

いきなり暴れ出したので慌てて蔦に魔力を込めて動きを封じる。

だいざいにん、大罪人呼ばわり!?

え?てか、光の妖精とわんちゃんは姉弟なの!?

…あ、そういえばコボルトって妖精って言ってたっけ?

それに大地の妖精を弟って言ってた…。

あれ?

もしや私はこのローブを着てるだけで姉殺しの犯人だと思われてる!?

ちょっとまって!濡れ衣だ!

「まって!私は…」

ぞわり

すぐ真後ろに何かがいると感じた。

己の顔色が青ざめていくのが自分でもわかる。

「ははさま!たすけて!!」

「妾の子を離せ。でないとこのまま殺す」

迷わず蔦をかき消した。

全てのキングコボルトが自由になるのを感じた。

「ゆっくりとふりむきなさい」

言われた通り私は振り向く。

至近距離にそれはいた。

一言でいえば女だった。

もう少し特徴を捉えるならば、裸の妊婦だった。

決して太っているのではなく大きなお腹は間違いなく子供がいる腹だった。

背丈は私より少し高い程度、年齢も人間換算でいいならマリエリくらいだろう。

一糸纏わぬ姿であるが、片手には私の白ローブを持っていた。

「ははさまころしてしまいましょう」

「息子よ落ち着きなさい」

キングコボルトより明瞭な発音で会話をする。

こいつは何者?

ロバートがやられた女型モンスター?

「人間の女よ、お前が私の娘を殺したのか?」

「違うわね。」

「ならば何故娘の羽を使った服を持つ?」

「普通に店で売られていたけど?」

『なんだと!?』

『なんてざんこくな!』

キングコボルトが騒ぐ

「息子達よ静かにしなさい」

ぴたっと静まる。

この女型モンスターがキングコボルトを制御しているようだ。

「その話は誠か?」

「ええ。」

「では、誰が娘を殺したかわかるか?」

「…私はただの客だもの、わからないわ。」

惚けておく。

「そうか、それは嘘だな?」

ぎく

何故バレた。

「なんでそう思うの?」

表情には出さないよう努めて笑顔で語りかけてみる。

「妾は人間の声の質で真偽を聞き分ける耳がある。

嘘はすぐにバレるぞ。本当の事を言え。」

「タダじゃ教えられないわね。」

「……なにを望む?」

「オリハルコン」

「………揺りかごか?悪いがあれは間も無く生まれる我が子…妾が生む二人目の娘の為のもの故、譲り渡す訳にはいかぬ。」

贅沢だっつーの!

腹をさすさすしながら女型モンスターは言う。

「じゃあ、話せないわね?」

「そうか、ならば力づくといこうか?

妾は元より妾の息子達も総力をあげてお主を殺しにかかるぞ?

今なら喋れば命は助けてやろう。」

「そういえば私以外の仲間は?」

「お主と共に行動していた者達ならば、妾の息子を惨殺してお主を追ってこちらに向かっておる。

だが、我が子達がいつでも襲える体制を整えている事を忘れるな?」

生きてた!

それだけわかれば充分だ。

「スチュワートはねぇ、私に会う為なら手段を選ばないわよ?

何せ私の専属執事だからね?」

「なにが言いたい?」

「やれるものならやってみなさい!

そっちが総力戦だというならこっちも同じ!

勝った方が欲しいものを手にするってのがわかりやすいルールでなくて!?」

「ははは!」

女型モンスターは笑いながら妊婦とは思えぬ身の軽さで私と距離をとる。

「よい!よいぞ!来なさい!我が子たちよ!」

地面が歪んで大地が盛り上がる!

大地の妖精の巨大バージョン!

その大きさ二本足で立った熊並みだ!

さらに姿を現わす先程私に捕まっていたわんちゃん達!

その数…ひーふーみー…わお!三十!

「息子達だけでなくて妾もいるぞ?

仲間の援護も期待できないぞ。同じタイミングで

我が子達が貴様の仲間を襲っているからな?」

「じゃあ、スチュワートと私どっちが先に敵を殲滅するか競争ね。」

「自信があるのか?それとも実力差がわからぬ愚かものか?

いずれにせよ、ここで娘の仇を吐き出した後は…死ね!」

その言葉を合図に敵が襲いかかってきた!



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