理持ちと役割
しばし、回復に時間がかかる為、休憩となった。
コボルトの死体は唯一行動可能なスチュワートがさくっとどこかに捨ててきた。
捨て終わり戻って来たあたりでロバートが意識を取り戻す。
「で、理持ちって何?」
お茶を飲み、粗方落ち着いた所で疑問を投げる。
「は?理持ち?なんの話です?」
「いや、三人が私の事を理持ちって言うんだよね」
「まさか…!?そんな!?…だとしたら…?
いえ、今更….!?」
スチュワートにさらっと伝えてみたところ激しく狼狽する。
「あー、普段の説明役がこんなだからとりあえず俺が説明するわ。
まず、理ってのはわかっているよな?」
言われて私は頷いた。
魔法使いは手順通りの呪文を唱えて魔法を使わなくてはならない
モンスターは決められた棲みかから出てはならない
理屈に合わないがそうしなければならない絶対の規則
それが『理』
「理ってのはこう対象が漠然としている。
『魔法使い』だったり『モンスター』だったり。
だけどな、稀に…いや、そんなレベルじゃねぇな、世界でもほんの一握り…いや、もっと少ない、世界の中心に属する存在…これじゃ分かりづらい…なんていったらいい?」
「しいていうなら『主役』じゃなぁい?
この世界の主役よん。」
主役?
なんの話だ。でも酷く嫌な予感がする。
「まあ、そうだ、世界には主役級に重要度の高い者がいるらしい。
らしいってのはみた事ねぇからよくわからない、ただ漠然と知ってるだけだ。
『理』と同じく何故か知ってる常識だ。
…とにかく、本来漠然とした対象にしかないはずの理を個人が有してる場合がある。
それが『理持ち』」
「理持ちには世界が求める役割がありそれを果たす為だけに生まれてきている。」
ロバートとマリエリが交互に言う。
え?でも理解できない…
それとスチュワートへの鞭打ちが何故結ばれる。
「スチュワートへの鞭打ちは貴女が真実望んで行った行為ではなく、一種強迫観念にも似た感情に突き動かされての行動だった…ちがくて?」
問われて私は頷く。
「つまり、お嬢ちゃんのスチュワートへの鞭打ちは世界が望んで貴女にやらせていた行為だったのよ。」
「世界がやらせていた…?」
ぞっとした。
すでに魔法使いという枠から外れてしまっている私。
ここにきてさらに枠からはみ出していることに気づいたからだ。
「でもそれをしなくなった。本来理から外れることが出来ないのに外れてしまい結果世界は世界が望むようには動いていない…のかもしれない。」
「ちょっと待って!」
堪らず待ったをかける。
「つまり私は『スチュワートを虐げなくてはならない』とかいう訳のわからない理持ちなの!?」
なんだそれ?
意味がわからない。
「まさしくそうなのでしょうね。
貴女はスチュワートを虐げる事により世界が望む役割を果たすのよ。」
…世界が望む私の役割?
もしあるとしたらそれはあれだ
『悪役』だ。
…私は『主役』じゃない。
「お待ちください。もし仮にですよ?お嬢様がなんらかの理持ちだとして、その理を全うさせる為に『私を虐げる』という行為を行っていたとした場合、その行為対象に名前が挙がっている私も強制的に…」
「案外なんらかの『理』をもって生まれたのかもねん?」
なんだか楽しそうだ。
「で、ある意味対をなすからこそ修正へと動くってかぁ?」
『スチュワートを鞭打ちしなくてはならない』が私個人に適用される理ならば、『リナリーバーに鞭打ちされなければならない』もまた個人に適用される理。
この二つは対をなすとも言える。
片方が理から外れるともう片方も強制的に外れる。
それをさせじと修正が働きスチュワートは鞭打ちされたくて仕方がない状態へとなったのではないだろうか…?
ケタケタとエリーも笑う。
「スチュワート、あんたも『鞭打ちされなくてはならない』っていう強迫観念で動いているんだろ?」
「いえ?私は心底お嬢様からの鞭打ちを望んでおります。
私の心は見えざる手によってかき回されるほどヤワではないのです。」
『…』
あれ?
私はともかくスチュワートはなんだか方向がおかしい?
「もし私にも理があるならばそれは最期までお嬢様の手となり共にいる事。それに尽きます。
その為に生まれてきたというならば、私はこの生を喜んで受け入れましょう。」
「…それが最期は死ぬことになろうとも?」
「貴女と共に死ぬ事を許されるのは至上の喜び。
他の誰にも邪魔はさせません。」
「頼むから本当、死ぬときは二人でな?
どっちか生き残ると残って面倒見る方の心労が洒落にならん。」
ロバートが真顔で忠告してくる。
だけど、悪い、ロバート。
私に心中の趣味はない。
死ぬ時は一人だ。彼は連れていかない。
だからこそ、私はスチュワートの言葉をたわごととして鼻で笑い飛ばした。
「他には?」
「他?」
「他にも何か強迫観念でやっていた事はない?」
「幾ら何でも『スチュワートを鞭打ちする』事だけで世界が変化するとは思えない。」
確かに…
私は考える。
いや、考えるまでもない。
私が『悪役』という役割を持ち行動をしていたのならば、もう一つ絶対に外せない理が存在する。
「『殿下を愛さなくてはならない』」
溺れて以降見事に消え失せた殿下への愛。
今なら第三者的視点で観れるからわかる。
あれは異常だった。
執着、執念、妄執
これらを愛と呼ぶにはあまりに醜い。
「それは素晴らしい」
スチュワートが言う。
「?」
「あの男を本来は愛してなかったという事。
それは私にとっては福音です。」
…?
よくわからないが、まあいい。
大事なのは殿下という王家の人間が私の役割全うの為の理に含まれていたということ。スチュワートの件と違いそれは充分世界を変える力がある。
「なんか、予想外のことが色々わかってきたな…」
ロバートがぽつりと言う。
私には世界が望む役割がある『理持ち』(私は役割の正体を『悪役』と知る)
その役割を全うする為に『スチュワートを虐げ』さらには『殿下を愛する』。
この二つがどう結ばれるのかはわからないが、この二つを滞りなく全うすれば私は世界の礎となれた。
しかし、私はその理から外れてしまい、世界が変化していこうとしている?
その変化は望むべきか望まざるべきか。
私にはわからない。
上から世界を見下ろす神の目でもあれば別だが、私は所詮世界の端で踊る駒にすぎないのだから。
ぱん
マリーが手を打った。
「まあ、考えても貴女の理が何かもわからないし。
とりあえず今は穴ぐらに潜ってオリハルコンを手に入れる、それに集中しましょう!」
その通りだ。
考えてもわからない事をぐちぐちと考えても仕方ない。
「そうですね、ではこのあたりで軽く睡眠をとる事を提案いたします」
スチュワートの言葉に私達は頷く。
「一人ずつ見張りを立てましょう。」
「だな、じゃあ、俺、スチュワート、マリー、エリー、嬢ちゃんの順でいいか?」
「構いません。」
その言葉に私達は眠る体勢となる。
寝具がある訳ではないが疲れていたので、まあなんとか眠れる感じだった…。
「ーーー起きろ!」
はっ!
ロバートの声に叩き起こされる。
飛び起きて周囲を素早く見回せばいつの間にか炊かれた火に照らされて浮かび上がるのは大地の妖精とコボルト!
大地の妖精の数は数えるのもバカらしいくらいの量が存在しており、逃げ道を塞ぐようにその場にいる。
そして、コボルト。
先程取り逃がしたキングコボルトと共に現れたのは鎧を着込んだコボルト十体。
…酷く嫌な予感がした。
私は本能に突き動かされて呪文を唱える。
『ほんとだ』
『あねさまのかたきだ。』
『かたきうちだ』
『あねさまのいたみをおもいしれ』
たてがみを逆立てて全てのコボルトが私達を…気のせいか私を見る。
「…こいつら!全部キングコボルト!」
「いやーん!こんなことはじめてん」
「やべぇぞ!おい!」
ロバートとマリエリが戦闘態勢へと移行する。
しかし、視線は抜け道を探していた。
可能なら撤退をしたいのだろう。
しかし、それを許さない敵の雰囲気を肌で感じとる。
「『あねさまのかたき』とはどういう意味なのでしょうね。」
スチュワートは相手の言葉に疑問を投げかける。
「しらねぇよ!どーせ、俺達が仕留めた犬っころの中にこいつらのねぇちゃんがいたんだろ!」
ロバートが半ば恐慌状態で叫ぶ。
「果たしてそうでしょうか…?」
しかし、スチュワートの疑問に答える声はない。
あるのは一つ。
咆哮のみ。
『がうううううう!』
あの時の耳の鼓膜を破るような破壊的音に私達は晒される。
同じ音を聞いても同じコボルトはダメージがない。
しかし、人間である私達は一瞬…私は一瞬ではきかないようなダメージをくらうがへたり込むのは回避する。
二度めだから耐性がついたか?
その隙をつき、キングコボルト団は動く。
キングコボルト十体のうち四体がマリエリ、ロバート、スチュワートに向かっていく。
そして…
残り六体、全てが私に躍り掛かってきた!
まて!
「お嬢様!!」
スチュワートが自分に飛びかかってきたキングコボルトを無視して私のカバーに入ろうとするが、それを許すほどキングコボルトは弱い存在ではない。
スチュワートの動きを制する!
「!!!!?」
キングコボルトの爪が私を襲う!
無論、避けるなどという高尚な真似はできないのでまともに食らう!
しかし、痛くはなかった!
あれか!ローブの特性!!
高かっただけはあるのか!?
私はたたらを踏むが尻餅をつく事はなかった。
そこに六体のキングコボルトの波状攻撃がくる!
私はローブの性能を信じてその場にしゃがみ込みフードをかぶって丸まった。
なんか、刺激はあるんだけど、別に痛くはない。
このローブすごい!
光の妖精の羽だっけ?素晴らしいではないか!
しかし、いつまでも感動している場合ではない。
私は呪文を唱える。
『おとうと、かたきのくちをふさげ!』
キングコボルトが叫ぶと同時にすぐ足元の大地が歪む。
ーーー大地の妖精!
しかし、私の詠唱短縮を甘く見てはいけない。
既に呪文は唱え終わった!
私はありったけの運動神経を込めて横に転がった。
仰向けになった私のすぐ横に出現した大地の妖精、すぐ真上にはキングコボルトの群れ。
迷わず上に魔法を放つ。
「衝撃波!」
六体中一体顔面直撃!
キングコボルトに隙が生まれて私はすぐに立ち上がる。
地味に邪魔する大地の妖精は踏みつけて散らす。「お嬢様!すぐに…!」
「おとこ、こっちだ。みてないとしぬぞ?」
「!」
ナイフで爪を受け強制的に足止めを食らうスチュワート。
どうやら、まだまだスチュワートの手助けは期待できそうもない。
他のメンバーも同じようだ。
『よくもやったな…!』
私が衝撃波を叩き込んだキングコボルトが痛みに怒りながら言う。
うわっ!生きてる!
これはもう少し威力のある魔法で仕留めるか。
あまり広範囲な魔法や破壊力がある魔法は通路崩壊へと繋がると思い遠慮していたが…。
少し考えを改めていかねば、キングコボルトに殺される。
私は呪文を唱える。
『しろいふくだめ!あねさまのちからある!』
『はだをねらえ!』
「!!?」
しろいふく…白い服…ローブの事!?
あねさまのちから!?
これは光の妖精の羽を使ったローブであってコボルトは無関係なはず!!
だが、言い訳は許されない!
今度は亀のように縮こまっていたら死ぬ!
呪文は全部破棄することを即断した。
馬鹿正直に唱えていたらあの世いきだ!
「窒息!窒息!窒息!窒息!窒息!窒息!!」
『ぐはっ!?』
ひたすら魔法を連打する。
はっきり言ってこれは反則だ!
呪文完全破棄して魔法の連打が出来る魔法使いに勝てる奴はこの世にいない!
キングコボルトの呼吸を止めた私は次に他のキングコボルトを品定めする。
もう適当に選んで…!
「お嬢様!後ろ!」
「!?」
スチュワートの声に振り向けばすぐ目の前に大地の妖精!
だが、こんなの敵ではない。
「窒息!」
私は魔法を大地の妖精にかける。
しかし、大地の妖精は動きを止めない!
何故!?
考えている暇はなかった。
大地の妖精の体の一部、汚泥が私の口内へと侵入したのだ!
「ーーーー!?」
私は目を剥く。
呼吸が出来ない!
「お嬢様!」
スチュワートの声が聞こえるが、助けは期待できない。
汚泥を吐き出したいが、意思ある汚泥は喉を通過し、肺へと侵入していく。
呼吸不能…!
回転する視界に窒息魔法から立ち直った…死ななかったらしい…キングコボルトの一体が私を捕らえた!
「あああああ!」
頭を大きな手で捕まれて私の体が宙に浮く。
「お嬢様!犬風情が!その手を離せ!」
スチュワートが今度こそ助けに動いたようだが、窒息魔法から復活したキングコボルトの残り五体が道を塞ぎそれを許さない。
『このままころすか?』
『いいやははさまにおみせしよう』
『そうだははさまこそあねさまのかたきをそのてでころしたいにちがいない』
『おつれしよう』
『おつれしよう』
『おとうと、かたきはまだころすなよ』
ぐぽ
口から汚泥は出ていく。
止まっていた呼吸が可能となるが意識白濁としており魔法を使うことは不可能。
『いくぞ』
『こいつらは』
『ころせそしてつれていけ』
言って私を捕らえたキングコボルトは私を担いで走って戦線離脱。
「ーーーお嬢様!」
遠くでスチュワートの声をききその後すぐに意識が暗転した。




