本当
「……………」
体の前で、両手を合わせてから、互いの指と指の間に絡める。静かに両目を閉じる。完成。
これが最後と思う時、その姿勢がやっぱり祈りって意味がよく似合っているんだな。って、ちょっとオカシイ事を思う。誰かの無事を願うとは使命ではなく、当たり前って事。
これには、そうある。
シンシン……シンシン……
クォルヴァは"SDQ"の噴出孔の上に立っていた。
覚悟はもう決めた。そして、その覚悟が釣りとして帰ってくるほど、未来に託したこと。現在においてもそれが最良であり、……言いたくないものであるが、使命や。……もっと酷く言えば、自分の使用用途なのだろう。
"人類存亡の切り札"
光栄。
物はそう思ってくれるかな?
シンシン……シンシン……
「……………」
「…………突き落とそうか?」
「止めてくれ、バードレイ」
振り返らない。
しかし、分かっている事がある。後ろにいるバードレイの事じゃあない。
その奥で2人。死んでいる事がだ……。
だから見るなって、言い聞かせる。行動で示す。
「私がすることは。あなたにとっては酷く簡単だ」
これからバードレイがやる事。藺兆紗を失って、どうするのかと考えた。
春藍達がなぜにその答えに辿り着けなかったか。謡歌の読みも、意味合い的には大きく外れている。
「巻き込まれたりすれば発動できる。時間の問題となったのは、私の方になってしまった」
「別に急いではないわ。偶然や悪意があった方が、あなたには良いのかなって。それで突き落とすって言ったの」
「カッコつけて、やりたいんだがね。この時くらい」
今、クォルヴァがやる事は単純に、"SDQ"と同化する事である。
ただし、藺兆紗戦とは異なり、脱出をしたりする事なく、完全なる同化を成し遂げようとする。これにより、一時的ではあるが、世界どころか"無限牢"全てにある"SDQ"を一時的に制御できる。
とはいえ、消滅はできない。
同化し、無限に増え続ける事を抑止して、一定量に保つことがクォルヴァの最大の時間稼ぎ。己の命を犠牲してまで、やればその時間は相当長いと自ら思っている。
だが、それもバードレイの前とやる事の前では、大したことじゃないだろう。
重要なのは
「私が"SDQ"と同化し、君は私ごと"SDQ"を消し去る。そーいう手法でこの災害の全てを乗り越えようとしている」
クォルヴァの同化によって、"SDQ"の数は増えない。しかし、バードレイの"終焉"ならば"SDQ"を減らせる。"SDQ"がある一定の量まで減り、"終焉"がさらなる進化を遂げれば
「君の時代が生まれる」
要領は分かった。その上で
「正気かい?君の奥にいる2人は死んでしまった。痛みに敗れたわけではなく、人がそうやって死ぬことだ。まぁ、君は死に向かわないんだろうが。覚悟しているかい?私は君に殺される。君は誰にも殺されず、永遠に近く生きていくんだ」
バードレイが躊躇して欲しいなんて思わない。
どっちにしろ、気の狂っている事なのだ。
ちょっとした脅し。掃われるだろうが
「一度、私は君に賭ける。だから、君が時代を作れ。そのあとで春藍くん達が君を倒す。諦めないでくれ」
「愚問ね」
「……………」
クォルヴァは振り返らずに飛び込んでいく。
ただ成功だけを祈るという、悲しい自分だ。
「っ」
バヂイィィッ
"SDQ"に触れた瞬間、浸かっていく時。体の崩壊されることと、最高速の回復を展開。ぶつかり合いながら同化していく。"SDQ"にとっては異物が入り込んできており、クォルヴァの体を全て消し去ろうとする。それを抑え込みながら、クォルヴァは支配していく。しかし、どれだけ持ち堪えられるか。
膨大とある。同化できる範囲は、己が知らないほど広きことだ。可能なのか?
バギイィィッ
「くっ」
『いいぃぃっ』
「若、堪えているか」
『ああ。心配しないでいい』
「…………」
『上手く、やれよ。お前だから世界を救える1人なんだ』
体が四散されていく痛みを若と共有し合う。
「っ」
私が死んでしまったら、同化の侵食が止まってしまう。
今は耐えろ。
ブヂイイィィッ
『ぐあああぁぁっ』
「っっ!」
想像を超えるのが現実である。クォルヴァの想定以上に、"SDQ"との完全なる同化は多大な負荷であった。ゆっくりと若の体と自分の魂を切り離す。その時、若はクォルヴァのおかげで生きていられる事の全てを失った。
白い雪の中で、フワァッと、風みたいに若の体の全てが消えていった。
「っ」
肉体的なものも、精神的なものも。この時、効いた……。
楽じゃないな。
これを耐え続けること。
それもたった1人で、終わるまで続けるのか。本当にやるのか。
けれど、本当に見えない。本当にいない。そんな事分かっていても、感じるものもある。
「……………」
最後の管理人もこうして終わってしまうか。
桂、ポセイドン、……みんな。私達が残すことができた物で、今を支えるよ。
私がここでやらなければいけない。
こんな痛みを浴びながら、みんなの力を感じるよ。とっても、とっても、強い力だ。
「いいよ」
死と引き換えに、人類を護った。管理人の信念をみんなで貫いた。これでいい。
これ以上の意識はなくていい。
その心のまま、
同化するのだ、私。心配は要らない。人類はもう
「時代の支配者を打ち破るんだから」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
自由を手にしろ。
全ての管理から外れた今、手をとるも、話をするも自由だ。
重く小さな一歩であるかもしれないが、進んだんだ。進めたんだ。我々、管理人が……
「…………」
管理人、クォルヴァ。
自らの能力によって、"SDQ"と完全なる同化を果たし、一時的というほど短い間ではあるが、体の全てを捧げて食い止める事に成功する。
その成功と引き換えに、クォルヴァは意識すらなくなって生きる事になった。
また、クォルヴァが使役していた肉体。若はその過程で消え去り。
ヒュール・バルトと春藍謡歌は、これからやるバードレイのさらなる無謀を知り、失意のまま死んでしまった。
「これで、私1人になれた」
本当にバードレイだけが、1人いる、時代になった。
クォルヴァ、春藍謡歌、若、ヒュール・バルト。死亡。