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RELIS  作者: 孤独
謡歌編
633/634

本当

「……………」



体の前で、両手を合わせてから、互いの指と指の間に絡める。静かに両目を閉じる。完成。

これが最後と思う時、その姿勢がやっぱり祈りって意味がよく似合っているんだな。って、ちょっとオカシイ事を思う。誰かの無事を願うとは使命ではなく、当たり前って事。

これには、そうある。



シンシン……シンシン……



クォルヴァは"SDQ"の噴出孔の上に立っていた。

覚悟はもう決めた。そして、その覚悟が釣りとして帰ってくるほど、未来に託したこと。現在においてもそれが最良であり、……言いたくないものであるが、使命や。……もっと酷く言えば、自分の使用用途なのだろう。



"人類存亡の切り札"



光栄。


物はそう思ってくれるかな?



シンシン……シンシン……



「……………」

「…………突き落とそうか?」

「止めてくれ、バードレイ」


振り返らない。

しかし、分かっている事がある。後ろにいるバードレイの事じゃあない。

その奥で2人。死んでいる事がだ……。

だから見るなって、言い聞かせる。行動で示す。



「私がすることは。あなたにとっては酷く簡単だ」



これからバードレイがやる事。藺兆紗を失って、どうするのかと考えた。

春藍達がなぜにその答えに辿り着けなかったか。謡歌の読みも、意味合い的には大きく外れている。


「巻き込まれたりすれば発動できる。時間の問題となったのは、私の方になってしまった」

「別に急いではないわ。偶然や悪意があった方が、あなたには良いのかなって。それで突き落とすって言ったの」

「カッコつけて、やりたいんだがね。この時くらい」



今、クォルヴァがやる事は単純に、"SDQ"と同化する事である。

ただし、藺兆紗戦とは異なり、脱出をしたりする事なく、完全なる同化を成し遂げようとする。これにより、一時的ではあるが、世界どころか"無限牢"全てにある"SDQ"を一時的に制御できる。

とはいえ、消滅はできない。

同化し、無限に増え続ける事を抑止して、一定量に保つことがクォルヴァの最大の時間稼ぎ。己の命を犠牲してまで、やればその時間は相当長いと自ら思っている。

だが、それもバードレイの前とやる事の前では、大したことじゃないだろう。



重要なのは



「私が"SDQ"と同化し、君は私ごと"SDQ"を消し去る。そーいう手法でこの災害の全てを乗り越えようとしている」



クォルヴァの同化によって、"SDQ"の数は増えない。しかし、バードレイの"終焉"ならば"SDQ"を減らせる。"SDQ"がある一定の量まで減り、"終焉"がさらなる進化を遂げれば



「君の時代が生まれる」



要領は分かった。その上で


「正気かい?君の奥にいる2人は死んでしまった。痛みに敗れたわけではなく、人がそうやって死ぬことだ。まぁ、君は死に向かわないんだろうが。覚悟しているかい?私は君に殺される。君は誰にも殺されず、永遠に近く生きていくんだ」


バードレイが躊躇して欲しいなんて思わない。

どっちにしろ、気の狂っている事なのだ。

ちょっとした脅し。掃われるだろうが


「一度、私は君に賭ける。だから、君が時代を作れ。そのあとで春藍くん達が君を倒す。諦めないでくれ」

「愚問ね」

「……………」



クォルヴァは振り返らずに飛び込んでいく。

ただ成功だけを祈るという、悲しい自分だ。



「っ」



バヂイィィッ


"SDQ"に触れた瞬間、浸かっていく時。体の崩壊されることと、最高速の回復を展開。ぶつかり合いながら同化していく。"SDQ"にとっては異物が入り込んできており、クォルヴァの体を全て消し去ろうとする。それを抑え込みながら、クォルヴァは支配していく。しかし、どれだけ持ち堪えられるか。

膨大とある。同化できる範囲は、己が知らないほど広きことだ。可能なのか?




バギイィィッ



「くっ」

『いいぃぃっ』

「若、堪えているか」

『ああ。心配しないでいい』

「…………」

『上手く、やれよ。お前だから世界を救える1人なんだ』



体が四散されていく痛みを若と共有し合う。


「っ」


私が死んでしまったら、同化の侵食が止まってしまう。

今は耐えろ。



ブヂイイィィッ



『ぐあああぁぁっ』

「っっ!」


想像を超えるのが現実である。クォルヴァの想定以上に、"SDQ"との完全なる同化は多大な負荷であった。ゆっくりと若の体と自分の魂を切り離す。その時、若はクォルヴァのおかげで生きていられる事の全てを失った。

白い雪の中で、フワァッと、風みたいに若の体の全てが消えていった。



「っ」



肉体的なものも、精神的なものも。この時、効いた……。

楽じゃないな。

これを耐え続けること。

それもたった1人で、終わるまで続けるのか。本当にやるのか。

けれど、本当に見えない。本当にいない。そんな事分かっていても、感じるものもある。



「……………」



最後の管理人もこうして終わってしまうか。

桂、ポセイドン、……みんな。私達が残すことができた物で、今を支えるよ。

私がここでやらなければいけない。

こんな痛みを浴びながら、みんなの力を感じるよ。とっても、とっても、強い力だ。



「いいよ」


死と引き換えに、人類を護った。管理人の信念をみんなで貫いた。これでいい。

これ以上の意識はなくていい。

その心のまま、



同化するのだ、私。心配は要らない。人類はもう



「時代の支配者を打ち破るんだから」



ゴゴゴゴゴゴゴゴ



自由を手にしろ。

全ての管理から外れた今、手をとるも、話をするも自由だ。

重く小さな一歩であるかもしれないが、進んだんだ。進めたんだ。我々、管理人が……



「…………」



管理人、クォルヴァ。

自らの能力によって、"SDQ"と完全なる同化を果たし、一時的というほど短い間ではあるが、体の全てを捧げて食い止める事に成功する。

その成功と引き換えに、クォルヴァは意識すらなくなって生きる事になった。


また、クォルヴァが使役していた肉体。若はその過程で消え去り。


ヒュール・バルトと春藍謡歌は、これからやるバードレイのさらなる無謀を知り、失意のまま死んでしまった。



「これで、私1人になれた」



本当にバードレイだけが、1人いる、時代になった。





クォルヴァ、春藍謡歌、若、ヒュール・バルト。死亡。



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