生道
ドタァッ
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
歴史、時代にはこう書かれる。
『
消えた過去と現在、未来から。
選ばれた7人が消えた時代を持って、新時代と戦うこととなった。
』
彼等を見送り終えた残った者達は、ここまで堪えていたものが決壊し、その場で恐怖と悔いと無念。そして少しの希望で、地面へと倒れこんだ。
今を支えていた者達を失って、未来を護るため。
それに意味はあったかどうか?
ただ、分かっているのだ。
ここに残る者達には悔しい気持ちで、分かっている事がある。
彼等が、今の自分達を助けるという意味がない。
分かっている。受け入れてもいた。
残る人類は一丸となって、彼等を許すための悪行もした。記憶操作をしてでも、それが正常だって判断をした。歴史が違っていると答えても、今の人としては間違いではないからだ。
命が尽きたと知り、心はそれで死ぬ。
百数人の人達が、彼等を失って20人ほどとなった。
まだ遣り残しがあるように、立ち上がった。
「やることがないのである」
そう告げてもだ。行動は違っている。
「死も、もう止めない。法はないのである」
苦しいと感じているから、生きようとする。その辛さを感じながら、最後の1人になろうと1人は群れから離れていく。酷いかもしれない。けど、酷いことかもしれない。
立ち上がった20人には、そんな彼の歩みについていく勇気も気力も、体力もなかった。ここでまた死んでいった。
それでも去った彼が残すものに、死でも残る。
薄い意識の中、懸命に見上げて映ったものがもう、羨ましい事ではない。
パリッ
「…………」
高いところに座り、汚く乾いた残りのビスケットを頬張り、倒れる人々の様子を分単位で記録する。
こうして語られる、人類の終焉の様子を納めて保管すること。
千切れてしまうかもしれない。抹消されるかもしれない。
だが、今の者が今を残すことに罪はない。未来が今という過去をどう判断するか決めればいい。
人が、1人。また1人。命を散らしていく。
「!」
だが、彼のように。1人の彼女は立ち上がった。
生きたいからじゃない。苦しみから逃れたいだけじゃない。
それでも記録をとる彼からは、その彼女の動きが生きているという事を認識させた。
絶望しかない雪が降り始め、もうここも危ないというのに、生きていくって事を思った。
どんな恥を知ろうか、どんな苦を知ろうか。
「ううん」
きっと、笑いたいんだ。幸せなのかな。悔しいはもう、彼女の瞳にも。彼の瞳にもない。
これからの時代に彼女は説いた。
胸中。正直に。
「苦しいよ」
時代に生きること。
「無茶だよ。諦めてよ」
人ではないから、その言葉がよく響く。
「このまま、全部が終わって欲しいの。人の結末はもう決まってる。お兄ちゃんとは、戦わないで……」
時代はなんと言うか?
「そうかしら。それって、あなた達が言う常識の中ってもの。根底から否定しなければ、人は変われない。人が人を決めるのもおかしいこと」
「……あなたがどうやって先の時代で生き残るか。考えたの。すぐに分かったけど」
それだけで苦しくなる事だ。今、自分達が弱く、崩れているというのに。
やり方がとても単純なんだ。
「ホントに生きているつもりなの?私、死んじゃうよ。やっぱり死んじゃう。一緒にいられる時間よりも遥かに長い時間。あなたは生き続けるの!?どーかしている!!苦しいって、生きるって辛いのに……今が辛いのに。あなたは生きて……」
「それが時という概念」
「なんで人がそれになろうとするの!?無茶苦茶!神様になろうとしても、そんな代償を払ってすること!?誰もがそれを、願いや希望にするだけのこと!そうならないの!?そこまでのことなの!?」
「ええ、すること。あなた達が死んでも、忘れてもね」
ただただ、待っている事。んなわけでもないか。
彼女の必死の訴えなど、声量の違いしか時代は感じてくれない。
「あなた達の希望と戦うのも、私がやりたい事も、どれも一緒。別にね、神様になるのは目的でもないし、そーいうのとは違うから」
堪えていたのだろうな。
きっと。
でも、時代はもっと膨大なものを抱えている。
泣いている人、死んでいく人、小さい錘にしかならないんだろう。
「傍にいて、いい?私は寂しい」
「……あなた達がいられるのなら、構わないわ。私はあなた達に何もしない」
動く時は来た。
「よっ」
それは普通に歩いた。懸命に時代と共に歩んでいく。腐りそうな体を、花のような心で動かす。
時代が向かう先、ハッキリ言って。目的地などない。しかし、目的はある。彼女の想定を遥かに上回る、絶望。虚無感。そんなもの時代にとっては、なんも意味はないんだろう。
生きている2人が、その無謀を知った時。
心と人の死に辿り着いた。