泣喚(実は謡歌がラスボスだった案もあったんですよねぇ)
「っ……ぅっ」
一言もなかったな。
きっと、同じことだから。
「水羽。謡歌ちゃんは」
「分かってるよ、ロイ。散々、散々。喋ったよ。話したよ。でも、」
連れて来たかった。
意地でも無理矢理でも、謡歌が来て欲しかった。
水羽は不器用ながら、説得したんだ。
「謡歌が先生となって、先の時代で働いた方がきっと良いって!謡歌がいないで、僕は何をしていけばいいかって!謡歌が!それでも謡歌が!!」
「よく頑張ってるよ。お前も」
謡歌も堪えているから、ここまで堪えたんだろ。
動いてからそうやって泣き喚くのは、ここにいる誰もが分かっていたよ。
◇ ◇
『どんな世界かは分からないよ。教えることや水羽ちゃんの友達ってだけじゃ、足りないよ』
悔しい。
自分から見れば、謡歌の方が素晴らしく出来ている人で、学ぶことが多かった。
ものや順番を譲るといった行為ではなく、取捨選択。
感情ではなく、理論的に説明されていると、水羽の頭でも分かった事。
『私じゃお兄ちゃん達の力になれない』
そんなの僕には関係ない。
君が好きだからだ。大事だからだ。
『ううん。私には関係がある。前科もあるし……』
それでも、護るよ!
僕は謡歌を護る。
『水羽ちゃんでも、お兄ちゃんでも、私を護ることはできないよ』
?
『私は未来じゃ、何もできない。きっとそれに私が耐えられない。足手纏いばかりで、役にも立てなくて。先を想像すると震えちゃうの。怖いの。でも、水羽ちゃん達はそこに恐怖を感じていない。凄いことだよ』
違う!
『違わない。水羽ちゃんは……。朱里咲を失って、今度は私に縋る感じ。でも、水羽ちゃんにはお兄ちゃん達がいるから。きっと立ち直れる。未来と戦える』
嫌だ!僕は……
『嫌だなんて言わないで!!私だって、水羽ちゃんが羨ましいよっ。すっごくすっごく、好きになっちゃったよ。大好きなんだよ』
………
『どうして、あなたは私を助けようとしてくれるの?お兄ちゃんより愛してくれるの?死ぬのは、怖くないの?そーいうところ、私にはない。水羽ちゃんが思う事、私だって思うの』
……………
『水羽ちゃんも護りたいの。水羽ちゃんならお兄ちゃんも護ってくれる……だから。だから。好きなら、私の気持ち。受け取って……』
◇ ◇
「うううぅ、ああぁっ、謡歌ぁぁっ!!」
僕はやるよ!謡歌!君の気持ちを、僕が護る!
だから、今は気が済むまで。今、君をもっと大切にするから。迷惑をかけていいよね?
水羽が泣き叫ぶ。それは当たり前のこと。
釣られちゃいけないのも、ここにいる者達にとって、当たり前にやんきゃなんねぇコト。
「……………」
こーいうのには嫌がりそうな、アレクが黙っている。
そーいう彼にもあった事だからだ。
もう進んだ。
黙って、気が済むまでやるのがいい。
「心配って言葉は間違いかもしれないけど」
ライラの気持ち。
「謡歌とクォルヴァ達はどうなるのかしらね」
「……できれば、あまり考えたくないです」
「人の一生を考えるもんだからな。だが、そーいう心配も必要だな」
同意する。それとは別に
「バードレイがどうやってやるのかも、気になるよ」
「だな。結局、藺兆紗を欠いて、どーやってやる気なのか。発想が狂ってる人の"本音"は読めねぇ」
「起きたんですか?三矢さん。それとも、起きてた?」
春藍と三矢は敵の様子を思う。その言葉にちょっと、ライラと夜弧はムッとする。
「おいおい、春藍……。俺ですら自粛してんだぞ」
「え?」
「少しは謡歌達の事を思ってあげなさい!そりゃあ……分かるけど。あいつが暴れたりしたらさ」
「そうですよ!」
「ご、ごめん……」
バードレイの協定は、春藍達が無事に未来に行ってから。つまりはタイムマシンを起動してから動こうということ。
謡歌達に危害を加える可能性は高い。普通の感覚であればだ。
ただ、三矢は否定する。
「それはまずあり得ない。本人も言っていたが、救えない者を救うとは思えないし。惨く殺すなんて理由もない。無駄な事はしない主義。快楽殺人鬼ではないしな」
「肩を持つわね」
「むしろ、ひでぇかもな。飼い殺しって奴だ」
「!………」
「楽に殺してくれるとしたら、バードレイがやってくれることだろうが」
そんな言い方は酷い!
それすら悪い言葉になる。謡歌達が残ったところはもう、そーいうところなのだ。
「想像は勝手にやってろ。ライラ、夜弧、ロイ、水羽」
「アレクさん」
「あんた達ねぇー」
立場的にアレクもライラ側だろう。それでも、春藍と三矢に寄ったのは自分のためだ。
彼だってヒュール達が歩む、残りの人生が不安を感じている。だが、もうどうにもならんし、避けようもない。アレク達にとってはもう、過去の事になっているんだ。
「だから、キレんな。すぐに未来には着く。バードレイの時代に、俺達。今は7人が、戦いを挑むんだぞ」