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RELIS  作者: 孤独
終焉編
629/634

合唱


「彼のことを頼むよ」

「…………」

「私は無理だ。ここでやらなければいけない事がある。三矢さんなら、君達の力になる」


最期の1人は三矢正明である。自他共に戦闘力については期待なし。

まぁ。


「賛成っちゃ、賛成」

「ライラ」

「あたし達は戦う役目。三矢は見届け役に調査ができる役。クォルヴァが来れないんじゃ、三矢しかできないでしょ。ね、アレク」


反対の色を示したのは、アレク。だが、それはある程度。納得もいっている。

ライラの言い分も分かる。とはいえだ


「こいつを気絶させてまで連れて行く価値があるかどうか」

「"本音"を読み取れる彼が来るのは、気が進まないわけか」

「終わった世界のあとだ。俺はどーであれ、三矢に対しては絶対的な信頼は持てねぇな。バードレイとの繫がりが、とてもこちらに好転するようには思えねぇ」

「それはそうだろうね」


嫌なことを……。

本人がいて、分からないことで。ぶっちゃける。


「とはいえ、住民の連中がこの最期の椅子に、こいつが座るのを見られるよりかは、良いだろう。逃げ出せる手も降りれる案もできるこった」


偉いでもないし、決して人から見れば特別でもない。


一番目にタイムマシンへ乗り込ませたのは三矢だった。それも外からは隠すような位置で乗せる。万が一目覚めて、勝手な事をしないように、アレクはその隣に座ろうとしたが、


「俺が三矢を見張ってやるよ。アレク」

「あ?なんだよ、その気遣い」

「……アルルエラは逝っちまったしな。俺に別れを言う奴はいねぇ。お前はここで別れを言うべき、聞くべき奴等がいんだろ?これに没頭しすぎだしよ」


ロイがアレクに声をかける。

アレクはそれに、要らんという表情を作っていても、ロイにすらバレる本音が出ている。


「悔いは持ち越すなよ」

「……悔いじゃねぇ。思い出だよ」


アレクはまた降りる。ロイは聞いているだけで十分だった。



勝手に、裏切るようには、自分達は行かない。

"バイバイ"に"ありがとう"なんて意味はなくて。でも、苦しい言葉じゃない。

事でもない。



「辛くない?」



全員の意思はきっとそうでない。

誰かがそれでも、そんな事を思わず。"ありがとう"と、"バイバイ"の両方を伝えるだろう。そーいう人はいる。

全住民がそーやって作られたり、学ばれていて、血縁なんてものは極僅かで、ただただ人という種類が同じだけでも。人だから、感謝や願いを人にする。そーいう生物という、本能。仕組み。抗うべきことや否定すべきことじゃない。


命のやり取りとは違う圧迫感だ。

こうして、



「私達はあなた方に託せるのである」



それは本当のことだ。

式典みたいな感じにはなっていない。

実家に帰ってきた息子達が、今日で帰ってしまうから見送るお爺ちゃんお婆ちゃん的な雰囲気である。



「仰々しくにもならんで、すまんのである」

「ヒュール。俺にそこまでの価値はねぇよ」



丁度、アレク、春藍、ライラ、夜弧、水羽の5人が並んで。

向かい合うように、ヒュール、謡歌、クォルヴァの3人が並ぶ。後ろにはここまで来てくれた住民達が、その見送りに感謝を表していた雰囲気で立っていた。

記憶操作の自覚もあれど、混乱することよりも、受け入れが始まり。



「私達の残り時間は少ない。元気な内に見送れて良かったよ」



クォルヴァの言葉通り、良かった。

まだ己が無事と呼べる状態でいることで、保ていること。人の秩序がある状態で見送ってくれることはありがたく、温かい。そして、誰も逆を容易には想像したがらない。そんな世界でしか見ていないのなら、それは生きているって事が地獄ってもんだ。

そんな見送り方はないだろう。これから先で生きる人間に。また、ここを少し思い出してくれと、ちょっとは良かった過去を、いるまでは続けたい。



「やはり全住民が集まれば、重いかもしれない。もっと昔から見れば、時代の全てがあなた方に掛かっているのである。だが、アレク達ならやってくれるである。この先に何があっても、何があろうと、私達はあなた方の行動に悔いを抱かないのである。それが私達が最期にやれること。送ることである」


余計なプレッシャーか。

それ以上に



「ありがとうな」

「僕達はあなた達の想いを無駄にはしません」


期待されていることと、圧倒的な感謝があった。


「言葉だけは堅苦しくなってしまったであるな」

「ヒュールはその方が良い」



もう還ってこれない。出会えないこと。ここに自分達が留まってはいけないこと。

そして、降りないこと。



「人は幸福を築き、アレクは変わらず研究者として生き続けるのなら、私は嬉しいであるよ」

「そのつもりだ。俺は死ぬ時まで俺だからな」

「なら、私も。死ぬ時まで私でいるのである」

「ああ」



改めて、良かっただろう。

アレクには感謝されるべき人々がいて、そーいう立場でもあったのだ。春藍達よりもそーやって生きて欲しい。願われること。


「良かったですね、アレクさん」

「そうか。俺は、苦手だよ。春藍……」


わかんねぇ、気持ちにしておく。

"ありがたい"がよく効ける。


「あ、あの……」

「謡歌?」

「私。……あ、私達ね。少し、行っちゃうお兄ちゃん達のために、なにかできないかなって。力には成れないけどさ。こーしているだけでも良いかとね、思ったけど。やっぱり」


恥ずかしさもあった。こんな状態でするもんじゃないって、冷静さと緊張感がまだ未熟を残している。それもそうかって、頷けるのが状況。

もう少し時間も欲しくて、色々欲しいのもあって、……ないことに落ち込んでいく。

でも、


「やろうかなって。事じゃなくて、やるの」


一呼吸。


そんな落ち着きで、春藍の手をとって


「お兄ちゃん達に聞いてほしいなって。みんなで、合唱で送りたいな」


声と言葉で紡いだぐらいしか手段はない。

もし色々とあったらまた違ったものだけれど、感謝だけは変わらず、大きいものだった。

やるって気持ちが、照れや恥を後回しにした。


謡歌は住民達の方へ振り返り、合図を送った。



「彼等に歌を届けて、送りましょう!」



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