鉄棒
人類に希望を乗せる。
『とはいえ、関係のない事だろう。人は滅ぶのに』
その時を国単位、世界単位で見てきて。それでも誰かが生きて欲しいと、人が思ってしまうのだ。
なにやっていると、呆れ顔なもので。そんな事をさせまいと
『タイムマシンを造ったわけだ』
別の世界、別の時代。
夜弧がやってきた時代よりも前のことだ。
当時の春藍とアレクと並んで、作業をするのがその当時の三矢正明であった。
色々といるんだ。彼もまた……。
『愚痴愚痴言うな。三矢』
『どーなんですか、あなたは?』
しぶてぇもんだ。
タバコを吸いながら、この時のアレクは語る。まずは
『俺ができるのは過去に"RELOAD"(タイムマシン)を飛ばすだけ。未来に飛ぶのも、仲間引き連れてやるのも、過去改変された俺が果たしてできるかどうかってところが、問題か』
『自分に自信ねぇのか?』
『俺よりも腕が良くなきゃいけねぇ、悔しさもありゃあ』
この時代での管理人達は、過去へ飛ぶために結晶化されている。
そのエンジンは過去へ届けるだけの分しかない。
『どっちにしろだ』
やれることはもうねぇ。
『俺はやりたいようにやる。その過程で、まぁ。助かるってんなら、世界も時代も、どーでもいい。そー答える気がする。構わないのか?三矢?俺はそんな過程で人類の敵を倒す。俺の気分だ』
『知るかよ。どーせ、お前等じゃねぇだろう。俺も俺じゃねぇ』
『だが、お前だけはおそらく何も変わってねぇだろう』
それでもお前は進むだろうよ。
そーいう奴だろう。
『……僕は考えます』
感情や義理、人情といったものを、この冷静で落ち着きある子は問う。
『時代を変えるという覚悟で背負う、人の代償。僕達が背負いきれるものでしょうか?自然を乗り越えるとは分けが違う。人の変化。いえ、進歩というのを知る者達だけが抱いているだけでは、変わりません』
滅ぶもまた選択。
あるいは、生き残ろうとするのも選択。
自分達がこれを過去に送るという事は、振り返るには気の遠いくらい昔のこと。管理社会のきっかけを作った戦争を再び、起こすと同じだろう。時代の変わり目とはそんなこと。
『いがみ合って互いを潰し合うのは、意味がないんじゃ?』
『ふむ』
『戦うというにしても、僕はきっと。僕なりに戦います。相手を消すということ、僕にはそうすぐにできない。その人にも清い志があれば尊重してしまう。誰だって争いは避けたい。けれど、進んでいくには価値観の違いが必要。難しいですね、うん』
今の悩み。
変わる時代の自分もきっと、それに悩むだろう。どんな答えを出すか。
様子見という優柔不断で良いか?あるいは、中立に立って裁定するか。少なくとも、人類の滅亡を阻止するための"科学"を作り上げたのだから、その目的は果たすだろう。
そこで生きる人々がどれだけいて、どのような。生き方をするだろうか。自分はそこに意見を投影できるだろうか?それとも恐れて、黙るだろうか。
◇ ◇
「完成した」
消えた未来から、新たな過去が生まれ。現在が未来を変える。
「……とりあえずな」
全員を乗せられるわけではない。
予定通り、7人。最低限の7人。
「人を集めていいかい?」
「ああ……」
クォルヴァはそれを知って、ライラ達に連絡を入れる。いよいよか、ということだ。
アレクは操縦席で一休み。彼が大事に持つ、管理人の結晶。これを眺めると、どれだけ今を変えようと時代が躍起になったか伝わってくる。
生きろっ、そうやって。管理社会の時代の遺産から知れる。
生き残るに相応しい、ここの財産。集まる。
「完成したんですね!アレクさん!!」
春藍慶介。
「喜びはあるけど、この先もあるわよ。気を抜かない」
ライラ・ドロシー。
「気、張り詰めすぎだ。ところで、どんな感じで移動すんだ?異世界の空間移動と違うんだろ?」
ロイ。
「初めて使用するんだ。そんなもん、知らん。安全の保障だけはある」
アレク・サンドリュー。
「過去に飛んだ時は一瞬でした。それはもうすぐ。きっと同じだと思いますよ」
夜弧。
「ぐすっ……ひぐ……」
水野水羽。
……計、6人。
めっちゃ泣いた後の水羽に、ロイは優しく声をかけてあげる。
「ここに残ってもしょうがねぇんだ。たっぷり泣いて、別れも済ませただろ?」
「そうだけど……だけど……」
「謡歌ちゃんも、お前のために頑張って、別れたんだ。精一杯、次で生きてやるのがお前の務めだ。戦えなくても、誰も責めやしない」
「ううん。……うん。僕も、生きるから」
7人という枠に6人が集まった。
春藍がクォルヴァから預かっている代物、"命の魂"。死んだ人間を一度だけ蘇らせるという、クォルヴァの切り札。
「それを使うのはまだ早いだろ」
「そうですね。ところで僕が預かっていて良いんですか?」
「治す役目は春藍でしょ。春藍なら生存率は高いだろうから、春藍が決めなさい」
「そうですね。ライラが持ってたら、春藍様にしか使わないかと」
「おいおい」
誰かが死んだ時の蘇り。貴重なものである。
だが、ここにいるほとんどが、意見を一致させて決めている人物がいた。
「効力は未来でも可能だろう。今、使っちゃ席を減らすだけだ」
「あと、最後の1人は……」
◇ ◇
ドゴオオォッ
「テ、テメェ……」
ドタァッ
「面倒なんで背後から鉄パイプで殴っておきますよ、三矢さん」
なに恐ろしい事やってんの!?
クォルヴァは三矢の背後から襲い掛かる。仲間でやるんだから
「あなたって恐ろしいわね」
「君でもしたんじゃないか?」
「ええ、もちろん」
ラスボスも納得できるっちゃできるが、卑怯の詰め合わせはいいものではない。
「彼はこれからも全ての責任者だ。私はこの時代に残らなければいけないし。なにより、バードレイ。ここで君を止める役目も必要だからね」
「私は何もしないわよ。そーしてたでしょ?心外」
あくまで可能性の話し。とはいえ、バードレイは自分を大事にしている。
彼等が旅立つまでは本当に何もせずにいた。それがこの人の性格なのだ。そして、
「三矢さんには背負ってもらわなければいけない。それに今のを避けなかった。"本音"で私の行動は筒抜けのはず。こーでもしてもらわないと、行く感じにはなれないんでしょう」
「ふーん……」
「お互いに面倒だね」
「いいじゃない。そーいうところもあって」
クォルヴァは三矢を抱える。そして、謝らないといけない人がクォルヴァにはいる。
「ごめんね、若くん」
『なにが?』
「君には何一つの権利もないことをさ」
……三矢がいれば、気持ちが揺れるだろう。でも、クォルヴァはもっと分かるだろう。
クォルヴァがないように、若には巻き込れるようにだ。
『いいよ。僕の体が一時的に世界を救えるきっかけになるなら名誉かもよ。らしくない事もさせてくれ』
「……ありがとう」
『1人だけ背負うのは辛いだろ?少し荷を、持ってやる』
「……ふふふ。寂しくはないね」
若の言葉に押されてしまったと、クォルヴァは予期せぬことに嬉しくなった。
人類が生き残るため、最後の管理人として生き残ったわけだ。その管理人の最期に、人間が付き添ってくれるのだ。ありがたいこと。管理人としては、最も幸せな最期だなって思えた。