製作
バードレイとは相反しているものだ。
タイムマシンの改造も佳境に迫り、それが自分達も知らないでいるが。消えた過去の自分達が時代を超えて、届けてきた存在であるのだ。バードレイの輪廻転生と概念思想に対抗し、重なるように時代の覇権を握らせんと、想像と創造の限りを尽くしたことだ。
それは目前で形と成りて、
「これで終わりじゃねぇぞ」
アレクが春藍の集中力不足、迷いに激を飛ばした。
「いつだってそうだったろ、春藍」
「アレクさん……」
「タイムマシンは作り上げる。遥か昔から、それは大前提じゃねぇか。それで、俺達技術者の使命が全うされちまうか?そんなわけねぇだろ」
絶対の実力差に打ちひしがれている事に、自分達が気にしている事じゃない。
人は人。それも違う。
造りたい物があるから、造る?
違うな。
「なんにでも造りあげる事は、終わらねぇからだ。ま、やり遂げる事は終わらん」
人生に終わりはある。完成っつー、形もあれば。未完成というどーしようもない現実もあらぁ。
アレクの言葉は物とか、規則だ、じゃなく。単純な行動にある。2人はそーいう技術者であり、冒険者や旅人でありゃあ。とりあえず世界の果てまで歩いたのなら、今度は海の中にでも入って探してみれば良い。技術や知識を求める理由に資格を得ようとするのも良い。
漠然としてても楽しいもんを見つけ出そうとする、答えも用意されないこともある。
先ってのは長いものだ。
時代の流れで勘違いされるもの。あるいは本当に変わるべきものなのかもしれない。
人ってのは不完全であるから、完全を追い求める。辿り着く喜びと満足に、甘い希望を断ってしまうこと。
そこにいけない事が多くあるってのにだ。
「その先の事はその時に考えろ。お前はちょっと真面目過ぎる」
「ですかね」
「違ったか?お前の良いところだと思うぞ」
「アレクさんの言葉が嬉しい反面。どうしたものかって」
春藍の考えている事が少し違うこと。
おそらく、自分以上に関係の差を知っていての事と思ったが。どーも違うらしい。
「こう。……なんて言うんですか?実際に差があります」
「奴とのな」
「ええ。でも、戦うことが答えなんでしょうか?勝ち目がないから屈するというのは、間違いなのは分かっています。理を尽くして立ち向かうのも答えなんでしょうけど。管理社会や様々な世界を見てきて、彼女と戦うという選択肢は避けられないのかなって」
ロイとは違う意味である。
管理人の立場などを考慮した上で、そのような平和主義的な言葉を春藍は搾り出した。
正直なところ、勝ち目がないからの答えの裏返しであろう。
「ひとまず。死なない程度に戦いなさい。そうすれば戦う気持ちができる」
「クォルヴァさん」
「間に合いそうかい?」
「そこは当然だがな」
時間が迫ってくること。クォルヴァも、彼等と共にできる時間がもう少なくなってきた。
そーいう迷いがあるとすれば、春藍だけであろう。
その上でクォルヴァは、バードレイがこれから作ろうとする世界を否定するため。
「消さねばならない存在なのは事実だ」
強い言葉を使う。立ち向かうという、難しいことを他人に押し付ける。なんて酷いことをする。
自分の存在意義のためではない。ましてや、人が存在した理由のためでもない。
「これまでの全てが、たった一人の人間のために動いている。その事実に否定と抹殺をする事で、ようやく全部が自由を得られる。君があの力に屈しれば、希望はないんだ」
改めてのこと。故に訊く。
「僕がやる、やらないの自由もあると思いますけど」
「まぁ、それもあるね。自由でなくとも、不自由ではなかったね」
「彼女を支持するわけではありません。ですが、管理人やかつての人類の、全ての気持ちを汲み取れるわけでもない。そのことにクォルヴァさんは怒りますか?」
「結果次第かな。少なくとも、抹殺してくれ。その先の事は私が関与するべきことじゃない」
そーいったところなんだろう。
ある意味、そのことで
「かつての独裁者や神、絶対の力。それはやがて大衆の多くが、現実にて否定しようとしたものの価値の名だ。永遠続くわけでもないと、歴史に載る。管理社会が終わった事が事実であるように。全てが不幸だったわけじゃないし、全てが幸せだったわけでもない」
過去を顧みてのことでもあるまい。
「俺はやる。ライラも、夜弧もやる。ロイと水羽は分からんが……春藍も、そうか?」
「完成して向かった先で。もし、ちゃんと人がいて。秩序ある社会が成り立っていたら、複雑なんです。それを過去からの僕達が関与してしまうなんて。もちろん、見てから決めますよ。即決になれないだけです。未来にも人類があるはずですから」
「……そう願いたいね」
根本的なところだろう。
春藍が今の状況を不思議というより、疑問というより。直球に。
「ここを任せて良いですか?」
「……気をつけていくんだね」
「はい」
バードレイに尋ねてみる。
もし、戦うべき相手が話す相手となれるのなら、こんな世界の窮地でも明るくできることだろう。
春藍自身は過去の多くから託されたことと、自分の誇りや生きること。仲間と共に選んだ事がある。
それでも弱いもんだろう。理由にしかならないかもしれない。
バードレイにもそれはあるだろう、理由。
むしろ、あれだけの実力を兼ね備えるには、理由と意味という弱いことだけではなく、信念と意志という揺るがぬ強いことで成立するはずだ。三矢のような形であれば、無くならずとも非力だろう。パイスーや桂のような形であれば、最強だとしても無くなるだろう。
彼女はどちらでもない。
気にはなっていた。
自分が管理社会に疑問を抱いたように、彼女にも原動力があるはずだ。
答えてくれるだろうか?黙秘を続けていること。
三矢は知っているんだろうか?
おそらく、その原点は彼女が作り上げる時代になっても、残り続けるだろう。
自分達はいつか、その原点と戦うだろう。予感。
春藍は行く。それをしっかりと確認してから、クォルヴァはアレクに尋ねるのであった。
「アレクはいいのかい?おそらく、もうないよ」
「何がだ?」
「答えるかどうかは分からないが、"時代の支配者"はポセイドンが成ろうとした存在。それは世界全ての法を操る。神みたいなものさ。君はそれに憧れた者の弟子。それは継がないのか?人類の平和のためにさ」
「ねぇ。興味ねぇ」
戦いが始まれば、話など余計なことだ。事情が真意など、追求に意味があるか?
「俺が継ぐのは、ポセイドンが誇りとしてた。"科学"こそが、絶対であり、最大の力である事を証明したいだけだ。それが今はこのタイムマシンでもあり、奴の時代でも証明するには、"科学"で奴を倒すしかねぇだろ?」
「各々なんだね。理由も、意志も」
ポセイドンは良き弟子を持てたと言えよう。
彼はとても人らしく、純粋なものだ。そうやって育てていたのかもしれない。自分が自分を忘れる前に、繋げられるようにね。
「俺は春藍みたいに悩まねぇ。必ず、倒してやる。ポセイドンにもそれくらいで良いのさ」




