考察
知らねぇ能力を分析する。
わりと楽しいことだ。初めて買った本をドキドキしながら読む。そんな気持ち。
冷静さを取り戻した後。あれだけ圧倒的な基礎能力と特異な能力にも、できるできないを割り出す。
「やらねぇだけかもしんねぇが」
アレクがそう前置きを入れるのも当然。確定していない情報は、危ういものである。
「自分以外のやっている事を終わらせるのは、できねぇようだな」
「……タバコの火をつけないのかい?」
「咥えているだけだ。セーフ」
推測と断定は違う。ちょっとした保険。
「なんらかの動作さえあれば、奴は瞬時に動作を終わらせる。それが遠かろうが、高かろうが、泳ぐことだろうとな」
それがバードレイの瞬間移動の原理。自身が喰らったことも含めて、バードレイが"何か"をしなければできないということだ。
「動作だけじゃないね。体の反応、反射にですら"終焉"は発動すると見た」
あれだけの攻撃を確かに受けても、瞬時の再生。
体が反応する抵抗、回復を終わらせることで、無敵で不死身と言えるほどの回復力。まぁ、無論。それだけでは終わらない。瞬殺しても、細胞レベルで消し去ろうとしても、這い上がってくる。
厄介なのは確実に死の苦痛に達しながらも、平気な顔をして蘇ってくる精神力。
死んでいるだろう時に、その場で生存を確信できてからの復活。
「奴を完全な抹殺をするには」
1.
殺すこと。
2.
復活する場所で生存を許さない。
3.
生存を許さない場を永遠という形にする。
4.
奴を諦めさせる
この中で最も簡単なのは1番だ。惨い事だが、これに関してはアレクも春藍達もやり遂げていた。
1度勝つだけなら難しい事ではない。
奴を倒すってのは、永遠に勝ち続ける必要があること。1度での敗北で全ての勝ちがリセットされるほど、とんでもねぇ理不尽さに諦めの悪さ。
一番の難関は4番目と言って良い。
「死んだ位置から蘇る位置、時代を変えられないと見た。少なくとも、彼女が能力の中心地にある」
「だが、どんな攻撃も終わらせられる。事象ならなんでも出来るのかもしれないな」
「あくまで彼女が接触するという条件付きだろうね」
アレクの炎も、ライラの水も、"SDQ"ですらも終わらせてしまう。永続的に攻撃するというのはほぼ不可能に近く、それすらまだ難関程度で収まっていること。
「能力を封じられるかな?夜弧ちゃんがバードレイの記憶を操って、"終焉"の能力を忘れさせるとか、どう?」
「それをやらせてくれるほどの隙が、そもそもあるか?現実的なことだがな」
厄介な能力は能力を封じたり、無効にすればいい。
現状、その手ができるとすれば、夜弧ぐらいではあるが。
「その手の能力への迎撃対策は普通の事だろう」
そんな簡単なことが通じるなら苦労しない。直接的に繋げられる無効なら有効でも、あの回復力の前では無意味。
「春藍が奴の体内で毒を生成したらしいが、見事に解毒されたようだ。解除手段があろうがなかろうが、終わらせられるって着地点があればやれそうだ」
「封じる手段、無力手段。それらの憑依からの元を断つ終わらせるって事は?迎撃で」
「あの世逝きだ。術者を終わらせて、解除を計ろうとするだろう。だが、そこから推察すりゃ、奴は攻撃を受ける必要性があるんだろ」
絶対的な実力の差を見せ付けられながらも、特徴とするものを考察する。
コソコソなんてせずに、聞かれていても構わないくらいのことだ。実験動物に何をやらせるべきか、考えている科学者らしい異常な、正常なところだ。
「触れているほどその力は強ぇ。俺の炎も、ライラの"アブソピサロ"、"SDQ"すらも、終わらせた。他者からの影響を終わらせる力はやばいが、それでも接触が必要だ」
「接触してもあの回復力だ。あまりにも強大で、バードレイを終わらせる事ができない。何度殺しても蘇るだろう」
答えは結局出ない。出るときがくれば、"時代の支配者"からの解放を意味する。
倒すは分からない。
しかし、奴と戦う上で必要なのは、あくまで対策なのだ。
攻守において隙のない能力にして、概念染みた精神力と基礎戦闘力。
結果を倒すにし、過程を練る。それは過程をぶっ飛ばして終わらせるバードレイの"終焉"に対する、人類の挑戦と言えよう。
◇ ◇
「退屈な時間だな。その力で終わらせられないのか?」
一生懸命に今を生きている人に対して、死んでみてはどうかと尋ねる行い。
「バードレイ。待ってるだけだろ?」
"終焉"の能力を用いれば、おそらく可能なのではないかと思うが。
今はできぬ模様。
完成されない漫画やアニメを一瞬で、具体的に、良き結末とするもんが出来上がっているわけじゃなさそう。
できるんだったら、○ンター○ンターとワン○ースを頼みたいところだ。
「作者死亡の完結展開しかできねぇのか?」
嫌な事を言うな、おい。これからが楽しくできそうなのによ。
「待つだけでいいのか?」
待つしかできないからだ。
バードレイはじっとしている。ほとんど何も答えてくれない。まだ、自分が足りないもの。それが待つという選択肢でもある。
やはりというか。
まだまだ不全な力である。それを証明している待機。あるいは到達できないのなら、良いんだが……。
三矢は一方的な言葉を投げかけながら、1つの不可解を察する。
アレクやクォルヴァには関係がないと言えよう。故に、黙っている。
「嘘、つくんじゃねぇぞ」
そんなこと。絶対に、絶対にできるわけない。自信がある。
ただなんだ?
この人の事だから、途方もないことを成すのだろう。
それが"終焉"を完成させる儀式であるとしたら…………。
リスクは大きい。