元神
この世の能力の原点。
そして、能力の頂点。
それがバードレイが求め、叶った1つの能力。
ある喫茶店のマスターは、店終いに言った。
「行き着く先。辿り着くところはどこも同じである」
能力が極まった。それは発展の余地がない。完成を意味する。人はそこで怠惰を見せ、希望と絶望を合わせ、眠りにつく。しかし、その終着点をまたさらに伸ばし。辿り着いてもまた、伸ばそうとする。
すれば怠惰にはならず。完成という腐りにならない。
人という存在でそれほどまでに達するために、一番大切な事。
「諦めずに続けるという。単純にして、とても大切な事が身を結ぶ肝心な一歩。その事が原動力」
ただただ。
ただただ。
「やり続けるという果てに結ばれる。それが終わり。全部の始まりは、全部の終わりから」
プツンッ
「この宇宙はあなたにとって、もうしばらくすれば。私が干渉できなくなる事を決定付けた。あなたの勝ちだ」
店のあらゆる物を残し、仲間の方へ振り返るマスター。
「だが、私はどちらでも関係はない」
「アシズム。どこへ行く」
「んー、そうだね。もう一度、宇宙を探しに行こうかな。この宇宙を見つけた時くらいの喜びを得るのも悪くない。広嶋くんは付き合ってくれるか?」
「……暇になるから、お前と付き合ってやる」
ロマンチックのある言葉を残し、去ろうとする者達。
バードレイと戦う事を恐れたわけではない。付き合う事を止めただけである。長い長い戦いを繰り返してしまうだけ。仲間はいずれ果ててしまい、終わりが来るまで続く事。
仲間と共に、居場所を探しに行く。そーいう選択はあるものだ。色々な始まりを作ることくらい、なんの躊躇なく。
「日本の生活。楽しかったんだけどなぁ。またかぁ」
「そ、そ、そんなに不安になる事ないよ。のんちゃん!わ、私達はいるし!」
「震えてるのはミムラの方なんだけど……。ま、この裏切は広嶋様についていくまで!」
どこかへ行ってみよう。
それは誰にでも与えられるべき、自由。この神様が求めて循環させていた宇宙。
"誰かの想像が、どこかの世界で創造されている、優しい宇宙"、
その中心地が地球であり、日本というところにあった事。
自由を求め、神など崇拝対象にしかならない価値観で保たれていた地球。だが、人々がこれまで抱えていたものが無くなれば、想像すらも無くなってしまう。なぜなら、想像や崇拝とは何かが足りていないからこそ、出来うるコンプレックスだからだ。
長い年月でわずかに繫がれていた人類と神様との繫がり。
それは人の幸福なのか、災いなのか、進歩なのか。繫がりはここで千切れる事となった。
「アシズム、ホントに行くんだな?」
「そういう君達は残るんだね。赤沼くん、鮫川さん、天草くん」
神様と共にここから去る者達がいれば、ここに残る者達がいる。
「お前にとっては、都合が悪いのか?」
「…………どうだろう。こうした結末は、私にも責任がある」
「逃亡が責任のとり方か?」
「私と仲間を護るためさ。君達がついてくればいいじゃないか。赤沼、そーいう事を言わないでくれ。人も神も、何かと戦い続けるのではなく、自分と常に戦うものじゃないか?」
神様は少しだけ思っているんだろう。ちょっとした事であろうから、広嶋が変わって引き摺り出す答えを伝えた。
「アシズムは人間を思い通りに操れなくなったから、場所を変えたいだけだ」
「失敬な。それは違うよ、赤沼。ただ、私にとっては愉しみが無くなった。この言葉で終わってしまう。得られる物を探しに行くだけさ」
時間の問題にして、時間の戦い。神様は付き合わないし、付き合えない。時間とは人が生み出した概念でもあるから。
「そろそろ行くよ」
「そうか。もう気軽に来れそうにないか」
「もしあるんだったら、地球を探そうと思うよ」
神様がいた1つの時代が終わり。そして、旅立たせるまでに至ったことだ。
"時代の支配者"は戦わずにして、在住していた神様とその仲間達、同志達を追い出したとされる。
はるか遠い未来をも、完璧に創らせる必要のある無限地獄。やらねば崩壊するという事。
だが、そんな神を頼った事などない。生き残った連中。それが未来にいる人類達の末裔でもある。
「俺達はどうする?鮫川組長。途方もない後始末ばかりだ」
天草試練。
「儂は多少、満足しておる。先の人類など、どうでも良い。慈我との約束を1つ果たせたのじゃから。じゃが、悲しい事をあげれば。慈我がいて欲しかったのぉ」
鮫川隆三。
「気が遠くなる事になったな。私もまだまだ、生きている必要があるのかな。もう体がボロボロなのに」
赤沼純介。
神様から託されたというわけではないが、神様を直に見送ったという事で言うのならこの3人だけ。
そして、それを遠くから知った者。見ていた者。
人類の大きな動きに、世界はどうして行くか。
「俺には責務がある。こんな事になったのも、止められなかったからだ」
三矢正明。
「これ以上、無理をする必要はないんじゃないですか?過ぎたのなら、一から考えるのも良いんですよ。過ぎる事もありますのに」
弓長晶。
人類を改革したと言える現場に携わった者達にとっては、彼女と同じような罪を受ける必要があるんだろう。
彼女と同じく。何世代と、何度も輪廻転生するくらいの極刑。
三矢自身はそれを望んだ結果。唯一、未来まで姿形と意志が残ることになった。
「どうします?私はそこまで興味ないですが、援助しましょうか?ラブ・スプリング。あなたはそーいう存在で、そーやって造られている」
フルメガン・ギヴァン。
「…………ふぅ。考えさせてよ。僕としてね」
ラブ・スプリング。
7人の中で唯一、完全に人ではない彼が何を考えただろうか。
だが、彼だけが未来になっても、人類に思っている事がある。護りたいものは国でもなく、世界でもなく。人であるからだ。
戦争からの後始末。途方もないほど、先の事。7人ともそれぞれ違う考え、思想、立場を持っていた。
後に"管理社会"を提唱し、築くまで。その中心、土台となった彼等の今は、この時のためだった。
◇ ◇
「おおおぉぉっ!!」
そう今だ。
バードレイと、"時代の支配者"と対峙する今が、
はるか過去から繫がり、作った現在。時代。
大切な者や何かを失う。パイスーやダーリヤ達と出会った時に感じた、ただの強さだけを向けられた時とは違う。その強さに恐れを生ませる。邪悪を孕んだ確固たる意思が剥き出しになっている。
アレクを攻撃された事で重ねて、春藍は彼女への追い討ちとライラ達と離せる事を、無意識でも合理的に成していた。
春藍もバードレイも宙に投げ出されている状態で、
「造形製造・軍隊!」
春藍は"創意工夫"と"テラノス・リスダム"の併用で、遥か下の大地を大幅に変化させる。
人々の死体をも取り込んで、変型させて生み出した。銃火器・兵器の剣山と言って良い光景を生み出し。その全ての照準はバードレイへと向けられている。
ドゴオオオォォォッ
文字通りの空爆。バードレイを完全に直撃させ、残る硝煙、炎の中に春藍も飛び込んで、バードレイの体を握り締める。
パシッ
「ふふっ。今の瞬間に」
それこそ驚きである。とんでもない速度でバードレイの体が再生されている。だが、春藍の予測は完璧にバードレイが生きていると割り出されていた事。
「胸でも揉めたら良かったのにね。無防備だったのよ?」
"創意工夫"で腕の皮膚の形状、性質を変える。バードレイの体内に猛毒を宿らせるという、凶悪な攻撃。春藍の改造に悪意、敵意を注げば出来うる事。
「人体改造・毒刃」
バードレイの肌を薄紫にグロく染め上げ、神経、血管の機能を腐らせるという、恐怖を与える変異。単純な攻撃ではなく、特別な恐怖をつきつけても。
「うんうん、毒って苦しいわね。あんまり経験ないから興奮しちゃう」
「!」
全身に毒が回ろうと、苦しみの顔すら作らず。むしろ、笑顔を春藍に向けて余裕をかます。
ここまでとんでもないほどの攻撃を浴びせても、これだけの余裕。ただただ、頑丈とか意思が強いとか。その通りであり、返し技も込みで考えれば、それらは彼女の強さの一部分にしかなっていなかった。
「春藍くん」
名を呼んで、何をするかと思えば。
「キス、しようか」
宙に舞っている状況。ここでロマンチックにキスだなんて。
純粋な恋愛物だったら美しくても、ただれた恋愛をしている彼女の思うことは、恋ってもんはないだろう。見た目が可愛いくて容赦ない春藍を、少しでも癒してやろうとして
クチュッ ンチュッ
唐突なほど。抵抗すらもできず。奥深く舌と舌が絡んでいるほど、熱いキスをされていた。
春藍が一瞬を、ようやくと表現付けてまで、気付いた時。驚きと恐怖を抱いた。一切の恋感情などなく、汚いものを渡されたくれぇーの、拒絶。
「っ……」
「あんっ」
握っていたバードレイの腕を離してまで、自らが行なう改造技の影響から回避する。
クォルヴァと同じく、接触した対象にも影響を与える。”創意工夫”の効力は、自ら填めている箇所ならばその効果を失うが、それ以外の部位に触れていたら影響が出る。自分自身を修復するため、その取捨選択を取り込めなかった。
それを見抜いての返し技をパッというほど、行なう。
バードレイの戦闘勘はただただ、考え付いたものではなく、高いレベルの知識と長い経験を感じさせるものがあった。
「私のキスを嫌がる子は」
身のこなしのそれも、常人ではない。
能力も加えれば厄介極まりなく。バードレイの足が曲がり、体の反応を見て膝蹴りをかますのだろうと、春藍は予測を打ち出す。防御という体勢をとろうとする、その時間という隙間で
「キーック」
ドゴオオォォッ
春藍の額にモロ直撃の、縦回転の膝蹴りがクリーンヒット。地に叩き落とす一発であったが、
「!」
固い身体ね。
全力で蹴ったから、カウンターで膝を痛めちゃった。




