自慰
突如、現れた。
「あんたは……」
「バードレイ!」
嬉しそうな声を出していたのは春藍だけであるが、春藍もまた。今のバードレイを警戒している表情を出していた。
無論、ライラもアレクも同じであった。
「ふふふ、凄いことになっていますね」
「あんた。……無事だったわけ?」
なに今の?
瞬間移動にしては、本当にいきなりだった。"超人"なら足の着地なり、痕なりが残る。"魔術"関連ならワープの要領となって、空間に魔力の出入り口が現れるようなもの。
若の"ディスカバリーM"とは違って、こっちの感知がホントに来てから分かった事。
見た感じ、素手だから"科学"らしきところはない。
「凄いですね、それ」
「そうなんだよ!凄いんだよ!」
そんな喜びの言葉。春藍が次に言った事で、ライラも気が引き締まった。
「でも、バードレイも凄い気がする。今の、なんですか?」
戦う構え。
「さっき襲ってきた連中。通りでおかしいと思った。あんたに似てる」
「バードレイ、何者ですか」
不安より、謎に満ちたところ。バードレイは不敵に笑い続けるだけ、腕組みしながら待っている。
「何者とかねぇだろ。間違いなく」
「!」
アレクは彼女がそうだって直感し、決め付ける。
そんなバードレイは腕組みから、左腕を降ろし。左を股へ。
「あいつが"時代の支配者"だろ」
「!!」
「嘘でしょ!?」
しかし、その事実をすんなりと人として受け入れる事はできなくても、強き者には分かる独特の雰囲気を感じられないわけがない。事実、今現れた動きは。その名に相応しきモノ。相手に何も分からせずにやってのける事を、平然とやっている事だ。
「どうなんだ。バードレイ」
いちお、念のため。アレクもバードレイに問う。
わずかな時間であったが、自分達と共にいた存在。
「お前が認めてくれると、こっちは容赦なく殺せる」
「謡歌や水羽ちゃんには悪いけれど」
「全てが終わるってんなら、あんたと戦うことはできる」
おそらく、最強クラスの3人を同時に相手どったら、自分達でも分からないだろう強さ。
それほどの位置にいる彼等と対峙しながら、興味すら湧かず。
「あははは」
「は?」
3人の向こう側にあるタイムマシンでも見ている目ではない。でも、笑う目がとても純粋無垢で、語る口に偽りなく。
「ごめんなさい。自慰行為していて、半分も聞いてなかった」
このふざけた感じである。
バゴオオォォォォッ
アレクが3人の中で早く動き、バードレイを一瞬で燃やし尽くした。超火力。
今のは避けられない。発火地点は見えない上に自由自在だ。燃え上がる炎は
シュウウゥゥッ
「熱っ。火傷しそうになった」
何事も無かったのように鎮火した。
「…………」
「嘘でしょ!アレクの攻撃、直撃したはず!」
ドオオオォォォッッ
「まぁいい。どんな能力かは知らなくていい。お前を倒せるなら、ポセイドンにも良い報告ができる」
一度。なんの能力かを掴めなかったが、鎮火させたぐらいで決意を止める事はない。アレクの判断と行動に間違いはない。また、ライラも春藍も。バードレイが何をしたのかを観察するには、良い時間であった。
「ひぎゃあぁぁっ、あひゃあぁっ」
ふざけた事を吐かせられるような状況ではない。炎が消えようが、それよりも速く、多く、何度だって。バードレイを焼き殺してみせる。
「こっちまで熱いんだけど……」
「ライラ。下がって」
春藍が防火用の壁を作り出し、ライラとタイムマシンの保護をする。アレクが本気を出すと、巻き添えを考えたくはないだろう。春藍の気遣いはアレクにも届いている。
「失せろ」
最大火力だろうか。
"紅蓮燃-℃"で現在進行形で焼かれているバードレイを狙い。
「天夷火拿鳥」
ダーリヤを焼き払った技が、バードレイに直撃する。
ドゴオオオォォォッ
「わーーー!」
「うおおおぉっ!」
「ちょっちょっちょっ!」
衝撃と炎熱は、遠くにいる住民達にも影響が出るほどであった。
孤島の5分の一を焼き払ったほど。地面丸ごと炎で消し飛ばす大技を浴び、バードレイの姿は見えなくなった。
そして、手応えをアレクは感じ取っていた。ダメージは確実に蓄積されただろうが、腑に落ちない。
「アレク!足場ごと焼かないでよ!」
「だが、どうやら。それでも死んでないようだ」
怪鳥が地面低空を滑空したような、惨い爪跡。だが、立ち上る炎は徐々に鎮火されていく。さらにはその地面と保護色とした焦げたバードレイも起き上がる。
「化粧してたんだけど。酷いわねぇ」
体の煤を払う。次の瞬間に、体を覆っていた煤なり焦げ、火傷が。見る見る内に消えていく。超高速再生の能力。傷も消え始めているが、
「あのさぁ」
ドゴオオォォッ
「服が燃えると裸になっちゃうから、18禁状態ですわ」
お前の存在が18禁と大差ねぇからセーフ。
藺兆紗と同等に近いからセーフ。というか、もっとヤバイことしてましたよね。あんた。
バゴオオオォォォォッ
「……………」
アレクの炎を何度でも浴びながら、バードレイは平然と立ち上がって来る。無効化だったら、違うだろうし。再生にしては何かの違和感。瞬間移動を持っていながら、避けないという避けられないという謎。
炎は止まった。
「あら」
裸のまま。3人と向き合う姿はまったく不相応。しかし、見上げられているのにまったく逆に、見下ろされている感じ。
アレクはライラにチェンジした。雲が纏まり、
「滝雲水流」
雨ではなく、滝が。バードレイを地上へ流し落とそうと、強烈に雲から流れ出る。
「綺麗ね」
避けるというものをせず。また、防御するというものもなく。滝の溢れ出る勢いに簡単に地面と一緒に持っていかれる。今度は鎮火といった類いは起こらず、呑まれ潰されるという攻撃。
ドバアアァァッッ
「ぶごかかかっ……」
情けなく、滝に呑まれて溺れる声に、もがきの姿を晒して流れていくバードレイ。せっかく登ったというのに再び、あの崖から水と共に落とされていく。こちらもまた、アレクと同じく強烈な攻撃となっているが。
バードレイは溺れつつも、頭を強打されても、死なない。
ザパァッ
「ふはぁっ」
流されながら、抵抗を見せるように泳ごうとして、
「私は戻ってきたわ」
瞬間という意味不明さを象徴する動き。すでに春藍、ライラ、アレクの眼前にバードレイは立っていた。それにバードレイは驚かせてやったという気持ちを抱いたか、期待されている気持ちを欲したか。彼等に関心したのか。
ボギイィッ
春藍はそんなバードレイの表情を確実に捕え、物理的に拳を叩きこんだ。