自覚
長い年月を使っても奴を証明するのは難しい。今しがた現れたところで、人類が気に留められるほどの脅威となるか。
これだけの人数を考えれば、藺兆紗の仕業であると(9分9厘あってるが)。
バギイイィッ
「いやああぁぁっ」
「死になさい」
今、戦っている。
人と人に思えるが、相手はまったく別のソレ。生死の境以上に存亡の危機と出会い。人類は生き残りを賭けている。出くわした存在は記憶、記録される。
「逃げろ!」
その事しか言えない。ヒュールにも分かる。こいつ等、絶対。人の言葉に耳や意識を傾けやしない。そしてそれが操られているという悪事によるものなく、素で仕上がった。
本当の敵である事。
「………二手に別れてくれ!」
全員、纏まろうが。散り散りになろうが。おそらく、同数は行くだろう。
ヒュールは逃げる方向を2つにし、どちらかを犠牲にする手段をとった。もし、そんな指示を真っ当な人は聞いただろうか?ほとんどが敵が来ないところへ逃げ出す。結果、散らばっていく。
夜弧の記憶操作を受けている者達は、ヒュールの言葉を真に受けて別れていく。まだ、それを終えていない人々は混乱を見せながら、別れ。
ドスッッ
「あああっ」
「ぐはぁっ」
バードレイの子達に討たれる。彼女達は1人でも多く殺したいから、戸惑い、混乱し、乱れた者達から殺していく。
そんな選別で多少の時間は流れた事だろう。
時間稼ぎという、犠牲を成して積みあがること。
宙からやってくる。
「お待たせ」
水羽の助け。人のことを聞かないのなら、こちらもそうしてられない。頭の良いとこ、見せらんない。
暴力に暴力をぶつけ。それが理不尽であることを水羽は伝える。
ロイが勝ちを確信しているように、水羽にとってもたった1人には苦を感じていない。
「これ以上。殺しをするなら、僕が全員」
殺す。
「どうする!」
脅しをチラつかせるも。やはりというか、生きているバードレイの子達は水羽をシカトする。
戦っても勝ち目はないから、殺せる奴を殺す。良く出来た犬である。
「ちょ!?あんた達!こんな状況で殺し合いする気!?」
「水羽!こいつ等はどうやら、俺達を誰でも殺したいらしい!脅しは無意味だ!」
こっちも押される形で応戦していること。
しばしながら、水羽の拳に迷いがある。それでも超えられる事のない。
水羽とロイの2人を相手にこれから殺される住民は減った事であろう。住民達はやや安心を、みせる。子供は謡歌に呟く。
「ねぇ。どうして、あの人達はあたし達に攻撃してきたの?」
疑問を抱き、それを口にする。
分からない事もまた、回答である。だが、謡歌はアヤフヤなことで伝える。
「きっと、彼女達にも理由があるの」
「ふーん」
それ、分からないって回答とほぼ同義だよね?
人々は見ていくだろう。自分達を護る2人と、自分達を殺そうとする人々。罪を
「生きているから、殺されるのかな?」
「ううん。生きていたら、死ぬの。少し楽に逝けるから」
そんなことは、こんなところでもされてはいけない。約束してくれるよね?さっきしたよね。
「僕は生きるけど。謡歌達は……」
長く苦しんでしまうのなら良い。でも、今。殺される危機と出会って、足と腰が引いて、怯えて。隠れてなどいない生きたいという気持ち。出していた。
それに応えてくれるのなら、助けてあげる事が自分達にやれること。
「死んじゃう。でも、最後まで満足していくって。言ったから」
得体の知れない者に、残る命を狩られるなんて
「こんなとこで殺されてたまるかぁっ!!」
人を思いやれないという。それを悔いに。しかし、自分達を思っての力が水羽の動きに繫がった。
住民達は確かに今。何かの敵と対峙している。
◇ ◇
敵を捕える事より倒し、殺すということ。絶対的な実力差が数を圧し、
「全員、倒しました」
バードレイの子達を倒し切る春藍達。少し敵を、住民達がいるところに行かれてしまったが。
「あとはロイと水羽でなんとかなるでしょ」
二手に別れたところ察知すれば、まだ何か来る予感もあって悪くない。
春藍とライラが周囲を警戒。
「あと4日。それくらい、大人しくして欲しい」
「アレク。あんた、何もしなかったわね。良いけどさ」
「それでこそアレクさん!何も気にせず、集中すること。羨ましい!」
「まったく」
こいつ等。どこかで見た面というのを、ライラは感じた。藺兆紗が操って現れ、急襲を仕掛けとしたら、ちっと違和感。勝ち目を求めてやる事にしてはズサン。
だが、深いモノを感じた。こーいう時だからか。現れた存在への脅威をよく
「アレクの言うとおり。あとは時間が過ぎてって感じ。得体の知れないを怖くすら感じた」
それと同じ頃だ。
3人には届かない距離で、衝撃が起こっていた。
ドガアアァァッ
「あたたたた。難しいわね。ロッククライミング」
あんたはなにしてんだ、まだ!?
「これで8回目かな?」
バードレイはまた、落下していた。
こんな殺伐した雰囲気の中で、日常を楽しんでいるような笑顔で、遊んでいる奴がいるというのはどーいう事だ。
「昇っても落ちる。なんて理不尽なの!まるで努力の無意味さを現した遊び!これがロッククライミングなのね!」
ただ努力してもダメなんだよ。
しっかりと準備をして、登っていくのがロッククライミングというものなんだよ。その意図を分かれ!って伝えても、絶対に認めないだろうな。大切さは分かってくれるだろうが。今この時は、理解しない。
彼女にはこの崖をどうやって登るべきかと、考える地点にいない。
ロッククライミングを馬鹿にしてやがるわ。
「うーーん、いい加減。登ってみせたいわ」
これはチャレンジ精神なのか?
バードレイ。9度目のチャレンジ。まったく、気持ちを出していない手で崖を掴んで
「よっしょ。登りきった」
ついに崖を登りきって見せたのだ!!……?
「良い景色ね。登ってる最中に振り返って見てたけど。達成感ってちゃんとあるわ」
……いや、ちょっと待て。おかしくないか。おい。なんだ今の!?バードレイが色々とすっ飛ばした行動を、完全に自覚できたぞ!
つい先ほど登ろうとしていたら、もう登りきっていた。数歩進んだだけで着きました。テレポートとは違う感覚。現象。
完全に現れていた。
「んー、ま。それよりも。ここでやらなきゃいけない事。あるのよね」
体を伸ばしながら、ついに登りきったバードレイが春藍達の方へと向かおうとしていた。
こんな崖を上りきっても、下と大差ないほどの荒れぶりである。また、ロイ達と戦っている自分の子達の雄叫びが聴こえる。向かうことはないだろう。
「こっちかな」
バードレイは進む。できれば
「ああ、見つけた」
すぐに出会いたい。それほどのこと。抱き。
どこにそいつがあるか分かってはいないし、必要とされていない。
「え?」
「なに?」
「………………」
瞬く間。
それを体現したかのように、とても静かに、何事もなく。
「春藍慶介、アレク・サンドリュー、ライラ・ドロシー。お久しぶりです」
バードレイは出会った。