岩登
野菜の皮を剥けば早く腐りやすくなってしまう。
溢れる力を剥き出しにする事は、腐ったことだ。
そーいうことでバードレイの力はこれまでも変わりなく、一般と言って良いほどの魔力が流れ出てる程度。
威圧的な雰囲気もなく、威厳もなく。女と語る姿にしてはとてもズタボロ。振り撒く笑顔はこんな荒れた土地に、満足しているというイカレ具合。
「あら」
「母様。お待ちしておりました」
生きるバードレイの子達が、起き上がったバードレイを出迎える。
そんな子達は素早く
「大変、申し訳ございません」
「まだ人類が生きておられております」
「しばし、お待ちを……」
自分達の力不足を謝罪する。チャンスをくださいなどと、愚かしい事を思わず。この命が消えても良く、キチンと語ることにバードレイは
「構わないわ。急く事じゃないの」
特に咎める事はない。また、それを語り。認める事をよくに思う。子達を通り過ぎていく様はこれくらいは許される、頂点の優しい振る舞い。
どちらへ?そんな言葉すら発してはならない。子達は、親を見守る。ただ、そうするだけ。
バードレイは逆に親が子供を心配させないよう、目的地を告げること。買い物に行って来る、美容室に行って来る。そんな気持ちで語ることは
「私、ロッククライミングをしてみるわ」
は?
「あの高い崖の上に彼等がいるから、ロッククライミングで行ってみる」
それは別に構いませんけど、無駄じゃないですか?
今。交戦中ではありますが、"別窓"はまだ壊されておらず。"人語物語"と"ペンシルシャドウ"、"バドリアス・マグネティック"のコンボで、空間移動が可能である。
戦うためなら移動という無駄を削るべきだ。
またそんな遊びは非効率以上の、寄り道だ。
「私がしたいのは、ロッククライミング」
それ今する事か?
そんなギャグ調な返しに、恐ろしげもなくバードレイは子達に、やりたい理由を伝える。
「だってここ滅ぼすし、ロッククライミングをする機会って今日しかないかも」
「…………」
母様が目覚めたという事は早くも完成したということ。
しかし、分かっていたことに理解も到達したこと。彼等の強さは突き抜けている。
お気をつけて
「お気をつけてください」
「ええ」
「ロッククライミングの時は、命綱をしてください」
「もちろん。でも、その綱がないからできないって、私はそれが嫌」
遠まわしな退き止めを、気にも留めない。彼等の強さを見誤っている?違う、圧倒的に自分に対しての自信が強い。
直接見ただけじゃなく、やられていく子達を知っている。おそらく、母様も分かっている。怒りに震えている?だったら、ロッククライミングなんかしない。
あの人は自由なのだ。
「連れは要らない。気持ちは受け取る」
母様が言うのなら、子は誰もついて行く事はできない。
歩く距離ですら相当あるにも関わらず、バードレイはマイペースに進んでいく。何を思って見上げているんだろうか?明らかに春藍達の方を意識していない。
「ふーっ」
激しい戦闘。残酷な災害。そんな中を忘れているかのような、散歩気分。
ロッククライミングはするだろう。しかし、
「眠っ」
バードレイは一睡する。きっと誰もしないだろう。道のど真ん中で寝転んで、堂々と寝ている始末。
やる気のない。というより、暇潰しといったところだろうか。
彼女のロッククライミングもそーいったところか。
◇ ◇
『母様がそちらへ向かっています』
魔術、"ベルティ・リンディン"
魔力で鈴や鐘などに具現化し、別地点の音をそこから放出する能力。"別窓"の向こう側から、こちら側にいるバードレイの子達の一部に届く連絡網。
激しい戦闘の中でなんの制限もなく、情報網を使えるのは大きい事だ。
しかし、こちらから伝えたい事はあまり届かないだろう。
ゴギイイッッ
連絡を受けとった1人は今、ロイによって両肩を外され、トドメに顎を拳で砕かれ戦闘不能にさせられた。
「そこそこやるがよ」
住民を守る形で引いた丸円の中で暴れる。
「たかが雑兵だ」
実力にそれなりの差があっても、ロイ達との差を埋めることができない。
7人がロイと対峙する中で最も、実力のある者が前へ出る。
「私がやる」
「了解」
体内から"刀"を抜き取って、ロイとの応戦を臨む。1対1をして、残りの6人を先に行かせる。負け戦と分かっていての、有効な時間稼ぎ。縛り。
「…………」
ちっと人数が多い。負ける事はないが、護り切るには無理な数。
アレクがさっさと全部焼き払ってくれりゃ楽なんだがよ。重要なのは分かるが、整備してんな。そいつを最優先で護らなきゃならねぇも分かるがよ!
こっちの手も考えろ!春藍を回せ!
ライラの"アブソ・ピサロ"は圧倒的に破壊、殲滅に長けた能力。味方すら巻き込む事が多いため、パワーをセーブし戦っている状況で活躍を抑えていた。春藍もほとんど同じであるが、余力を残しているという意味合いが強い。
タイムマシンを護る春藍、アレク、ライラの3人は完全に鉄壁であった。
一方で、住民達側を護っているロイ、夜弧、水羽の3人。
夜弧はこんな急襲時でも、住民達の記憶操作を行なっており、実質的な戦闘はできず。水羽も波に乗ってくる敵を先んじて迎撃したため、まだこの場所に戻ってこれていない。
敵が増えるだけでなく、散られると身体能力のみのロイにとっては面倒極まりない。
「ロイさん」
「ロイさん、私達は……」
「後ろに引っ込んでろ。なるたけ、固まれ。水羽は来る」
バードレイの子達の戦力差、戦力の数。
数の比率は7:3で、タイムマシンを護る春藍達側に集中している。向こうにとっても、それを破壊しに来たのだから当然だろう。とはいえ、ロイの方にも30人ほどいる。
後ろの住民達も隊列を組んでいるわけではない。真正面での対応ならできるが、四方八方やられると難しい。
「俺はタイマンするほど、今暇じゃねぇよ」
ギイイィィッ
1人1人。秒殺していかないと厳しい。だが、中にはいる。ロイとほんの少しの間、対等に戦える奴。
数でカモフラージュして、ロイ側の方が強いバードレイの子達が集中していた。直接ぶつかり合えば、ロイ側の方が強いかもしれない。
狙いは両方。むしろ、1つ。
全ての殲滅、殺害。故に来ている。おまけに1人1人、捨て身で構わないと来た。
「やるじゃねぇか」
「どーも」
両手で握った刀を拳の甲で受け止めている間、バードレイの子は右手を空ける。力に押し負けそうになると思わせ、体内から発射させるは隠した刀。
「っ!」
右手から刀が現れやがった!二刀流か!
奇襲を活かした戦い方。1つの刀から2つとなれば多少驚くが、飛躍的に戦闘力が伸びるわけがない。むしろ、隠した力を晒したのだ。決着は分かっている。
刀を振り下ろし、体の返しが遅くなったその瞬間に。ロイの素早い横蹴りは、彼女の横腹を捉えた。
「ごはあぁっ!?」
両手の刀を手放すほどの高威力。わずかに稼いだ時間。戦いではなく、過ぎ去るという行い。
ロイと向き合わないとは致命的なミス。しかし、リスクを抱えなければ住民の抹殺はできない。
「やらせるかよっ!」
近いところを狙うか。"紫電一閃"のスピードを振り切れるわけなく、急所も晒す。
ドゴオオォッ
3,4人はロイの格闘に成す統べなく、地面に転がる。しかし、時間稼ぎを計っての行動。
反応についていくだけの対応策。1人がロイの攻撃を読んでの応戦。
「くっ」
力にも差が在りすぎる。一度、拳を止めたぐらいでロイの2撃目を受けきれない。瞬間、体全体が旗へと変化する。
フワッ
「!体をなんかに変える"超人"か!」
"自旗"、自身の体を旗の状態に変化させる超人。
ロイの連続攻撃の短い間で変化する速度。加えて、一部を旗に。一部を足に。部分的な変化による攻撃。本来、格闘戦なら相当な強さを持つ能力であるが、
ガチイィィッ
「面白ぇな」
奇襲が通じないっっ!!
経験の差か、余裕の表れが生んだものか。旗となっている自分を掴まれ、
打撃系が通じにくいなら惨く、
ビリィッ
「破いてしまいだ」