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RELIS  作者: 孤独
永遠編
609/634

伊賀



「で、出来上がった……」


むしろ、出来上がってしまった。そっちの後悔が強いかもしれない。藺兆紗ですらだ。


それは当人。偶然の産物であると、理解しなければならないことだった。

藺兆紗が彼女の蘇りを見たとき、感じた溝がさらに深まり、底の見えないところから見えてしまったのは




「宇宙の誕生だ」




バードレイが異空間から舞い戻れば、藺兆紗への礼もなく。子の心配でもして、足早に向かうかと思えば、お化粧を始めた。お腹が空いたから食べ物を探して、転がる人の死体を生のまま食い漁った。それで化粧が崩れてショックな顔を出す。そんな顔をまた潰すように、流れている水に体ごとダイブして洗い始める。裸のまま、服を探しにいき。ドレスではなく、破れた衣類の繋ぎ合せで満足し、きっと春藍達のところへようやく向かったんだろう。

という、なんなのあんた感。



余裕というか、平和的というか。


猟奇的な行動がいくつかあるが、女がやることをやっている。


出勤前にする身支度だった。



「ふふふ、ふふふふふふふふ、あはははははははは」



藺兆紗は泣き狂い笑った。

それに成れずとも



「私が、”時代の支配者”を生み出した!!」



意志を継ぐ者に喜ぶ。それは伝説勇者にも現れた、後継者的な者だろうか。



「私が見出した最高傑作!!」

「……………」

「これからの時代を私が作ったっ!史は刻んでくれる!!」

「そんなわけないよ」



その姿は断末魔と捉えるべきものだ。藺兆紗に話しかけた者は、そうとしか思えず。”時代の支配者”にとって、そんな史など掻き消すだけのことだろう。また、藺兆紗の望んでいる結果ではない事も見抜いている。



「”時代の支配者”を生んだあなたは確かに、この人類の英雄だ。だが、次の人類に引き継がれる事はない」

「っ……あ、あなたは……」

「それは今の事だ。三矢さんの予想通り、”時代の支配者”の意識は春藍くん達に向いた」



そう。おかしいだろう。

先ほどまで死に掛けていた藺兆紗が、しぶといからといって、バードレイを”時代の支配者”として完成させたこと。



「私も君と同罪だ。だが、償える手段を持つ」



生きている理由が必要であるはずだ。



「まだ終わっちゃいない。藺兆紗。ふぅ、……俺が死んでない」

「三矢さん。無理しちゃダメです」

「俺にここは任せろって言っただろ!藺兆紗を回復させる事に専念しろ!」

「…………やれやれ」



戦える状態にしない。話せる程度で良い。三矢の”本音”が、この修羅場で最大限の訴えを藺兆紗に届けた。



「お前はそれで良くねぇはずだろ」

「!!」

「”本音”ってのは、命が終わるその瞬間に吹き出る。無理に受け入れた叫びのくせに、なんで泣いてんだ!」



藺兆紗の胸倉を掴んで、



「おかしいだろうが!!お前の夢、全部ぶっ壊されて!!へらへらすんなよ!!人が成るべき人になる!それが、人のいなくなる世界か!?ちげぇだろ!!」


分かってんだよ。よく分かってんだよ。

あんた。どうして、



「大好きな女を、自分が生きるために食った!?そりゃ生きてまで、そいつに報うためだ!!」

「っ!!」

「その時を知らねぇ俺だが!!お前に賛同する!!なぜなら」

「言うな……」



彼女は、生きる事を拒んで。お前を、生かした。その体を本当に差し出して……



「伊賀吉峰。いや、藺兆紗」


ダーリヤや朱里咲とは違い、藺兆紗が本物であるという理由。確固たる過去を持っており、自覚しているからだ。

三矢はそこを突いての説得をする。



「女はお前のように成れなかった。それを知ってお前は、彼女から得られた力を人のために使いたかった。彼女が成れなかった事を、お前がして来たんだろ!」



何を分かっているという気持ちと、何をするべきかという気持ち。

折れないか。付き合うか。


「具体的にいやぁ、力を貸せ!お前の”時代の支配者”と、バードレイの”時代の支配者”。どっちが強ぇ?」



同じ読みをしても、違う意味を持つ。その事を三矢は問う。



「時代の全てを変えるバードレイに、お前は対抗できるか?」

「…………」

「答えを聞くまでもないです。三矢さん。私は賭けます」

「本気か?お前」


あろうことか敵を助けるだけでなく、より強大にすること。なんつーことだ。しかし、それもある。


「”時代の支配者”、バードレイは強い。それはこちらの想定以上の強さ。春藍くん達は彼女に負ける。だから、賭けている」



賭けるとは、勝つ可能性がわずかでもあるからの行いである。

つまり言っている事は、しなかったら負ける。終わる。



「あなたにこの管理社会の”時代”を託します。藺兆紗」



人類が出来うる事は残す。



「きっと、あなたは私達と同じく。人間が好きなのですから。行きましょう、三矢さん」

「ああ。正直、やべぇしな」



藺兆紗に託された物は、


「…………ふふふ、何処に行くという?」


人に渡るにはありえない代物であった。これほどの切り札をまだ隠し持っていたのか。

メモリースティックみたいな形状であったが、藺兆紗にしか使えない代物。

まるで、藺兆紗を”時代の支配者”とした時のために、作られていた物。


「私がこれをどう使うか、聞かなくて良いのか?」

「分かっています。バードレイを倒すために、あなたは必ず使うことを。でなければ、バードレイと戦う状態にならない」

「もし、お前がこれからの長い月日の中で忘れたらそれで良い。だがよ、お前を取り戻す奴がこっちにはいる。次、奴がお前と会う時に、きっとはお前はお前を取り戻す」



先を行く2人の敵。にも関わらず、光が見える。自分と同じ色で光るもの。



三矢は去り際に言う。



「あんたはそれでも酉さんに負けるよ」



管理社会の生みの親。それは1人ではない。また、管理社会とは管理人だけでもない。

もう1つの素晴らしき存在が、藺兆紗の力となる。そう作られていた。



「だが、戦うことで勝ち負けができる。あんたもまた作ったんだよ」



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