上陸
「来る!」
感知は早い。
休眠中のライラが飛び起きるほどの強い信号だった。
自身の魔力が単純な
「水!」
物量で消されていく様は、"SDQ"と雪崩と少し似ていた。しかし、溶け込んでいくそれが水という単純な物質。ぶっちゃけの総量の多さに
「春藍!大地を突き上げて!!」
全てが意図的に飲み込まれる量だと伝わり、震動も伝わる。
春藍は整備中の手を投げ出して、大地に両手を当てる。
「図面構築・孤島」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
向かってくる津波に対抗するため、それに優る速度で大地を変動させる。互いに、互いを上回って、やり過ごすこと。
バシャアアァァッ
大樹のように登った大地を、食む跡を残していく津波。しかし、その部分はたった一撃に留まる。昇る大地が鋼鉄化していく補強もされる。これは崩れない。
それでも止まらない。互いに分かっている。今ので
「君達はその島から逃げられない」
津波が折り返す前の事。あの波に乗って進む一隻の船に乗る8人。視認できる者もいる。
「雷艇」
船型の科学。雷を発する能力に加え、こちらにも科学の性能を強化する"バドリアス・マグネティック"を装着させ、乗船人数も、発する雷の威力も、船のスピードも上昇し。
恐るべきコンボを作るための乗員もいる。
「照月」
ヒュウウゥゥッ
光を奪う月を出す能力。周囲の光を奪い取って、自分達の居場所を暗闇の中にする。とはいえ、能力者の近くに月が出ているし、明かりもそこだけになってしまうから場所は割れやすい。
だが、"照月"と"雷艇"のコンボはこっからである。
「光を奪う。単純だけど、こんな風にできるからね」
雷をぶっ放す"雷艇"。その眩い光だけを取り除ける"照月"。
攻撃の基点と正体がまったく掴めずに、反応すらもさせずに
ドゴオオォォォッ
造り上げられた孤島への攻撃が可能。巨大な大砲が誰にも気付かれず撃てること。ステルス機能に超破壊力。奇襲の一手で春藍達の対応を上回った。さらに"雷艇"の攻撃は続けていく。
そして、船は孤島へと向かっている。
「乗り込む準備は」
「バッチリ。鉛筆ケースは2つご用意できました」
鉛筆型の"ペンシルシャドウ"。
対象物に名前を記入することで鉛筆にする科学。本来なら制限が様々あるものの、"バドリアス・マグネティック"ともう一つの能力で制限を大幅にカットした。
「こうやって乗り込める。小さくして持ち運べる」
対象者を対象物と認識させる魔術。"人語物語"。
これによって、バードレイの子達の何十人を対象物へと認識させ、"ペンシルシャドウ"などの能力の影響を受けられるようになった。
戦う者達と戦いを作り出す者。特に後者においては春藍達にはない。
個人の戦闘力の差がある以上、どれだけの人数を戦える者にするかが、バードレイの子達が見せるところだ。
息詰まるほど、スピーディで計画的。
アレクとライラが戦いを始めれば、遠距離戦となって勝ち目がない。津波を引き起こし、ライラの攻撃をカットしての迅速な進行もまた、戦闘の妙か。ロイと水羽の間合いでの勝負で望む。"超人"の戦闘範囲は比較的短いが、強さでは"魔術"や"科学"を上回っていると思う。数も踏まえれば正しいことだ。
故にどれだけ彼等と接近できるかどうか。
「私の"別窓"に掛かっているわけですね」
窓型の科学。2つ1セットとなり、1つの窓ともう1つの窓が繫がった空間能力。空間移動で一気に近づく。
こちらも"ペンシルシャドウ"で鉛筆と化したバードレイの子達を、いつでも窓に放り込んで空間移動させる準備にしている。
ドゴオオォォッ
"雷艇"の砲撃。音と破壊のみの情報が、春藍達の動きを"雷艇"と"照月"への集中を作った。雲の厚みはあるが、"照月"と"雷艇"の速さが雷を落とす躊躇を生む。風が待っても、負けないパワーで突き進んでくる。
上陸される。
もう少しのところ。一番の懸念であるライラの射程から脱する瞬間。それは起きた。
ガゴオオオォォッ
「ふぁっ!?」
「くぅっ」
海中からの打撃が、"雷艇"を沈没させた。
乗船していた4名をそのまま海中へと放り込む。
「僕のところに来たのが、不運だね」
「!!」
水羽だった。津波が来た瞬間に飲み込まれながらも、海中で体をコントロールしてみせ、"雷艇"の底から殴り壊してみせた。泳ぎは得意だった模様。
海中に入ったバードレイの子達にとっては、絶望。して受け入れ。
バギイィィッ
魚を食う鮫を、鯱が捕食する。力の差を見せ付けるにはグロすぎるほど、獲物の肉体を四散させる。水羽が浮上するまでの間に起こったほどの迅速な惨劇。予想外かと思われたが、確認できないところがあった。
あと4人。
「ぷはっ」
水羽は海中に落ちた奴だけを殺した。"雷艇"は沈み、"照月"が奪った光も徐々に戻ろうとしている。その光の回復の影で、一羽の燕が3人を抱えて飛んでいた。
それも迅い。"雷艇"を上回る速度で島の上に飛んでいる。
「ここまで来れば届くわ」
"飛燕"。体に翼を生やし燕となり、高速で空を飛ぶ事ができる"超人"。
足と手が3人のバードレイの子達を抱える。
「"別窓"」
その1人が空間移動の科学、"別窓"の使い手であり、残る2人は
「"天上"」
「"簡易箱檻"」
時間稼ぎ!
バサァッ
宙に振り落とされる3人。同時に迎え撃つのは
「藺兆紗の部下?」
「落ちてくる前に倒す!」
「なんにせよ、やるぞ!」
春藍、ライラ、アレク。とんでもねぇところに振り落とされても、こいつ等からの攻撃を防ぎ。"別窓"による転送を完遂させること。2人の役目は特攻にして、捨て駒にして、成せねばならないこと。
"天上"は、一度退いた波をさらに。巨大なものとして呼ぶ。自然現象をさらに強大とさせる危険な能力。おそらく、バードレイの子達の中でも最上位に入る危険度。
ザバアアァァッ
この孤島を上回るほどの高波となっていく。それが作らせるのは
「ちっ。俺はあっちだ」
アレクを波へと意識させる。かつて、そうだったろう。"紅蓮燃-℃"が迫り来る波の全てを焼き尽くすために、使う。
厄介な奴に攻撃をさせない事は大きい、残り2人。
「!」
伸びる、デカイ。
”簡易箱檻”が手で握りながらも、圧迫させること。住民への被害。ライラと春藍が迎え撃つ。1秒もなくていい。
見せるというプレッシャーが、確実に自分を標的にさせる。
ジャキィッ ビリイィッ
春藍は右腕を機関銃に変えての銃撃と、ライラの指先からの雷撃の2つが彼女を狙った。
それこそが思惑。命を使うということ。
体を撃たれ、焼かれてもだ。
生かせた命があった。地面に足をつければすぐに使う。
パァァァッ
「!!」
「えっ!?」
繋ぐ。
”別窓”から現れる鉛筆が、急に人へと成り代わる。それも3人、4人、5人。続々と、春藍達の前で増えていく。
「さぁー。ここは私達の勝ちです」
バードレイの子達が早くもこの間合いに入ってしまった。
あまりに近い。