墓場
ブシュッ
あの巨大なアンリマンユの屋根が、SDQの単純な"質量"に耐え切れず、崩れ落ちる。
ガシャァンッ
それでも、"質量"は残り、空に留まった。
異変の正体を確かめる事はできたが、それらに近づく事の危険さと時間の無さが事実。
人の選択が、人のためにある事を示す。
歌は語る。
「熱い土を踏みしめる人」
生きていこうとする
「どこまで歩いても終わりはないよ」
人が潰えても、残って語り部となるだろうか。
「……あはは、恥ずかしいね。ちょっと憂い憂いな気分」
謡歌は子供達と一緒に歌を作っていた。
下手とか上手いとか、ちょっと恥ずかしさがあっても、残るならそーいう形が良かった。
もし、旅立つ時。間に合って欲しいと、短い時間に思う夢だった。
「謡歌さん、歌おー」
「うんうん」
「精一杯やろーよ」
「そうね。みんな」
ピアノでも、笛でも、なんでも欲しいと思うけれど。
声と喉と、言葉があって。みんながいてくれることがとても嬉しかった。
そう、この時になっても。思えるという人間の強さであり、ある種の愚かさ。
死ぬのに楽しめる?それは人以外には理解不能な感情であり、選ばれている人にしか感じられない事であろう。
何故、笑える?何故、幸せだと。
強がっている。
「…………思いの他」
船の出港待ちにしちゃ、随分と長すぎるせいか。
またいつか会おうとする別れじゃない。これで最後と分かった姿を知る。
それがこうして、笑顔でいてくれる彼等のことを見て、背負っている重圧を知れて。今の全てと、そのギリギリの生存と希望がどれだけ大切か。ライラは胸抑え、
「思ったよりある方だぞ。さっき揉んだしな」
「五月蝿いわね、ロイ」
「乳首以外は固くなんなよ」
「黙れ」
こうして、気を楽にしろってか。
「重大な役目だ。俺達の今の任務は、アレクと春藍。あのタイムマシンを守りきり、旅立つこと。その先の事はそこで決めればいい」
「……そうね。ゴチャゴチャ考えすぎはあたしに似合わないか」
一度終わる世界、時代。
それでもロイは言う。それに真面目さ100%、全振り。
「俺。色んな世界見て来ても、共通して。どこにでも楽しいもんがある事が良い。先はそーしてぇな、ライラ」
ロイが感じれば、自分も。春藍も
「当たり前じゃない」
終わらせないから
「で?アダムとイヴって神様がいてよ」
「そんな展開を予告しない」
「ノリが悪いな。俺がちょっと真面目になっても良いだろ」
夜弧が行なっている記憶操作は順調に進んでいる。とはいえ、不休のまま突き進めている。なにかを感じ取りながら、探りながらのことである。
彼女の決意がどうにも人のために思えず、自分のためにやっている節をライラは抱いている。
「俺達にとっちゃ、3番目くらいの事だ。夜弧に任せろよ」
「……残念だけど、そうね」
治安の維持と警護は続く。
「……見られてるな。大分遠いが」
「やっぱりロイも気付いているのね。私の霧と雲の索敵に時折掛かる生物が、確かにいる」
「藺兆紗が死んでねぇ、証拠だろうな。だが、仕掛けてこねぇのはなんだ?こっちから行くか?」
退屈の紛らわしのつもりだろうか。それとも相手の僅かな希望を折るためか。
こんな状況を6時間ほど続いているが
「十中八九、誘いよ。あいつは大勢の人間を操作できる能力。自身は戦わずして、私達の分断を図っている。けど、もう人間のストックはないはず。小細工に構わないことね」
「…………だな」
「怖いのはこの監視、通しのやり方が明らかな能力だって事。それも複数。大人数の自動操作ではなく、意図的な操作であるから手強いかも。相性という意味で、やられる事もあるけど。……"けど"って可能性のこと」
絶対に勝てない。こっから覆せる手段があれば、この前にやっているだろう。
無事に時間が流れてくれる事がライラ達の勝ちと言える状況に、藺兆紗が気付いていないとは思えない。また、諦めてくれるとも思っていない。
膠着状態のままでもいい。
そーやって、今。住民達が記憶の入れ替えが行なわれ、終わる時まで笑っていること。
幸せを作っていく事。
大した人類であると、賞賛をする。
「だけど、母様の世界には要らない人達」
バードレイの子達はその動きを読み切って準備を仕掛ける。いくら向こうが強くても、情報解析を持つ能力者は限られている事を看破。
奇襲という単純ながら、強さを覆す戦略。
存在をキャッチされても、何をしてくるかの動向を探れない。
ガシャァンッ バシャアァァッ
「先手がこちら」
「必勝もこちら」
磁石型の科学。"バドリアス・マグネット"が、トイレ型の科学。”生活妖精”に装着される。
サポート型の能力が全力で活きる瞬間が今。想定はされていても、読み切るには知らなければ出来ない事だ。
流れ出る水。溢れる水。濁流と共に仕掛け、海のフィールドで有効に起動する準備も整っている。
「参ります」
春藍達 VS バードレイの子達。
”時代の支配者”と呼ばれる者の、子供達の牙が抜かれた。