子酉
自覚することには相当の時間が掛かった。
しかし、それで良い。思春期やっているガキがほんの少し抱く、辛い現実を背く僕の神様がいると、強い信教心が生まれ、根付いて生涯を捧げていただけるだろう。
人生とは、そーいう使い道で良い。自分もそんなもんだった。
誰かと一緒である必要もないし。人から学ぶことは大切であるが、人に頼ることは大切ではない。信じるのは結局、自分で。自分がどうなるかが、幸せでも、楽しさでもある。人ともにいることが幸せも、自分の答え。
バードレイが備えてしまっている意志は、赤子どころか、胎児という栄養だけを食らう、生物の頃からの記憶や経験すらも創造し、堅牢に構築するまで。揺ぎ無くして、証明できねぇのに強い。妄想癖と現実と向き合ってしまう、相反した意志を概念や法則と誇れるほどに、強く兼ね備えていた。
救いにして、世界にとって、絶望するべきところは。
まだ、バードレイが備えているのは、時代のいくつも渡ってきても、その意志という。生きている力の源しかないというところであろう。
彼女がまだ、それだけでいることが救い。
そして、今。
藺兆紗の力を借りて、自らの能力を製造中。
そのため、意志があろうと彼女が動けない(力にもなれんが)。そこで動く手足という、我が子達。
母親の頑張り、生まれてくる事ができた恩。また、養育費をくれる程度の父親。それに応えるため、始動する。
「母様は」
世界を、時代を、代えることを願う。夢と書く。望んでいる。
0からの創造を求めての、変革。これまで、そして、どれだけの。時代と、歴史と、人と、命と、仲間と、希望を、踏み躙られ、笑われて、忘れられ、熱く、喜び、暗く、悲しみ、狂い、まともで、
とても気長にやってきたんだろうか。
「失敗を、恐れちゃだめ」
母様は言う。
「気長に、気楽に、やればいい」
「でも、勘違いしないでね」
「失敗してもいいやじゃないの、諦めてもいいやじゃないの」
どーでもいいとは違う。気長でも、その事に対しては全力を尽くすこと。あえて言うのなら、
「私達も、母様にも、代わりがいる」
「死んでも。また。やり直せば良い」
「それだけに。母様は、無敵で、最強で、死なない」
「でも、負けちゃうけど」
「だから、私達にも」
「死などない」
「とても素晴らしいこと」
死なないと思い込むこと。また誰かが、この意志を継いでくれるという。精神異常者が持つまともな思想感。
この子達は、人間という生物でありながらの異常者。
そして、バードレイとは違い、元々は藺兆紗の駒としての教育や人間の製造に携わっており、現状の強さだけをとれば、彼等が信仰するバードレイよりも強い。
さらには能力の開発はすでに済ませており、藺兆紗からの洗脳から解き放たれ、その自由な意志でバードレイのために動き、死すらも受け入れる。
「私達は時代を代えること」
「何もかも、全部」
「だから」
子酉達の全てが、目的に対して動き始める。
「今の人々が、私達の時代に継げてはダメ」
「宇宙を創造するように、母様は気長」
「定義の概念すらも携わりたく」
「法則すらも操り」
「命を産むも、作るも、幸せも、逆の不幸も、全部全部、あげるの」
「世界と時代を、白いキャンバスにしてから、なの」
「そこにこの人類の意志、人が、入ることになれば」
「完全なる支配者ではなくなる」
「母様はショックを受ける。でも、少しかな。消え失せるまで待つかな?」
気長気長と語りながらも、いつあるか分からないチャンスを不意にする事はない。
全力でこの人類の窮地にトドメを刺すために隊列を組む。
「必ず、阻止する。この人類の引継など、母様の時代には引き継がせない」
「この人類は滅びようと極僅かでも生き延びる、シナリオを持っている」
「私達が気長のようにこの人類も、残ろうとしていたこと」
「凄いね。でも、無駄」
「母様が覚醒される前に終わること、それに」
「覚醒された母様は、"時代の支配者"」
「この人類というちっぽけで敵うことはないの」
まさに彼等が行こうとする。その時だった。
「待てよ、お前等」
「!」
立ちはだかったのは、この人数を止めることなど絶対できない。たった一人。そして、弱い者だった。
「させねぇよ」
「……三矢正明」
復活した後。人の心理状況を読み取れる"本音"が、広域のレーダーとなって、2つのグループを感知。
一つはすぐに春藍達であることと、もう一つがバードレイの子供達。
またの無謀である。
「なにができる?」
「あなたは無力だ。戦うことができない」
分かっているよ、言われなくても。ただ、バードレイがここまでを作ったように。
三矢にもまたそれだけの事をやってのけている。とてもちっさいものかもしれないけれど、それを束ねて、積み重ね、時を刻んでここに立っている。
「俺はこの人類を、あんたと対等にできるまで、準備させた。だから言う。攻撃するのを止めろ」
「何を?」
「どの道、滅ぶんだよ!何ができると思ってんだ!!」
たった1人の言葉。加えて、忠誠心の高い敵達ともなれば、話し合いになど持ち込めるわけもない。
「嘘だ。生き残れる奴等がいる」
「わずかな可能性でも、潰すのが当たり前」
「怯えた狼でも、しっかりと獲物の首を食らう。命を食む。当然」
「そのための管理社会。あなたの計画だった」
「見くびってはいない。むしろ、高く賞賛している」
「まさかの交渉?それはないない。無理無理」
でも、やるしかない。
この自分の命がもしかすると、バードレイのためにあるのならば、三矢は吼えた。
「見捨てられねぇんだよ!!ガキは黙ってろ!!お前等の血肉がそれでできている事に、腹も立ってんだよ!!」
こいつ等と話しても埒が明かない。また、アレクと同じような気持ちでもある。
「バードレイを出せ。酉麗子を出せ!お前達の母親を出せ!」
「ダメ。母様は準備中。暇もなく、忙しい」
「あなた方の計画も、母様があってのこと」
「母様。拗ねるかも」
「そしたら、滅ぼすかも。また何光年とかけるかもね、母様」
「人類を助けるも、助けないのも母様次第」
言葉と同じように、今のバードレイは藺兆紗の空間内にいる。出会う事はできない。
ならば、藺兆紗をとっちめても良い。
思いっきりだ。ここを切り抜けろ。
声しか出せないけれど、それでも
「あんた!人類がこれまで!どれだけの思いで生きて、繋げてきたと思っている!!あんただけじゃねぇーんだよ!!」
届いてくれと
「俺達が”いた”って事すら無くなる時代に、自ら納得するのかよ!?俺達は仲間だったろう!あんたも1つ2つ、大切な者がいた!それすら全部消して、あんたはいいのか!?」
分かってるよ。
ここまで来て、この人が折れない。折ったこともない。
だけれど、俺も折れない。折れるわけにはいかない。
「構わないって言うだろう!だが、俺は。あんたの権限だろうと認めねぇー!!認めねぇ!!だってよ!俺達がホントに、世界も時代も変えたんだ!!それすら無くすなんて、まだ欲する意味も、まったくねぇだろ!!あの全員の想いと、頑張りを」
ドスッッ
「五月蝿い、三矢くん」
腹部を刀で貫かれ、あっさりと
「!」
「っ……無駄にできねぇ」
倒れるわけにはいかなかった。痛みを堪えて、足がガクガクと震えても。男なりに踏ん張って
「俺が、そうして、ここにいる、から」
けれども、バードレイの子達から三矢が倒れるまで、動けなくなるまで。
残酷な仕打ちを受けることは当然のことだった。