(1)無敵
僕は、無敵の力を手にした。
幼い頃から物語の英雄に憧れていた。それを夢見て剣を握り、振るった。魔物と遭遇したこともなかったのに。
「あぁ、もうダメだ……!」
「王都騎士団は我々を見放した!」
「おなかすいた……」
ここは幾つ目の村だっただろうか。僕は、そんな声を行く先々で聞いた。
……今度は間に合った。
「これを使ってください!! 大丈夫です! 僕が守ります!」
僕は手を宙にかざし、何もない空間から武器と防具を発生させた。
武器も何も持たない村人達へそれを分け与える。村人達は信じ難いものを見たといった顔だ。それは見慣れたものだった。
「目が……光った?」
僕の顔を見つめていた一人の村人がそう呟く。僕は思わず目を手で塞ぐ。どうやら『無限炉』を使用する際、瞳が発光するらしい。まさしく『炉』というわけだ。
「大丈夫です……、大丈夫です、僕はあなたたちの味方です」
顔を上げ、口角を上げ、笑みを見せる。ただ守りたいだけだと、両手を広げてみせる。
村人達はそんな僕の姿を目にし、それ以上何か言及することはなくなった。おずおずと武器と防具を手にする。
「立ち上がってください。この村は、まだ戦えます」
僕は、襲いかかってきた魔物の前に立った。そして、手をかざし、大きな魔力壁を出現させた。
魔物はその魔力壁に突撃するも、弾き返される。
「お……おぉ……!」
村人達はどよめく。
「僕が、力をあげます。魔物から守ります。皆さん、剣を持ってください」
魔力壁で魔物を防ぎながら、僕は村人達へ魔力を配った。
「こ……これは!?」
「力が、みなぎる……!」
僕から力を受け取った村人達は、己の身体能力の高まりを感じたようだ。
「行きます、戦います! 我らも戦える……!」
野の獣が死後、魔物と化していた。それは魔物としてはまだ下級である。しかし、戦う術もない村はそんな魔物にすら蹂躙されるのだ。それまで平和に暮らしてきて、ある日突然そんな災厄に見舞われた人々は絶望したのである。
だが、こうして立ち上がることができた。
……僕も、みんなと戦いたかった。
「えい! おりゃっ!」
「させんぞ!」
「なめんな!!」
戦い慣れていない村人達は、不器用ながらも戦った。
「大丈夫かっ、あんた!?」
村人達へ魔力を流し、魔力壁を立て、僕は立ち続けた。それでも力はまだある。無限に湧く。僕も剣を取り、魔物へ立ち向かった。魔力を自分の体へ流し、叩き潰す、といった形で撃破する。
剣は村の警邏係の大人に少し習ったくらいだ。薪割りの方が得意なので、薪割りをするように魔物を断つ。
「大丈夫……っ、です!」
ひらりとかわし、華麗に捌く、とはいかない。魔物の爪が僕を裂く。それも織り込み済だ。
ぱたぱたと血が、地面に落ちる。引き裂かれ、できた傷はえぐれ、肌がめくれる。
「ひでえ、ひでえ傷だぞ!?」
「僕のことは心配しないでくださいっ! それより、前を、前を見て下さい、まだ来ます!」
……本当に、大丈夫なんだ。
力を発揮すると、そんな傷もたちまち塞がる。これは無敵の力。だから僕は恐れない。
「おお……? お……お!!」
僕の傷が塞がり、何事もなかったように立ち続ける姿を目にした村人達が沸く。
よかった。これが何よりも効く。これを見せると皆、勝利を確信してくれる。
「行きますよ!! 僕たちは……勝ちます!」
「お、おお……!!」
僕が腕を掲げると、村人達は一斉に魔物へ攻撃した。僕はさらに魔力を分ける。この瞬間に強めると効果的なことが分かった。なので、場の高揚感を誘い、それを感じ取れるよう気を向ける。
「……や、やった……!!」
「俺たちが、俺たちが魔物を退けた!!」
そして完全勝利である。
「やりましたね、これでこの村は救われました」
「ああ、やった、あんたのおかげだ」
……よかった。救えた。
村人達は喜び、安堵の表情を見せた。僕はこれが見たかった。救えたら……救われる。
「いやぁ……あんたは救世主だ」
「そうだ、救世主様……!」
救うことができれば、僕はそう呼ばれる。
「いや、僕はただ……」
そう言いかけていつも止まる。そう名乗りたかったはずなのに。英雄に憧れていたのに。
「皆さん、お疲れ様でした。片付けと、補給をしませんか」
壊された場所は元に戻し、犠牲になった人は弔う。そして、飢えた人には食べ物を。
僕は温かいスープとパンを生み出した。それを村人達へ配る。そして、亡くなった人の埋葬を手伝った。鉄具も墓標も生み出して。
「あんた、旅人かい?」
「そう見えます?」
「そのマント、ずいぶんくたびれてきてるからねぇ」
「これは……、他の場所でもらったんです」
気さくなおじさんからそう話しかけられた。
僕はマントを羽織っている。これは、他の村で小さな女の子からもらったものだ。
——その子のお父さんの形見
元は、長く綻びもないマントだった。いつしか、半分ほどの長さに千切れ、裾がほつれてきた。それでも捨てることはできない。しない。
……間に合わなかったんだ。
僕が、もう少し早く到着していればその子のお父さんは死ななかったかもしれない。
「大事にしてるんだねえ」
「そうです。宝物です」
「そうかい」
その女の子は、間に合わなかったのに僕の名を訊ね、呼んでくれた。
「イクタお兄ちゃん」
その声がずっと頭に響く。それとともに妹のことを思い出す。
◇◇◇◇◇
「この村を危機から救った者がいると聞いた。案内してほしい」
村の復旧作業をしていると、数人の屈強そうな男達が訪れた。その中でも一人、長と思わしき大柄な人がいた。とても強そうだった。どこかの騎士だろうかと思った。
「私はガディアスと申す。自警団を率いている」
その人はそう名乗った。ガディアスと名乗ったその人は僕を探しているようだ。
「ガディアス様……!? あの、エルディア王都、騎士団長の……!」
「今はもう、騎士団長ではない。一介の……用心棒だ」
ガディアスさん達は村人達に案内され、僕の目の前に立った。
「貴殿の名は?」
「……イクタです」
僕はガディアスさんの圧を受け、息を飲んだ。騎士団長と聞いた。今はそうではないと聞いたが、確かにそう思える威風を感じた。
「そうか、イクタ殿。かねがね、噂は聞いていた。貴殿が村々を救ったということを」
「全部は救えていません」
「いや、貴殿一人でここまでの成果はすさまじい。私達の手は及ばず、苦渋を味わっていたところだ」
「そうですか」
……この人も、救いたかった人なのだろうか。
「魔王の侵攻はもはや留まることを知らない」
「はい。王都の城門の外にいる村々は次々に滅ぼされています」
僕たちはこの国、アルヴェリア王国が置かれている状況を確かめ合った。
王都エルディアは城門を固く閉ざし、魔王からの侵攻を防いでいる。魔王は王都へ手出しをしていない。王都の外にある、騎士からの庇護もない村々が次々に滅ぼされているのであった。
「この村はまだ、その辺りの魔物が攻めてきただけでした」
「少し前、魔王が直接襲ったのはハルン村だったな」
ガディアスさんのその言葉に、僕は眉をぴくりと動かし反応した。
「……あの村のことを知っているのか?」
そしてそう問われた。
……うん、知っている。
「村人は全て、僕が埋葬しました」
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