第7話 桜吹雪の学び舎をあとに
エリスの決意の言葉を受け取ったセーラさんは、じっとエリスを見つめました。
「私たちと一緒に行く?とりあえずの行き先は双児駅までだけど」
「はい…」
「マルちゃんは、エリスちゃんと一緒でも大丈夫?」
「大丈夫って?どういう意味ですか?」
「私はマルちゃんの浮気は許さないってこと…マルちゃんがエリスちゃんと仲良くしたら、マルちゃんが、私を好きだって言ってくれたことを裏切ることになるのよ」
「浮気じゃないです…お友達です」
「そう?でも、マルちゃんは、こんなおばさんより、若くてピチピチした女の子のほうが好きなんじゃないの?」
「いえ、セーラさん…私もそれを期待してましたけど…どうも、マルちゃん、女の子より男の子が好きみたいなので諦めました。今日も、私とノンノとの女子会より、男を選んでました」
「それは本当?」
ちょっとだけセーラさんの顔が怖くなりました。
「選んだというか…なんというか…」
「いいじゃないですか…マルちゃんも女の子だったってことですよ…セーラさん…許してあげましょう」
助け舟を出してくれたのは、ノンノちゃんでした。
「とりあえず、セーラ…お帰りなさい。すごいね…この道」
アンさんが指し示した『ホワイト・ウェイ・オブ・ディライト(輝く白い道)』は、白羊駅前の桜並木から農場に向かって、まっすぐに伸びて行きます。
そして駅の線路には、セーラが乗ってきた青い色の銀河超特急が停車していました。
セーラさんが瞬間移動して降ってきた時に光った青い光のラインは、この車体が牡羊座星の大気圏を突破してきた時の摩擦熱で生じた光だったようです。
「『双児駅』への真のレールは、どうやら、私たちの農場経由みたいね…これに乗って行けるのかな?でも、これは、水瓶座に戻る列車よね」
アンさんが、その青い列車を見て呟きました。
「そうね…レールは敷かれたけど…何に乗って『双児駅』に行けばいいのかしら?」
セーラさんもアンさんも、その謎をまだ解き明かしていませんでした。
「とりあえず、せっかくだから、お花見しましょ…エリスちゃん、美味しい屋台とか案内してくれる?」
「もちろんです…セーラさん、スイーツ好きですよね」
「うん…たこ焼きとか、わたあめとかも食べてみたい」
「駅前公園まで歩いていきましょ…桜を見ながら」
そして、エリスは屋台の一つに立ち寄ると、わたあめを4つ買って戻ってきました。
「人数分なんだ…こういうのって、シェアしたほうが楽しくない?」
「一応、後ろからこっそりついてくる用心棒くんたちの分もね…女4人で酔っぱらいさんたちがいっぱいいるお花見会場とか、危険でしょ」
「私はノンノと…これは、セーラさんとマルちゃんね…あと、レッドさんたちは4人で1個。ケンちゃんとシンちゃんはこれね…」
エリスは、買ってきたわたあめをそれぞれに配ります。
レッドさんは、ノンノちゃんの傍にきていましたが、ブルーさんとイエローさんとホワイトさんの3人は、ちゃんとセーラさんの護衛をしています。
そうそう、言い忘れていましたが、さっき、セーラさんが空から突然現れたのは、この4人のバイオメトリックアンドロイドのドローンモードで、青い銀河鉄道列車から飛び降りたらしいです。
相変わらず、セーラさんは無茶をします。
「だって、マルちゃんが、後ろの2人に襲われてると思ったから、思わず窓から飛び降りちゃった」
「空中を飛んでる銀河鉄道の車窓は開けられないって、セーラさん言ってましたよね」
「そこはほら…ブルーが秒でこじ開けてくれたから、ノープロブレムよ」
「ポリスさんや、軍人さんに見つかっていたら大問題ですよ…銀河鉄道公安官さんとかに気づかれなくてよかったです」
「そっちは買収してあるから大丈夫よ」
セーラさんに抱えられて、二人でわたあめをシェアしながらエリスさんの後を遅れないようについていきます。
とにかく、久しぶりにセーラさんに会えたことが、僕はとても嬉しかったのです。
そして、駅前公園に着いた時、セーラさんたちを乗せてきた青い色の銀河鉄道列車は、駅から飛び立っていきました。
駅前公園の桜の木の下の芝生にみんなで腰を下ろすと、僕はセーラさんから、水瓶座の【遺跡エリア88】で起こったことの全てを話してもらったのです。
お酒を飲んでる時のセーラさんは、とにかく、よくしゃべってくれます。
僕も13歳とは言っても、猫の寿命は短いので飲酒は許可されています。
そして、僕もお酒の勢いを借りて、この牡羊座に滞在した中で経験したことをセーラさんに全部話しました。
「情報共有は大事だもんね…大丈夫?みんなとお別れするのはつらくない?」
「セーラさんも一緒だし…これからはエリスも一緒だからね…農場のみんなとはコゼットさんの配信でまたおしゃべりしようって約束もしているし…それに、ロミオには早く会いたい」
「マルちゃんには、まだ私の知識の1%しか教えてないから、これからも通信教育は続けるわよ」
セーラさんと二人だけの会話だったはずなのにノンノちゃんが割って入ってきます。
「大人組はいいですね…花見酒とかって最高じゃないですか」
「まぁね…あれ?」
そのときです。調子に乗って飲み過ぎてしまったみたいで、急に駅前公園がパアーっと明るく光ったように思えたのです。
あれ?なんだろう?酔いのせいではなく…確かに、急に明るく…なりました。
農場と白羊駅を結ぶ桜並木に現れた『ホワイト・ウェイ・オブ・ディライト(輝く白い道)』の、駅側の線路あたりで途切れていたはずのその光が、線路を横断するように…いえ、立体的にクロスするように光の道が空に向かって伸びているのです。
「なんか、お迎え来ちゃったみたいね」
アンさんが僕たちの傍にやってきて、天空に向かって伸びている『ホワイト・ウェイ・オブ・ディライト(輝く白い道)』を指差しました。
「あれは?」
「さっき、ジョオから連絡があった。もうすぐ着くから、卒業式とお花見に参加させろって」
輝く白い道の先に列車が現れて、どんどん近づいてきます。
「ジョオさんが…ここに?」
エリスとナイルさんの会話の中で【ジョオさん】というキーワードが出たことを聞いて、僕は思わずアンさんに確認してしまいました。
「うん…たぶん、あれに乗ってるはず」
白羊駅に到着した銀河鉄道の列車から、牡牛座のジョオさんが降り立ちました。
「時間が惜しいので、銀河鉄道のチャーター列車で来ちゃったよ…あなたが、マルコくんね」
「はい…はじめまして、マルコです」
「実際会ってみないとわからないものね…ほんとに子猫ちゃんだったんだ」
「コゼットさんの配信に、リスナーと入室してた時は顔出ししてなかったですからね…こんな顔です」
「セーラから相談を持ち掛けられた時から調査は始めていたんだけど、けっこう、重要なことがわかったの」
「ジョオ…まさか、そっちから来るとは思っていなかったから…でも、来てくれてありがとう」
セーラさんも戸惑いながら、感謝と歓迎の言葉をジョオさんに伝えました。
「とりあえず、お花見には間に合ったわ。今日はしっかり飲もう!セーラ…あなたには、とにかく詳しい話を聞きたいから、待っていられなかった」
「コゼットから、ちょっと聞いてるわ…同じようなことを私にも聞きたいってこと?」
「そう…【レ・ミゼラブル】のコゼット、【小公女】のセーラ・クルー、そして、獅子座にいる【小公子】のセディ…間違いなく、あなたたち3人は、ストーリーの中の登場人物の生まれ変わりだということがわかったのよ」
「まぁね…私のところには、エミリーも戻ってきてくれた…他にもいそう?」
「少なくとも、10人以上はいるんじゃないかな?私がその一人の可能性も、まだ消えていないし」
「あなたが【矢吹丈】かぁ…あなたが、あの作品を初めて読んだのはいつ?その時って、どんな風に感じた?」
「それも含めて…とにかく、双児駅に行く前に、このチャーター列車で、牡牛座の私の研究室に来てほしい…伝えられることと、確認したいことは、列車の中でも話せるけど…あ、ちょっと、マルコくん、私にもビール買ってきてちょうだい」
「あ…はい」
ジョオさんは、猫づかいが荒いヒトでした。
僕は、居心地の良いセーラさんの膝から降りて、ビールを買いに行きました。
「マルちゃん、一緒に行こう」
エリスが、そう言って僕の買い出しに付いてきてくれました。
そして、ビールを売ってる屋台で、ナイルさんに会ったのです。
「エリス…それを飲んだら、一回、みんなで学習棟に行こう…そっちにいるみんなにも伝えてきて…みんなにも来てもらって…来週の卒業式…これからやろう」
「え?これから?卒業式は来週…ですよね。ナイル母さん…」
「まぁ、いつもはそうなんだけど…今年は特別ってことで…今、私が決定しました」
「でも、私、もう花束も受け取っちゃったし…卒業式の前に、この牡羊座を出発するつもりだったから…」
「記念日は、覚えやすいほうがいいでしょ?初デートとか、誕生日とか…結婚記念日とかも」
「そういえば、ナイル母さん、以前は、記念日の数だけ幸せがあるんだよって言ってましたね」
「だからよ…今日…3月19日は、あなただけの卒業式…みんなが決めた卒業式じゃなくて…エリス…あなた自身が決めた卒業の日…
この牡羊座から旅立つと決めた日…どう?覚えやすいでしょ」
「うん…そうですね」
「だから、今すぐ、卒業式をやろう…これから…みんなの学び舎で…私も、セーラさんたちに一緒に出席してって頼んでみるから」
「ありがとう…ナイル母さん…卒業式、できるんだね」
人数分のビールを屋台で買った僕とエリス、そして、ナイルさんの3人で、セーラさんたちの待つ桜の木の下に戻りました。
「セーラさん…そして、そちらはジョオさんですよね」
「はい…」
ナイルさんは、セーラさんとジョオさんに、エリスの卒業式を、これからやりたいから一緒に農場の学習棟に来てほしいとお願いをしました。
「とりあえず、マルコくん、ビールありがとう」
ジョオさんは、僕から缶ビールを受け取ると、あっという間に缶の蓋をあけて、一気に飲み干しました。
「ナイルさん、そういう話だったら、すぐ行こう。あのチャーター列車に乗れば、あのレールを使って、あなたたちの農場へ行けるはず…式が終わったら、そのまま、私たちは双児駅に向かう…
牡牛座を経由するけど、このチャーター列車なら、定時の銀河鉄道と違って、レールのある場所ならどこにでもいけるから…一旦、寄り道をする…
エリスさんが、牡牛座で降りるか、双子座まで行くかは、エリスさんに判断してもらう…それでよろしいですか?」
「はい…それでいいです。エリスは、自分の目で見て、自分で判断して、降りる星を決めるということですね…エリスもわかったわね」
「わかりました…牡牛座でも、双子座でも…その先の蟹座でも、自分が住む星は自分で決めます」
「どこに行っても知り合いはいないよ」
「わかってます」
「じゃ、決まりね…あなたたち、さぁ、とっとと列車に乗って!ナイルさんは、子供たちに声をかけてきて…列車で農場に戻って卒業式するってこと」
ナイルさんは、ジョオさんに促されて、会釈をすると、その場を離れていきました。
「全員揃っていますか?農場に残っている子供たちは、誰と誰ですか?」
「残っている女子は、アウラとソネットです」
「男子は、ゴードンとバクスターとクロッスの3人です」
「では、大丈夫そうですね…出発しますよ」
ジョオさんは、チャーターした列車に、駅前公園でお花見をしていた僕たちと、駅前通りで、出店やゲームイベントやストリートパフォーマンス…いわゆる大道芸を楽しんでいた農場の住民たちが乗り込んだことを確認して、発射オーライの合図を列車の車掌さんに伝えます。
チャーター列車でも、ちゃんと車掌さんはいるんだなぁと漠然と感じながら、僕は車窓から窓の外を眺めてみました。
桜並木の石畳に現れた光のレールの上を、列車はゆっくりと進み始め、窓から見える桜の木々がゆっくっりとスライドしていきます。
猛スピードでこの桜並木を駆け抜けた…シンタロウさんとの今日の思い出。そのシンタロウさんとケンタロウさんは、隣の車両で、エリスさんと思い出話をしているようです。
鉄道列車の旅ってやっぱり好きだなぁって、しみじみと感じていると、セーラさんの手に握られていた透明のダイヤモンドが、僕に声をかけてくれました。
「マルコさん…あたしの声…聞こえますか?」
「うん…聞こえるよ。きみが、噂のダイヤちゃんですね」
「はい、セーラさんの守護霊…じゃなくて、守護キャラなのに、今まで全然、セーラさんを守ることができなかったダメダメのダイヤなのです」
「そうなの?」
「だから、マルコさんに感謝なのです」
「僕は特に何もしてないよ」
「マルコさんが、セーラさんに会ったことから、全てが良い方向に動き始めました。これからも仲良くしてください…なのです」
「守護キャラってことは、セーラさんをセクシー衣装に変身させたりできるの?」
「う~ん、どうかなぁ?セーラさんが、そういうキャラになりたいって願ってくれればOKなのですが、マルコさんの願いだけでは却下なのです」
「全部、聞こえてますけど…そういう話は、私がいないとこでするものじゃないの?特に…マルちゃん」
セーラさんが、会話に加わります。
「僕は、セーラさんは、もう少し露出の多い衣装でも素敵じゃないかなぁと思っただけで…」
「マルちゃんにセクハラされると思わなかったわ」
「あ、喧嘩はダメなのです」
「ダイヤさん…この二人は、いつもこの調子なので喧嘩じゃないんですよ…わかりやすく言えば…じゃれ合いかな?」
ホワイトさんが、フォローしてくれます。
「本気の喧嘩になりそうなときは、私が責任を持ってお止めしますから…セーラ様のメンタルケアも私の大事な仕事なので安心してください」
「あたしよりも、ずっと優秀な守護天使様がいるのですね。安心しました…なのです」
ダイヤちゃんという…自称「守護キャラ」が加わり、これからのセーラさんとの二人旅…いえ、これからしばらくは、エリスも一緒なので…三人の旅は、とても賑やかになりそうです。
果たして、輝く白い道のレールは、アンの農場まで続いていました。そして、そのレールの先は、遠い宇宙に繋がる天空へとつながっています。
後ろを振り返ると、ここまで通ってきた白い光のレールは消えてしまっています。
僕の後ろに道はない、僕の前に道は生まれる…そんな、どこかで聞いた言葉を、ふっと思い出しました。
敷かれたレールの上を旅するのも悪くない、どうせ気ままな旅だし、大好きな人は、いつも隣にいてくれます。
もう、夜の9時…21時を過ぎていましたが、卒業式…卒業証書授与式の準備は整っていました。
農場に残っていたゴードンさんとアウラさんを中心に、残っていた住人さんたちが、いろいろな飾りつけをしてくれていたのです。
学習棟の入り口の【式次第】と書かれた次第…プログラムの内容は
・卒業生入場
・開式の辞
・卒業証書授与
・式辞
・記念品贈呈
・門出のことば
・送辞
・答辞
・式歌
・閉式の辞
となっています。
記念品贈呈まで滞りなく進み、プログラムは「門出のことば」となりました。
入り口でアウラさんから渡されたペーパーに書かれている「門出のことば」、僕も一緒に【全員】パートを言葉にします。
『
全員:グリーンアイランド農場に春が訪れます
全員:果樹園の木々にも緑の色が増えて新たな命がやどります
全員:これから、たくさんの実りの季節を迎える、その出発点です
エリス:今、私は卒業します
年少組・男子:エリスさんは、先生以上にたくさんのことを教えてくれました
年少組・女子:エリスさんは、私たちといつも楽しく遊んでくれました
年長組・男子:同期生として、ともに学び
年長組・女子:ダンスの先生として、私たちに指導もしてくれました
年少組・男女:午前の農場作業では、農業用ドロイドの操作方法をしっかり教えてくれました
年長組・男女:季節ごとのイベント、収穫祭、体育祭、発明・発表大会で友情をはぐくみました
全員:たくさんの思い出たちを、決して忘れません
エリス:マリア先生、ナイル先生、そして、同期生でもあって、途中から先生になったアン先生から授かった新しい知識とたくさんの経験を、これからも生かします
マリア:私たちは学ぶことの方法を授けたに過ぎません
ナイル:学ぶことに疲れた時は、しっかりと体や心を休めてください
年少組・男女:僕たち(私たち)はずっと、お友達です。これからも新しいお友達を増やして、僕たち(私たち)とも仲良くしてください
年長組・男女:学びから得たことをお互いに共有して、共通の言葉をこれからも増やして、会話を続けていきましょう
エリス:いつでも、私たちはこのグリーンアイランド農場に集うことができます
全員:いつでも帰ってきてください
エリス:私はこの星を旅立つ決意をしました。これから、大きな壁にぶつかることがあるかもしれません
エリス:乗り越えられない壁や壊すことのできない壁もきっとあるでしょう
エリス:そういう壁にぶつかったとき、自分にできる範囲で乗り越える努力をします
エリス:乗り越えられなかったら、ごめんね。帰ってきちゃいます
エリス:帰る場所…居心地最高の場所があるからこそ挑戦することができます
全員:エリスさん、あなたの挑戦を応援します
エリス:ありがとうございます。行ってきます!
』
門出のことばが終わると、プログラムは、次の送辞になりました。
送辞を読むのは、アウラさんです。
『
ここグリーンアイランド農場にも白羊駅周辺にも満開の桜が咲いています。
私たちは、この四季が訪れる場所、穏やかな季節がある場所で、たくさんの学びを得ることができています。
エリスさん、このたびは、卒業おめでとうございます。
今日、卒業式を早め、この星を旅立つ決心をされたことをお聞きしました。
すごく大きな決心をされたことと思います。
私は、エリスさんのダンスに憧れていました。
あんな風に、ビッグネームのシンガーアーティストと同じステージで華やかなダンスを披露することができたら、どんなに気持ちが良いことだろうといつも思っています。
才能の差をとても感じています。
エリスさんは、2月のラスカルが主催したバレンタインライブにも参加されていました。
他の人はきっと、ステージの主役や自分の推しを目で追っていたと思います。
けれど、私は、ずっと、エリスさんのダンスを目で追っていました。アーカイブされた記録動画も、何回も何回も観て、それこそヘヴィローテーションしました。
私は、身近にいるからエリスさんを応援するきっかけを得たと思っていますが、きっと、エリスさんのダンスを見て、この人のようになりたいと感じているダンサー志望の女の子たち、
もちろん、男の子たちもいると思います。
そんな人たちが、エリスさんのダンスパフォーマンスを真似たり、越えようと努力していたりすると思います。
もしかしたら、エリスさんがこれから立ち寄った星で、私と同じようにエリスさんのダンスに憧れている人と出会うことがあるかもしれません。
きっと、その人は、その出会いを喜び、握手を求め、もしかしたら、ダンスの指南を懇願してくるかもしれません。
アン先生が教えてくれた想像することや、妄想すること、自分の物語を記録していくこと、そういう訓練をしてきたからこそこうやって、エリスさんがこれから経験するであろうことを想像してワクワクすることができます。
それは、同じようにアン先生と学び、教え合い、そして励まし合ってきたエリスさんなら、もっとたくさんの想像をしていることと思います。
先ほどの門出のことば、エリスさんのアドリブの部分がありました…私はあの言葉を絶対に忘れません。
明るい未来も、絶望の未来も、すべてアン先生が教えてくれた想像することから生まれたことだと思います。
私も、来年には、このグリーンアイランド農場を卒業しますが、エリスさんのように自分の意思を持って、卒業をしていきたいと強く感じました。
卒業して、もうこの学習棟で笑い合ったりハグし合ったりできなくなるのは、正直言って寂しいです。
でも、大丈夫です。私たちには、思い出があります。
遠く離れていたとしても、言葉を交わそうと思えばいつでも言葉を交わすことができます。
そして、もしも、つらいことがあったら、絶対に帰ってきてください。
気まずいとか思う必要は全然ないです。ここが、エリスさんの本当の居場所です。
いつ帰ってきても、居心地いいねって言ってもらえるように、私たちが責任を持ってこの素敵な場所を守ります。
行ってらっしゃい。そして、素敵な夢をかなえてきてください。
在校生代表 アウラ
』
アウラの送辞が終わると、静まり返ったラーニングルームの前に、エリスがゆっくりと歩み出ました。
その手には原稿などなく、彼女は集まったみんな一人ひとりの顔を愛おしそうに見つめながら、言葉を紡ぎ始めました。
『
答辞。
アウラちゃん、素敵な送辞をありがとう。私のダンスをそんな風に見ていてくれたなんて……ちょっと胸がいっぱいで、うまく言葉が出てこないや。
このグリーンアイランド農場に来た日のことを、今でも鮮明に覚えています。
身寄りのなかった私を、マリア先生とナイル先生は温かく迎え入れてくれました。
そして、アン先生……。アン先生はいつだって破天荒で、私の想像の遥か上をいく妄想と知性で、この世界がどれほど広くて、どれほど愛に満ちているかを教えてくれました。
今日、私はこの大好きな場所を飛び出します。
マルちゃんやセーラさん、そしてジョオさんと出会い、外の世界にはまだまだ私の知らない「物語」が溢れていることを知ったからです。
でもね、さっきアウラちゃんが言ってくれた通り、私には最高の「帰る場所」があります。
だから、どんなに高い壁にぶつかっても、転んで膝をすりむいても、絶対に諦めません。
もし帰ってきた時は、「ただいま! ちょっと休ませて!」って笑顔でドアを叩くから、その時は美味しいスイーツと一緒に迎えてね。
マリア先生、ナイル先生、アン先生。そして大好きな仲間たち。
私に「自分自身の足で歩き出す勇気」をくれて、本当にありがとうございました!
卒業生代表 エリス
』
深々と頭を下げるエリスに、ラーニングルーム全体から割れんばかりの拍手が巻き起こりました。
ナイル母さんはハンカチで目元を拭い、ケンタロウさんとシンタロウさんは大きな体を寄せ合って号泣しています。
そして、閉式の辞が宣言された瞬間——満を持したように、あの人物が前へと躍り出ました。
「はいはいはい! 感動のフィナーレのところ大変申し訳ないんだけど、ここでアン先生から超重要な補足とマシンガントークを投下させてもらうわよーっ!」
やっぱりアンさんです! 腕をまくり上げ、目をキラキラと輝かせながら、息をつぐ間もないマシンガントークが炸裂しました。
「ちょっとみんな聞いて! 私たちがこれから向かう双子座、そしてその手前に位置する牡牛座! ここはただの通過点じゃないのよ!
いい? 今回セーラが持ち帰った3つの鍵——黄金のリンゴ、瑠璃、そして透明なダイヤモンド! これらが共鳴して導き出した真のルートは、ただの線路じゃないの!
1888年に起きた魚座沈没事件、そして歴史から抹消された『双児駅』の開かずの扉……そのすべては、12星座のパワーを宿した『選ばれし13人の物語の伝承者たち』が集うことでしか開かない仕組みになっていたのよ!
セーラが【小公女】、コゼットが【レ・ミゼラブル】、セディが【小公子】……じゃあ、マルちゃんは? エリスは? そして、あの怪し気な探偵ジャーナリストのジョオは何者なの!?
すべての前世と記憶のパズルが噛み合わさった時、宇宙の理を揺るがす大仕掛けが発動するの! わかる!? このぞくぞくする展開! 私の脳内シナリオではもうクライマックスへのカウントダウンが始まってるんだからねーっ!!」
「アン殿、早口すぎて後半の滑舌が怪しくなっておられますぞ……」
カーネル(紅瑪瑙)の中から呆れ顔の声が漏れますが、アンさんの熱量に引きずられるように、室内の温度は一気に急上昇しました。
「ふふっ……相変わらず、アンの想像力は止まらないわね」
セーラさんは優しく笑いながら、僕の肩を抱き寄せました。
「行きましょう、マルちゃん。エリスちゃん。新しい旅の始まりよ」
満開の桜吹雪が舞い散る中、僕たちは農場のみんなの大歓声と手振りに見送られ、天空へと伸びる『ホワイト・ウェイ・オブ・ディライト(輝く白い道)』の上に停車する銀河鉄道のチャーター列車へと乗り込みました。
プシューッという重厚な蒸気音とともに、列車はゆっくりと動き出します。
車窓からは、涙を拭きながらいつまでも手を振り続けるアウラちゃんやノンノちゃん、ケンタウロス兄弟たちの姿が小さくなっていくのが見えました。
「行っちゃったね……」
エリスが少し寂しそうに、でも誇らしげに呟きます。
「うん……でも、いつでも会えるよ」
僕がそう答えると、エリスは嬉しそうに頷きました。
列車は地球の重力を振り払い、星々が煌めく漆黒の宇宙空間——牡牛座星系へと続く銀河軌道へと滑り出していきました。
目的地である牡牛座までの旅路は、およそ7日間。
広々としたサロン車両のソファに腰掛け、優雅に缶ビール(本日3本目!)を傾けるジョオさんが、不敵な笑みを浮かべながら僕たちを見回しました。
「さて……感動の旅立ちの余韻をぶち壊すようで悪いんだけど、ここからは『探偵時間』とさせてもらうわよ」
ジョオさんはテーブルの上に、何枚もの古い文献のコピーや、12星座のデータシートをバサリと広げました。
実体化したAIチームのレッド、ブルー、イエロー、ホワイトも、ただちにジョオさんのホログラム端末と同期し、戦闘モードさながらの超高速データ解析を開始します。
「ジョオさん……一体、何を始めるんですか?」
僕が尋ねると、ジョオさんは鋭い眼光で僕を指差しました。
「マルコくん。そしてセーラ、エリス、アン、ラスカル……。あなたたちは自分たちをただの『偶然出会った旅人』だと思っているかもしれないけれど、それは大間違いよ。
この12星座銀河に集められた者たちには、明確な『役割』と『真の正体』が存在するの」
ジョオは冷えたビールを一口煽ると、黒髪をかき揚げ、言葉を繋ぎました。
「【12星座のパワーを宿した選ばれし13人】——。
古典文学の登場人物の生まれ変わり、記憶の継承者、そして概念の体現者……。
セーラが『セーラ・クルー』として覚醒し、コゼットが『コゼット』としての記憶を持っていたように、マルコくん、あなたの中にも、そしてそこのエリスの中にも、まだ眠っている『物語の原典』が存在する」
「僕たちの……原典……?」
「そうよ。このチャーター列車が牡牛座の研究室に到着するまでの7日間——。
私こと探偵ジャーナリスト・ジョオと、この優秀すぎる4人のAIチームの総力を挙げて、あなたたち13人全員の仮面を剥ぎ取り、その正体と前世の謎を完璧に解き明かしてみせるわ!」
ジョオの力強い宣言とともに、AIチームのレッドが眼鏡の位置を正し、ブルーが不敵に口角を上げました。
「データベースの照合、および脳波波形パターンとのクロス検索……いつでも開始できます、ジョオ殿」
「フッ……僕たちの解析能力をフル稼働させる時が来たようですね。逃げ場はありませんよ、みなさん」
窓の外では、無限の星々が流れていきます。
ロミオの待つ「双子座・双児駅」の開かずの扉へ向かう道中、張り詰めた緊張感と知的な興奮が、車内を満たしていきました。
僕たちの隠された正体とは一体何なのか?
そして、ジョオの冴え渡る推理が導き出す「物語」の真実とは——!?
物語は、深遠なるミステリーが加速する【第4章:牡牛座の「探偵ジョオ」の冴え渡る推理とAIチームの総力戦】へと、鮮やかに舵を切るのでした!




