第28話 「世界の入口」
ランウェイ終了から24時間。
M&Mの映像は、すでに国内だけの話ではなくなっていた。
海外ファッションメディア、SNS、クリエイター層。
拡散の速度が“ブランド”の範囲を超えている。
東京・オフィス。
巨大モニターにリアルタイムの反応が流れる。
「これはファッションではなく概念」
「MIYU & MAYUは新しいジャンル」
「MIRRORは今年の象徴になる」
玲美愛が画面を見て言う。
「これ、想定超えてない?」
真衣が冷静に答える。
「超えてますね。海外の方が反応早いです」
玲美菜が小さく言う。
「ちょっと怖いレベルです……」
美優はモニターを見たまま、動かない。
真優が横に立つ。
「こうなるの、予想してた?」
美優は即答しない。
少し間を置いて。
「“ここまで”は想定してない」
真優が少し笑う。
「やっぱり」
そのとき、プロデューサーが入ってくる。
「次のオファー来てます」
資料を置く。
《パリ・ファッションウィーク 特別招待》
《ミラノ展示コレクション共同企画》
《海外ブランドとの常設ライン提携》
空気が一瞬止まる。
玲美愛がぼそっと言う。
「え、もう世界行ってるじゃん」
真衣が言う。
「スピードが異常です」
玲美菜は言葉を失っている。
美優は資料をゆっくり閉じる。
「行く」
即答。
真優が横を見る。
「全部?」
美優は頷く。
「全部」
プロデューサーが少し笑う。
「止めないんですね」
美優は少しだけ視線を上げる。
「止める理由、ある?」
夜。
オフィスの窓から見える東京は、まだ小さい。
でもその中で、M&Mだけが異質に動いているように見える。
真優が言う。
「世界、行くんだね」
美優は静かに答える。
「もう来てる」
真優が少し笑う。
「実感ないけど」
美優はモニターを見たまま言う。
「実感は、後からついてくる」
数秒の沈黙。
真優がぽつりと言う。
「これさ」
「うん」
「どこまで続くんだろうね」
美優は少しだけ考える。
そして答える。
「続く限り」
真優は笑う。
「答えになってない」
美優も笑う。
「それでいい」
世界のニュースはすでにM&Mを“現象”として扱い始めていた。
しかし本人たちはまだ、その中心にいる感覚すら薄かった。
ただ一つだけ確かなのは。
もう国内でも、業界でもない場所に足を踏み入れているということ。
それが「世界の入口」だった。
第28話 完




