プロローグ
拝啓、朝倉慎様。
あなた様は勘……おほん、不幸な事故により、地球にてお亡くなりになられました。
大変不憫なことと存じ、私ども神は臨時総会を開催し、あなた様を転生させることにいたしました。
――いや、待て。
真っ白な空間に浮かぶ文章を見た瞬間、僕は反射的にそう突っ込んだ。
死んだ。
そこはたぶん事実だろう。記憶の最後は、嫌なくらい鮮明だ。
でも問題はそこじゃない。
なんで死後の案内が手紙形式なんだ。しかも拝啓から始まるのか。
文章は僕の戸惑いなどお構いなしに続いていく。
罪悪……げふん。あなた様を応援したい気持ちから、ささやかなギフトをお贈りいたします。
生まれ変わる世界は、あなた様がお好きであったあるRPGゲームの世界――剣と魔法とダンジョンの世界でございます。
「今、絶対に"罪悪感"って言いかけたよな?」
思わず声が出た。
それはつまり、神様の勘違いで僕が死んだってことじゃないか。
朝倉慎、三十歳。
大好きだったゲーム会社に入って、夢を見て、見事に社畜になった男だ。
終電。休日出勤。仕様変更。炎上対応。
それでも踏ん張ってきたのは、ゲームが好きだったからだ。いつか企画の中心に立ちたい。いつか、自分が本当に面白いと思えるものを作りたい。そう思って働いて、働いて、やっと三十で課長に昇進したばかりだった。
その直後に死んだ。
笑えない。
いや、ここまでくるとちょっと笑うしかない。
白い文字はさらに続く。
チート級の力は差し上げられませんが、生存率を底上げするための特典を用意しました。
ご自身の全ステータスと、現在地を正確に把握するスキルです。
通常、この世界の住人はギルドの鑑定石でしか簡易情報を確認できませんが、時と場所を選ばず詳細を確認できるのは、あなた様だけです。
念のため、隠蔽処置を施してあります。
ですので、この力のことは他言無用になさるようお勧めいたします。
「そこだけ妙に実務的だな……」
けれど、ありがたい。ゲームみたいな世界なら、情報はそのまま生存率に直結する。
あなた様が励み、見事に成り上がられた暁には、馬車う……げふんげふん、神の使徒としてお迎えいたしましょう。
「今"馬車馬"って言いかけたろ!?」
思わず叫んだ。転生先でも働かされる未来が見えるんだが。異世界ってもっとこう、夢と希望のあるものじゃないのか。
では、良き人生を。
敬具 神様より。
追伸 このメッセージは、お読みいただいた五秒後に消去されます。
「……ネタ古っ! 普通に口頭で伝えろよ」
叫んだ瞬間、文字が光になって砕けた。
意識が沈んでいく。
剣と魔法とダンジョンの世界。僕が好きだったRPGみたいな世界。
もし、本当にやり直せるなら。今度こそ、死なずに上まで行ってやる。
「……せめて、過労死しない人生で頼む」
それが最後の願いだった。
次に目を開けた時、僕はもう朝倉慎ではなかった。




