表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原作開始前にフラグを全部折ったら、世界が平和になりました  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/28

第8話



 王都の朝は、いつもより騒がしかった。


 原因は明白だった。


「第二王子殿下が戻られたらしい」


 その噂が、社交界を一気に駆け巡ったのだ。


 リシェリアは手元のカップを静かに置いた。


「……予定より早いですね」


 向かいでフィアナが顔を引きつらせる。


「来ちゃったかあ……問題児」


 フラグ管理帳が開かれる。


 新しいページ。


【要注意人物:カイル・クラウゼル】


 原作における役割は明確だった。


 自由奔放な第二王子。

 権力への反発。

 刺激を求める性格。


 そして――


 聖女へ過剰に興味を示し、物語をかき乱す存在。


「原作だと、ここから面倒が増えるんだよね」


「ええ。誤解イベントの増幅装置のような人物です」


 フィアナが深く頷く。


「悪気ないのが一番厄介なタイプ」


「同意します」



 数日後。


 王城主催の小規模な歓迎会。


 若い貴族たちが集められた場は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。


 理由はすぐ分かった。


「堅苦しいの苦手なんだよな」


 軽い声。


 場に似つかわしくない気安さ。


 銀髪の青年が、壁にもたれながら周囲を眺めていた。


 カイル・クラウゼル。


 第二王子その人だった。


 整った容姿に無造作な笑み。


 王族としては危ういほど自由な雰囲気。


(原作通り)


 リシェリアは一瞬で判断した。


 この人物は――放置すると必ず問題になる。


 そして。


 彼の視線が止まる。


「へえ」


 興味を見つけた子供のような顔。


 向けられた先は。


「……フィアナ」


「やっぱり来るよね!?」


 小声の悲鳴。


 次の瞬間、カイルは迷いなく歩み寄ってきた。


「君、聖女候補?」


 距離が近い。


 貴族的な間合いを完全に無視している。


「え、あ、はい……」


「面白そうだな」


 悪意はない。


 だからこそ厄介だった。


 周囲の視線がざわめく。


 王子が平民出身の少女に興味を示す――。


 それだけで噂は成立する。


(原作分岐、接近)


 リシェリアは一歩前へ出た。


「カイル殿下」


 柔らかな声。


 しかし空気が変わる。


「ご挨拶申し上げます。リシェリア・フォン・アルヴェインです」


「ああ、兄上の婚約者」


 カイルが笑う。


「噂は聞いてる。ずいぶん優秀らしいね」


「光栄ですわ」


 礼を取りながら、自然にフィアナとの間へ位置をずらす。


 防壁。


 だが露骨ではない。


「殿下、本日は歓迎会です。ぜひ皆様ともお話を」


「んー?」


 カイルは少し考え、そして笑った。


「なるほど。守ってるんだ」


 核心を突く言葉。


 だがリシェリアは表情を崩さない。


「友人ですので」


「正直だな」


 彼は楽しそうに目を細めた。


「嫌いじゃない」


 周囲の緊張が少し緩む。


 衝突は回避された。



 少し離れた場所。


 アルヴィンが静かにその様子を見ていた。


「介入するべきでしょうか」


 セシルが低く問う。


「不要だ」


 即答。


「彼女はもう盤面を読んでいる」


 実際、その通りだった。


 リシェリアは会話の流れを自然に広げ、他の令嬢たちを巻き込み始める。


 一対一の構図を崩す。


 特別扱いを消す。


 噂の芽を摘む完璧な動き。


 やがてカイルは肩をすくめた。


「なるほどね。ここ、思ったより退屈しなさそうだ」


 そう言って別の話題へ移っていく。


 危険な分岐は、発生しなかった。



 帰りの馬車。


 フィアナが座席に沈み込む。


「疲れたぁ……」


「お疲れ様です」


「リシェ、完全にボディガードだったよ?」


「友人として当然の行動です」


 さらりと言う。


 だがその手がわずかに震えているのを、フィアナは見逃さなかった。


「……怖かった?」


 少しの沈黙。


「ええ」


 正直な答え。


「原作が動き出す音がしました」


 窓の外、夜の王都が流れていく。


「でも」


 フィアナが笑う。


「止まったね」


 リシェリアも小さく微笑んだ。


「はい。今回も」



 その夜、管理帳に追記。


【No.05 第二王子接近イベント】

状態:安全化成功


備考:

『単独接触を作らない』



 しかし。


 ページの端に、見慣れない文字が浮かんでいた。


 まるで後から書き足されたように。


『強制力:微弱確認』


 リシェリアの指が止まる。


 物語は――まだ諦めていない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ