第15話~カレのシャツ~
とある日の休日の朝、私はこの前ラ〇ンドワンで負けた罰ゲームを執行されていた。
ガチャっとリビングのドアを開けて、聡に罰ゲーム姿をお披露目する。
「さとるー?着てきたよ、こんなので本当にいいの?」
今回の彼のリクエストは、普段彼が着ている半袖のTシャツを着るというものだった。
前回の方が恥ずかしかったので、正直拍子抜けだったけど、まぁ彼が望むなら、別にいいか。
そう思い、リビングに行くと彼は何故か窓の外を見て私に背を向けていた。
「ちょっと待ってね、心の準備が出来てないから」
「……どういうこと?」
私が呆れて待っていると、聡はゆっくりとこちらに振り返った。
「……。」
「……。」
なぜかお互いに数秒間ただただ見つめ合うという謎の沈黙が生まれた。
「なにか言えっ!」
私が沈黙に耐えきれずそうツッコむと、彼は無言で財布を取り出し中から札束を取り出す。
「どうぞ、お納めください。」
「前もやったぞ、このやり取り」
お札を押し返すと聡は大げさに胸と額に手を当て、
「あぁ……今の君はあまりに破壊力がありすぎて、理性が吹き飛んでしまいそうだ」
「どういうことっ!?」
思わず自分のシャツを掴みながら引き下がった。
「くっ……リアル彼女が着る彼シャツにこれほどの破壊力があったとは……僕のHPはもう持たないかもしれない……」
彼は胸を抑えながらよろけてソファに倒れ込んだ。
なんだかメイド服の時以上に大げさだなぁ……
そんなことを思いつつ、ダボダボの襟元を掴んでシャツの匂いを嗅いでみた。
(いい匂いするなぁ)
(彼の、匂い……なのかな)
そんなことを考えていたら、少し胸がドキドキしてきた……
「あかりっ!」
いきなり彼が大声を出し私の両肩を掴む。
「ひゃいっ!?」
「だめだ、それ以上は僕の理性が持たない……」
「なにもしてないよっ!?」
私が慌てながら言うと、彼は視線を下にずらし、もう一度私と視線を合わせ――
「それと、確認なんだけど……もしかして……下は穿いてないのかい?」
「ん?あぁ、シャツって指定だったし、丈長いから別にいいかなって」
断っておくが、さすがに下着は着けている。
私がそう答えると、彼は目を覆いながら後退り、ソファに倒れこんだ。
「……僕は、偉いと思う」
「なにが?」
「この状況で理性を保っていられることが、だ」
「えぇ……?」
一人で悶えている彼に呆れ、私は腰に手をあてため息を吐いた。
「イヤだったら脱いじゃうよ?」
「イヤなわけないじゃないか!」
彼はソファから飛び起きると私の両肩をガシッと掴んだ。
「アカリ、ひとつだけ、お願いがあるんだ」
「は、はい!なんでしょう……?」
すごく真剣な顔で私を見つめてくる……
あまりに真剣な表情をしているので、告白でもされるのかと思って、胸がドキドキする――
「その服のまま、僕に膝枕をしてくれないか?」
「膝、枕……」
「そう、膝枕」
「まぁ……それくらいなら」
目を逸らしながら渋々承諾する。
(この前危ないところを助けてもらったしね……少しくらいサービスしてあげてもいいかな……)
恥ずかしいけど、あの時の借りがあるので返さないと……なんてことを思った。
「いいのかい?」
彼は承諾されたのが意外だったのか驚いた表情をしていた。
「まぁ……今日は特別だから」
「あっ!でも変な事したらダメだからね!」
私がそう言うと、彼は胸に手を当てて天井を見上げた。
「あぁ……生きていてよかった」
「大げさだなぁ……」
私は呆れながらも、このやり取りを楽しんでいた。
「ほら、おいでよ」
ソファに座り自分の膝の上を叩いて、彼に早く乗るように促した。
私を抱き締めたりするのは平気なのに、こういうのは意外と駄目なのかな……すこし遠慮しているように見えた。
彼はゆっくり近づきながらメガネを外し、私の膝の上にそっと頭を乗せた。
「失礼するよ……」
彼の頭が横向きに膝の上に乗ると、ずしっとした頭の重みを感じると共に、髪の毛が肌を刺激して少しくすぐったい。
いまさらだけど、もう少しちゃんとした格好にしておけばよかったかな……
太ももにかかる裾がやけに頼りなくて、落ち着かない……
でもまぁ、彼なら変な事をしないだろう、という謎の信頼感を寄せてそのまま彼の頭を撫でた。
「お客さん、疲れてますねぇ」
そんなことを言いながら頭を撫で続けるが、意外と彼は何も反応せずされるがままになっている。
(思ったよりリアクション薄いなぁ)
「念願の膝枕なのに反応薄くない?」
「あ、もしかして照れてる~?」
私がニヤけながら煽ってみると、一瞬沈黙した後、彼は頭を左右に振りだす――
「あっ!こら、やめてよ!くすぐったいってば!」
慌てて彼の頭を抑えた。
「もう……ほら、おとなしくしててよ」
再度彼の頭を優しく撫でながら、ふと今までの生活を思い出した――
「ここに来てから数か月が経ったんだねぇ」
「いろいろあったけど、すごく楽しかったよ」
私が思い出に耽りながら話続ける。
その間、彼は微動だにせず、静かに私の話を聞いてくれた。
「さとるも、仕事が忙しいのに、私にいろいろしてくれてありがとね……」
「この数か月、大人になってから一番楽しかった」
「……少し、強引なところが多くて困ることもあったけどね」
くすっと笑いながら、彼の頭に手を添えた。
――すると、彼の体が一瞬震え、膝の上に冷たいモノが触れた。
「あれ?さとる?……もしかして泣いてるの?」
「……君が素直で嬉しくてね……」
「私がひねくれてるみたいな言い方やめてよ」
彼の素直じゃない言葉にくすっと笑い、彼の肩に手を添えた。
「……いつもおつかれさま、今日はゆっくりしよっか」
たまにはこういう日があってもいい、今日は休日なんだから。
そう思って、彼が満足するまで頭を撫で続けた――




