第14話~損失~
――怒号が飛び交う会議室。
「どうして設計の納期が間に合わないんだ!」
会社の長が机を叩く。
「中途も入れ、業務人数は増やしているのですが……」
「指定の納期ですと、今の倍の人数が必要です……」
「倍だと?」
周りを威圧するような低く唸る声……
「燈村がいた時は、一人で回っていただろう!」
空気が一瞬、固まった。
誰も目を上げない。
「それと保守工事課!作業内容がずさんだと取引先から連絡が来ている!」
「その件は……工事と保守を同時に行える者がおらず、工程が空白になり……」
「どうしてそうなる!」
「……前任者が一括で処理していたため、分業化が――」
「引き継ぎはどうした!」
静寂が会議室を支配する。
答えられる者はいなかった――
あの名を出せば出すほど
“穴の大きさ”が浮き彫りになるだけだった――
「ふぅ……今日の作業も終わりかぁ」
丁度いい温かさのココアを飲んで、伊達メガネを外しデスクを立つ。
ルーティーンの訓練をしたおかげで、集中力の深さを3段階に切り替えられるようになった。
そのおかげで、今では前のように気絶することもなくなり随分と体も楽になった。
けど、体に負荷はかかるので、無理のない範囲で働ける時間をお医者さんに相談したところ
作業時間を一日1時間と決めて、その代わり週五日勤務となった。
総合勤務時間はもりっと減ったが、短時間に集中した方が私には合ってるらしい。
軽く欠伸をしつつ、タイムカードを押してリビングに向かう。
時計は午前10時を示していた。
「漫画でも読むかぁ……」
ソファにダイブし、漫画とおやつを食べながらごろごろする。
一応1時間とはいえ働くようになったおかげか、以前ほど何もしていないという焦りが無くなったおかげで
平日の昼から漫画を読み始めても罪悪感を感じなくなった。
とはいえ、暇ではある。
1時間ほど漫画を読んだところで飽きてしまいムクり、と起き上がった。
「11時……ゲームでもやるかぁ」
聡にもらったハイスペPCを付けに行く。
「働いてる時はゲームする時間を無限に欲しいと思ってたけど」
「いざ、無限に与えられるとやる気が起きなくなるのは、なんでなんだろうね」
昔からの性分で、図鑑を埋めていくようなコツコツ収集系は苦手で
レイドボスの様な攻略が難しいコンテンツをやるのが好きだった。
そう、つまり……時間が余った現状、それらのコンテンツを全てクリアしてしまったのだ。
「あと、やる事と言えば、普段使ってないクラスのレベリングなんだけど……」
ぶっちゃけやる気が出ない。
MMORPGにログインしたものの、やることもなくギルドハウスの庭をウロウロしていると、ギルドメンバーに声をかけられた。
レイ「アカリじゃん、こんな時間に珍しいね?」
アカリ「仕事変えてテレワークになったんだけど、今日の仕事もう終わっちゃったんだよね」
レイ「お、ついに転職したのか」
アカリ「んむ」
レイ「暇ならレベリング付き合ってよ、この時間人少ないせいか中々マッチングしなくてさー」
アカリ「おっけ任せろ、タンク出すわ」
レイ「たすかる~」
その後、昼を食べ忘れて夕方までダンジョンに潜り続けた――
レイ「いや~助かったよー、おかげでヒーラーがレベルカンストしたわ」
アカリ「私も、よさげな見た目装備いっぱい取れたし、満足まんぞく」
レイ「フィールド狩りもいいけど、やっぱりダンジョンの方が圧倒的に効率いいね」
レイ「マッチングの問題さえなければなー、ヒーラーですら10分近く待たされる」
アカリ「圧倒的タンク不足」
レイ「それな」
レイ「これからはこの時間にログインできるの?」
レイ「うち、社会人多いせいか昼間は人居なくてさみしいんだよね」
アカリ「時間はあるけど、最近暇すぎてエンドコンテンツ終わらせちゃったから、やること無いんだよねぇ」
レイ「えー、まだやること色々あるでしょ?」
アカリ「地味なのは好かん」
レイ「たしかに、アカリはやらなさそうだ」
レイ「おっと、もうこんな時間か」
レイ「旦那が帰ってくるから夕飯の支度してくるわ、またね」
アカリ「ほい、おつかれ~ノシ」
「ってやば、私も夕飯作んないと!ってか昼を食い忘れたぁっ!」
友達と一緒にゲームをやるのが楽しすぎて、時間を忘れてしまった……
聡に怒られそうだから、昼を食べ忘れたのは黙っておこう、うん。
そんな事を思いつつ、走ってリビングに向かい、急いで夕飯の支度を始めた――
ガチャっとリビングのドアが開く。
「お、いい匂いだね、今日の献立はなんだい?」
「カレイの煮つけと味噌汁とサラダ、あと昨日の残りで作ったミニハンバーグ」
「あぁ……毎日嫁の手料理が食べられるなんて……」
聡は仰々しく入口で胸を押さえて崩れ落ちてる。
「いいからさっさと座りなさい、あと嫁じゃないから」
食卓にさっき言った品々を並べて、席に着いて食べ始める。
「体の調子はどう?だるさとか、体に違和感を感じたらすぐに緊急ボタンを押してね」
私が気絶して倒れたあの一件のせいで、私の職場にはナースコールが設置された。
「今の所平気かな、今日だって眠そうにしてないでしょ?」
「でも少し、痩せた気がする。お昼食べなかったのかい?」
「う゛っ!」
ちょうど、味噌汁を飲んでいたので吹き出してしまった……
(こわいっ!なんなのこの人っ!?)
図星だったので答えずに目を逸らしたが、それが答えになってしまった……
「まったく……なんで食べ忘れたか、正直に言いなさい」
「はい……」
しょんぼりとして正直に答えた。
「なるほど、それなら仕方ない、けど食べ忘れるのは良くないね」
「おっしゃるとおりです……」
叱られた子供のようにしょんぼりとする私。
普段優しいんだけど、彼は正論で殴ってくるタイプなので、怒ると怖い。
「ふむ……」
聡は腕を組みながら背もたれに寄りかかって、何か考え始めた。
「まぁやっぱり、悪い子にはお仕置きが必要だよね」
「えぇっ!?」
「僕はね、君が倒れた日の事を、覚えてるんだよ」
「あぅ……」
そう言われると、何も言い返せない……
私が体調管理を怠ったせいで倒れた挙句
彼の世話になってるんだから、確かに私が悪い……
「わかった……なんでもいう事を聞くよ……」
「言ったね」
彼の顔を見ると、にこやかに笑っていた。
……なんでも、は言い過ぎたかも。
そう思ったけど時すでに遅し……私は顔を引きつらせながら後悔した。
「それで?これがお仕置きなの?」
私は聡に抱かれていた。
――あぁいや、違う、この言い方だと語弊があるな……
互いにソファに座った状態で、猫みたいに、私は彼のヒザの上に乗せられている。
そのまま、"SWITCH"で、ファミリー向けパーティーゲームを一緒にやろうという事になった。
身長差がある上に私は小柄なので、聡の腕のなかにすっぽり収まっている。
――まぁ、確かに恥ずかしい。
――だって、胸がドキドキして痛いもん
「本当は一緒に眠りたかったんだけど、君、絶対に逃げるだろう?」
「う゛っ……まぁ、そうね……」
「ははっ、まぁ今日はこのぐらいで勘弁しておいてあげるよ」
そう言うと、彼は腰に回した手を、少し強め、私の頭に頬を寄せた。
「きゃあっ!?くすぐったいよ!」
「ごめんごめん」
そう言って、彼は笑いながら画面の中のキャラを動かした。
――このぐらいって事は次はもっと過激になるのかな……
少しだけ、
次は何してくれるんだろう
そう考えてしまった。
でも、すぐにその考えを振り払う。
(何を考えてるんだ、わたしっ!)
変な事を想像してしまい、顔が熱くなる。
そんな事を考えていたら、ミニゲームに負けてしまった。
「あーっ!なにするのよぉ!」
「君がぼーっとしてるからだろう」
「私のコインかえせぇ!」
いつも通り、ぎゃあぎゃあと喚く私を、彼は優しい手で撫でてくれた。
――こんな、幸せな時間が、いつまでも続くといいな。




