第11話~友達とカラオケ2~
ほどほどに暗い室内に男女合わせて6人が座る。
その中央で、歌詞を映すモニターだけがやけに眩しく光っていた。
男子の一人がマイクを手にして大きな声で話し始めた。
「いえーい!今日は可愛い子がたくさん!参加してくれてありがとうな!盛り上がってこうぜ~!」
『フー!』
「おー……」
周りのテンションに合わせようとしたが、中途半端になってしまった。
まぁ、声が小さいので存在を認知されていないだろう。
(胃が痛い……)
どうしてこんなことに……
心の中で涙を流し、席について20秒で帰りたくなっていた……
そんな事を思いながらドリンクバーから持ってきたジュースを飲んでそっぽを向いていると
肩をいきなり触られ、ビクっとする。
「きみ、かわいいよね!名前教えてよっ!」
白のシャツに黒いジャケットを着て、穴の開いたジーンズを履いている。
金色に染めた髪をワックスで固めており、いかにも女遊びが好きそうっていう外見だ。
うーん、THEチャラ男だ、現実に存在するんだな。こういう人。
「燈村……朱里です」
「アカリちゃんか〜かわいい名前だね!」
そう言いながら、彼は距離を詰めてくる。
ヒザが触れそうなほど近い。
「緊張してる?俺、女の子慣れしてるから安心して?」
(安心できる要素が一つもないんだが?)
慣れてるんだったら、今私が感じてる嫌悪感を察して離れて欲しいんだが……
しかしそんな願いは通じず、彼はさらに近寄り、ヒザとヒザが当たる。
さすがに距離が近すぎるので、そそくさと席をずらした。
「あっ!結構シャイなんだねぇ~かわいー!」
そう言って再度距離を詰められる。
(これが……陽キャの世界か……)
生まれてこの方こういう会に参加したことはなく
そもそも私はこういう種類の人達と絡んだこともないので、どう対応するのが正解なのかわからない……
「ほらーワタルっ!次あんたの番だよ」
そういって、マイクを渡されるチャラ男ことワタルくん。
「あーオレの番?仕方ねぇなぁ、アカリちゃん!君の為に歌うから聞いててくれよ!」
「はぁ……」
うーん、彼に対する好感度が既に基準値を下回ってマイナスになっているため、塩対応になってしまう。
こういう時は「えー!うれしー!がんばってくださーい!」とかってきゃぴきゃぴしたほうがいいのだろうか。
無理だな。
しかしチャラ男くんはそのままノリノリでラブソングを歌い始めた。
しかもそこまで上手くない。
その上、馬鹿デカイ音量をさらに上げて歌っているので耳がキンキンする……
居たたまれなくなった私は空になったコップを持ち、部屋を出てドリンクバーへと向かった。
(あー……帰りたいなぁ……)
カラオケ自体は好きだけど、陰キャ故に知らない人と一緒にいる事自体がストレスだ。
この場を楽しめない自分が、善意から誘ってくれたナオミに対して申し訳なく感じてしまう。
(まぁ、あらかじめ彼氏はいるか?って聞かれてNOと答えた私が悪いか)
LINEのやり取りの中で聞かれた時に、聡の事が一瞬浮かんだが
正式に付き合ってるわけでもないので、とりあえずNOと言ったことがこんな裏目に出るとは思わなんだ。
ため息を吐きながら戻ろうとした時、廊下の角で一緒のグループの男子とぶつかった。
「あっごめんっ!」
即座に謝る。
幸いジュースは相手にかからなかったが、自分にはかかった。
「こっちこそごめんね!コレ使って?」
そう言ってハンカチを手渡された。
「あぁ、いや、いいよ」
「汚れちゃうからさ、私も持ってるから平気」
差し出されたハンカチを断り、自分のカバンからハンカチを取り出しスカートにかかったジュースを拭く。
素材がいいせいか、布地がジュースを弾いてくれたので染みにはならなさそうだ。
「アカリちゃん、ボクの事、覚えてる?」
「んー?」
そう言われ、彼の容姿を見る。
チャラ男くんとは正反対なイケメンだ。
頭の後ろを刈り上げて全体的に髪を短くまとめており
黒のポロシャツと白のパンツを合わせ、おそらくブランド物と思われる腕時計を付けている。
キリっとした服装が引き締まった体と相まってとても清潔感がある。
顔が幼く見えるせいで少し背のび感はあるが、落ち着いた大人の雰囲気を感じられて個人的にはとても好印象。
こんな正統派イケメン知り合いに居たっけ……?
と、彼の容姿をジロジロと見て必死に思い出す。
「ごめん、変わりすぎてて分かんないよね」
「高校の時、同じクラスだった淳介なんだけど……」
「あー!」
名前を聞いて思い出した。
昼休みに、当時流行ってたモ〇ハンを一緒にPSPでやってたなぁ。
「へー!垢ぬけたねぇ!当時は私と同じ陰のオーラをまき散らすメガネ君だったのに!」
「ははっ、それはお互い様だよ」
「アカリちゃんも、当時から可愛かったけど、今はもっと素敵だ」
「おぉ……言うようになったね」
思わずキュン死しそうだったが残念、聡のおかげで多少耐性が付いている。
彼は恥ずかしいことを言っている自覚があるのか、顔を赤くしながら自分の頬を掻いていた。
ここらへんはあの人とは違うな、真顔でしれっと言うから。
「連絡先、交換してもいい?今度また一緒にゲームとか、話をしようよ」
「おーいいよ~」
そう言って私は、カバンからスマホを取り出し彼と連絡先を交換した。
「ありがとう、これだけでも今日は来てよかった」
「そういえば、連絡先交換してなかったもんねぇ」
「ずっと会いたかったんだけど、アカリちゃん知ってる人少なかったからさ……」
「あぁ……なんかごめんね」
そう、私は積極的に連絡先を交換しないので
高校時代に仲の良かった人でも連絡先を伝えてあるのは極わずかである。
「そろそろ部屋戻るよ、またあとでね」
そう言って手を振りながら彼とは別れた。
部屋の前に着くと、またあの雰囲気を味わわないといけないのかと思い
気が進まないながらも、おそるおそるドアを開けて中に入る。
みんな、ある程度歌い終わって満足したのか曲は流れておらず、思い思いに話し始めていた。
適当に隅の方に座ると、先程のチャラ男くんが絡んでくる。
「アカリちゃん!君が居なくてさみしかったよ~」
「ほら!こっちきて話そうよっ」
そう言って私の腕を掴み話の輪へと連れて行く。
「でさ~マジお局がムカツクんだよね」
「わかるわーオレも上司むかつくもん」
「そもそもこっちは新人なんだから、もっとちゃんと教えろってことよな」
(うーん、耳が痛い。)
会社に居た時、最後に教えた後輩クンは大卒で年上だったので
陰でこんなこと言われてたのかなぁと思うと、ちょっと悲しくなる。
まぁつらいのは人それぞれだから愚痴を言うのも必要だよね、うん。
そう思い、あっという間に空になったコップを持ってまたドリンクバーに行こうとする。
部屋を出たところで外から戻って来たナオミと鉢合わせし、そのまま腕を掴まれ部屋の外へと連れ出された。
「アカリ!ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なに?」
「さっきさ!淳介くんと話してたでしょ?私、彼狙ってるんだよね!」
「なるほど……」
「彼、こういう会誘ってもいつも来なかったんだけど、アカリが来るって伝えたら参加してくれたの!」
「だからさ、後で彼と二人きりになるのを手伝ってくれないかな?」
そう言って彼女は手を合わせて私に頭を下げた。
(なるほどね……)
彼女の今の言葉で大体わかった。
私は、利用されたのか……
胸がじわり、と冷たくなり、同時に痛みが広がる。
これ以上、ここに居る理由もなくなってしまった……
私はカバンから財布を取り出すと、中から一万円札を一枚取り出して、彼女に渡した。
「ごめん、やっぱり私は帰るね、お詫びと言っちゃなんだけど、コレでみんなに何か頼んであげて」
「え……?」
彼女は予想していなかったのか、きょとんとした顔をしている。
私はそのまま受付に向かい、先に帰る事を伝えた。
「アカリっ!」
入口のドアに手をかけた所で呼び止められる。
私は振り返り、最後に彼女の顔を見た。
「ナオミ」
「お互い、変わっちゃったね。」
そう言って、私は扉を開け、外に出た。
多分、私も大学に進んでいれば彼女たちと一緒に、今日を楽しめたのかもしれない。
でも……少なくとも今の私では楽しめないだろう。
カラオケ店の玄関の階段を降りながら街の中へと向かう。
その時、少しだけ、高校の時の記憶が蘇り、頬を涙が伝った――




