第10話~友達とカラオケ~
ピロン♪
いつも通りPCでゲームをしていると、脇に置いたスマホからLINEの通知音が聞こえた。
退院して数か月が経ち、聡からようやくスマホの所持を認められた。
ただし、SNS関連はかなり制限を受けていて、その手のアプリは全く入っていない。
まぁ元々そんなにやってなかったから、別にいいんだけどね。
そんなことを思いながら、スマホのロックを外しLINEを開く。
「あれ、珍しいな」
高校の時の友達から久しぶりに会わないか、という遊びの誘いが来ていた。
卒業間際に連絡先を交換して以来会っていないので、相当久しぶりである。
メッセージを返してやり取りをしていると
当時の思い出が蘇ってきて、会いたいという気持ちが強くなってきた。
ヘッドセットを外し、隣で同じくPCゲームをやっている聡に声をかけた。
「さとる~?高校の時の友達が久しぶりに会いたいって来たんだけど、会いに行ってきていい?」
「友達?いつ行くんだい?」
「あー……ちょっとまって」
メッセージのやり取りをして日程を確認する。
「今度の日曜日だってさ」
「だめだよ、僕と一緒にいる時間が減るじゃないか」
「おっけー、じゃあ大丈夫って伝えとくねー」
彼を無視して友達と出かける約束をした。
「あぁ……アカリが僕に冷たい……その日は何をしていればいいんだ」
「知らん、ゲームでもしてなさい。」
「せめて場所を教えてくれないか?」
「教えるわけないでしょ……」
教えたら絶対についてきそう。
「信じてないわけじゃない、君が居ない時間が落ち着かないんだ……」
「あの日のように、君が居なくなるんじゃないかって、心配なんだよ」
病的なまでの過保護っぷりだが、私がまだ本調子じゃないから
本気で心配してくれているんだろうな……
「はぁ、わかったよ……夕方までには帰ってくるからさ」
「あと、2時間置きにLINE入れるよ、それなら心配ないでしょ?」
「10分置きにしてくれないか?」
「めんどくさいっ!」
ああだこうだ言いながら、やっとの思いで彼に外出を許可された。
「当日は何着て行こうかなぁ♪」
この前服屋さんで買ったコーデの中から何を着て行こうか考えると、今から楽しみだ。
「君の古いワンピースがあっただろう、アレにしよう」
「なんで?」
「君が可愛すぎて、他の男が寄ってくるからね、地味なのにしよう」
「今、私の友達がくれたワンピースをしれっとディスったな?」
私がそう言うと、彼は頭を抱えながらこちらを向く
「僕が買ってあげた服を、他の人に見せるなんて……あんまりじゃないか」
「僕だって、アカリといちゃいちゃしたい……!」
そう言うと、彼はPCデスクをドンっ!と台パンした。
あまりに悔しいのか、普段の態度が崩壊し始めている。
「もー……わかったよ、埋め合わせはするからさ、今回は見逃してよ」
「言ったね?」
「私が約束破ったことある?」
「自分の体調管理以外なら、無いね」
「……それは申し訳ないと思ってる」
椅子をクルクル回しながらスマホを顎先に当て、何を用意すればいいか考えた。
「せっかく久しぶりに会うんだから、美容室行きたいなぁ」
「ちょっと待ってくれ、もしかして男じゃないよね?」
「まっさかぁ、ちゃんと女の子だよ」
「だが……君のあまりの可愛さに、性別を超えて好きになる可能性も……」
「ないから安心しろ」
ない……と思う、ボディタッチが多めの子ではあったけど。
「美容室いって~化粧して~、ん~これは忙しくなりますな」
「僕との初デートより気合が入ってるじゃないか……」
彼が精神的ダメージを負いすぎて、机にめり込み始めた。
面白そうだから追い打ちをかけたいけど、少しだけかわいそうだったので、さすがにやめといた。
「まぁまぁ、今度聡と出かける時はちゃんと気合入れるからさ、許してよ、ね?」
若干あざとらしく手を合わせながらウィンクして言ってみたら
彼は手で顔を覆って天を見始めた。
「天使が……ここに居る」
よし、うまくいったようだ。
そんなやりとりをして、なんとか聡の許可をもらって
約束の前日に美容室へ行き、当日に備えた――
そしてついに来た日曜日、私は気合を入れて待ち合わせ場所に臨んだ。
ちなみに本日の服装は、聡と一緒に服を買いに行った時に
店員さんにオススメされた白ブラウス+フレアスカートのコーデだ。
たかが友達と会う為にそこまで気合入れるか?と思うかもしれないが
陰キャにとってリアルで人と会うのは結構労力を使う。
ましてや相手は数年ぶりに会う友達だ。
常日頃から会う聡みたいな親友ならまだしも
たまにしか会わない女友達と遊びに行くのなんて、もはや戦場に行くようなものですよ。
そんなに嫌なら行かなければいいじゃん、と思われそうだが
片っ端から交流を断る程、心も強くないので……
誘いがあったら断れない性なのです。
そんな陰キャあるある脳内会話で暇を潰していたら、件の友人が現れた。
「ひっさしぶりじゃん!アカリ~!なんか大人になったねー?」
「ナオミこそ、久しぶり。まぁ5年以上経ってるんだからそりゃ変わるよ」
「まぁ積もる話もあるだろうからさ!とりあえず店行こうよ!」
そう言われ、ナオミに腕を組まれて連れていかれる。
「おっきたきた」
「おぉ、その娘で最後?かわいいね~」
「ちょっと!よそ見しないでよー私と話してたでしょー」
(……なんだこれ)
ナオミに連れられて来た先は、有名なカラオケ店だった。
それはいい、だがその店先に男が三人、女が一人いる。
「ごめん!みんな待たせたね~じゃあ中にはいろっ!」
「ちょっ!ちょっとナオミ!」
私はあわてて彼女の腕を引っ張った。
「ねぇ、これどういうこと?」
小声で彼女に聞く。
「あぁ、言ってなかったっけ?」
「大学の同期で合コンすることになったんだけど、一人女の子が足りなくてさ、アカリに声かけてみたの」
「聞いてないよっ!」
LINEでやり取りをしたときは、二人だけでカラオケに行こうっていう話だった。
「ごめーん!私幹事任されちゃって、どうしてもあと一人必要だったの」
「私を助けると思ってさ、ね?お願いっ!」
そう言って頭を下げられた。
「いや……でも……」
昔からナオミは、悪気なく人を巻き込むタイプだった。
だからこそ、私とも明るく接してくれた。
高校の時、私は重度のゲーヲタでひきこもりだったせいで、今よりもずっとコミュ障だった。
でも、ナオミは私の机に来て、ナオミ自身はまったく知らないゲームの話を聞いてくれた。
そういった思い出があったから、今日は久しぶりに会えるのを楽しみにしてた――
でもこれは……
はっきり断った方がいい、そう思った瞬間――
「受付終わったぞー!早くこーい!」
「はーい!ほらっアカリ!いくよっ!」
「あっ!ちょっと!」
「今日の会は男子達のおごりだからさ、楽しんでってよ!」
そう言われ、強制的に中に連れていかれた。
――この時ばかりは、押しに弱い自分を呪った……




