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内見と大家

 久々更新です!

 あやかし、たくさん出てきます(*'ω'*)

 ちょっぴり怖いといい。

「ああ、そうだ。紙鼠を預けておく。こよりに懐いている個体だ。好きにしていい」

 そんな一言を発したのは帳記だった。

 普段は見ることのない趣のある『昭和』の景色に気を取られていた私は目の前に突き出されたものに息を飲む。

 そこにいたのは、首の後ろを雑に摑まれたハムスターに似た白いネズミが。

「好きにって、え、私が育てていいってこと?」

 必死に小さな手を私へ伸ばす姿を見て、小さなその体を両手で包み込む。

 手の中に納まった紙鼠は、必死に体を擦り付け、舌で私の指を舐め始めていた。

 その様子を呆れたように見下ろす帳記を見て、人の心がないのかと呆れる。

「殺さない程度に世話を。仕事をしてもらわなくてはいけないからな」

「……お世話の事とか後で聞かせて──集住さん。これから新しい家にいくんですよね? 手土産を用意する時間がなくて」

 柔らかな命に不安を与えないよう気を配りつつ、前を歩く背中に声をかける。

 私の声に集住さんが振り返った。

「大丈夫ですよ。長い間、住人を望んでいたので借り主に会うことが何よりの『土産』になるでしょう。おや? 手の中にいるのは紙鼠じゃないですか。今はデジタル化が進んで数が減っていて……久々に見ましたよ」

「数が減ったって……そんなに飼育が難しいんですか?」

「その辺のネズミを飼うより楽ですよ。昔は役所にも多くいましてね。言葉こそ話せませんが義理堅く忠義にあふれた性質なんです、ネズミだけに」

 はっはっは、と楽しそうに笑う姿を見て帳記が小声で「妖怪でも割と親父ギャグを言うやつは多いから慣れろ」と囁いた。なんというか、普通に人間社会でも見かけるタイプだなと親しみを覚える。

 知らないけれど、どこか懐かしさのある道路を進んでいると集住さんが周囲に視線を向けて何処か嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「より快適に過ごせるよう、元号ごとに区域を分けていましてね……この辺りは『昭和』と『平成』が入り混じった場所になります」

「元号ってことは平安とか江戸もあるってことですか?」

「はい。最近だと『令和』をモデルにした場所が作られました。あちらにはネット由来の若い妖や怪異、人間が多いですね。基本的に私たちのような存在は、自身が生まれた時代や活動をしていた時代を選ぶことが多いので……」

 よければどうぞ、と差し出されたのは『役場付近の案内』だった。

 受け取って開いてみると東西南北で分けられている。昔教科書で見たような元号が並んでいる区域もあった。

 本当に今まで住んでいた場所とは違うんだな、とそんなことを考えていると集住さんはポンッと手を打つ。

「あ。電波装置は既に設置してあるのでインターネットも使えます。ただスマホはこちらの世界で新しく契約した方が良いでしょう。人間界の電波は『入り込みやすい』のでお勧めしません。うっかりスマホ画面から寝ぼけてでてくることもありますしねぇ」

「待った。待ってください、スマホ画面からでてくる? 出てくるって何がですか?」

「そりゃ、電波系の怪異ですよ。酔っぱらって出てくるパターンもありますし、厄介なやつだと惚れられてネットストーカーでしたか? それになることもあるとか」

「リアルネットストーカー……もう一台、こっちで買います。スマホ」

「必要なら案内しているのですが、帳記君がいるので大丈夫ですね。っと、ほら、あそこが新しい住処になる住居になります」

 集住さんが汗を拭いた後、前方に見える灰色っぽい雑居ビルへ手のひらを向けた。

 いい具合に年季が入っていて、どこからどう見ても寂れている。

 建物の周囲の街灯は古いし、よく見ると建物にも亀裂がはしっていた。

「……途中で崩れたりしませんか?」

「住んでいるうちに『修繕』されていくと思いますが……相性がどうだかまず見てみる必要がありますね。建物自体が『受け入れる』つもりであればすぐにわかりますし」

 不思議な言い回しをするな、と思いながら後を追っていけば、曇りガラスに殆ど消えかけの『昭和通り四九八一』と書かれていた。

「四九八九じゃなくてよかったな。語呂合わせをすると『しゅくはい』か」

「名前がいいというのもあって、ちょっと有名だったんですよ。さ、どうぞどうぞ。鍵が開くといいんですが」

 どうだろうな、といいながら集住さん、帳記の順で建物内へ。

「……女は、度胸」

 よし、と今更ながらに腹を決めて私も二人の後に続く。


◇◆◇


 はじめ、建物の中は酷く薄暗かったのだが、突然灯りがついた。

 反射的に天井を見るとそこには、裸電球がぶら下がっている。

「工事途中、とかじゃないですよね?」

 思わずそんなことを聞いてしまった私は悪くないと思う。

 まず二階建ての内部は、結構な広さがあった。小さいけれどエレベーター付きで、入って直ぐ右手には店舗スペースが。空気も淀んでいないし、誇りっぽさもない。

 ただ、蛍光灯がはまるべき場所にそれがなく、玄関に位置する場所とエレベーター前にぶらりと裸電球がぶら下がっているのだ。

 他にも、二階への階段には手すりが半端につけられた状態で放置されている。よく見ると、床のタイルの色も違って、張り替えている途中のように見えた。

「工事はしていませんが、前の住人が出て行って長いですからスタミナ切れといった所かと思いますよ」

「スタミナ切れって……ええっと」

「言葉通りだ。だが、電気がついたということは歓迎されていると考えていい。ここで決まりだな──相性がいい住処が直ぐ見つかってよかった。こういう趣がある建物は正直、かなり好みだ。綺麗なだけだと物足りない。歴史があるからこそ、愛着がわく」

 ふふん、と満足げな帳記にため息を吐いて事務所になるであろう、すりガラスの向こう側の部屋を覗く。

 ガランとして何もない、要に見えるがどうなのだろう。

「こよりさん、開けてみてください」

「あ、はい。えっと、おじゃまします……!」

 思わず声をかけ、ドアを押し開けばガランとした空間が広がっていた。

 撤退した後だからか、と考えたけれど直ぐに違和感に気づく。コンセントがないのだ。

 戸惑っているとどこからともなく『カチッ』という音が聞こえて、室内が明るく照らされる。瞬きの間に天井からは裸電球が複数ぶら下がって室内を一生懸命照らしていた。

「おお。これは大歓迎ですね。契約するとのことでしたが、正式な契約を……」

 そういいながらどこからか書類を取り出した集住さんの言葉に被せるように乱暴にドアが開いた。

 突然聞こえた大きな音に方がびくりと跳ねあがる。

「集住の旦那! ここに借り主ができたってのは嘘じゃ……お?」

 ドアから転がるように室内に入ったのは、二十代後半から三十代前半の男性だ。

 薄汚れた作業服の中から派手なアロハシャツの襟が出ていて、靴も革靴と使い古されたスニーカーを片方づつ履いている。

 髪はぼさぼさで、無精ひげも目立つ。どこからどう見ても怪しい人だ。

「って、その古い駅員服は……紙屋の?」

「紙屋?」

 聞きなれない単語だったのか首をかしげた帳記にアロハシャツと作業服の男が呼称について聞かせてくれた。

「いや、正し屋の旦那から『紙関係』の仕事を振り分けられてるのは知ってるんだ。正し屋から直接依頼を受けるってのは、能力や人柄を認められてるっつー証拠だから、俺らの間でも正し屋と関係のある奴らには二つ名みたいなのが……って、悪い。先に名乗った方が良さそうだな」

 そしてそこで初めて自分の格好に気付いたらしい。

 慌ててその場で靴を脱ぎ、作業着を完全に脱いでいく。

 どうやら中にスラックスを吐いていたらしく、派手なアロハシャツの男になった。靴はちぐはぐなままだったけれど、僅かに不信感が薄れる。

「俺は遠野 六紙。事情は聞いてると思うが、個々は俺の管理物件でもある。力が弱いってのもあって、最低限の世話しかしてねぇが……一応、意志は残ってるから住むなら大事に住んで欲しい」

 聞きたいことだらけで置いてけぼり状態の私を気遣ってくれた集住さんが慌てて補足説明を挟んでくれた。

「元々、この物件は彼の実父が所有されていました。彼の苗字である遠野は『迷い家』の家系でして……相続の関係で、彼が継いだんです。血は繋がっているので妖力の提供のお陰で形を保てています。迷い家については?」

「初めて聞きました」

「あれ、人間のお嬢さん? え、もしかしてここに住んでくれるの?」

 身を乗り出すどころか数歩近づいてきた大家の遠野さんに、数歩ほど後退。

 怯えていると思ったのか慌てて、その顔に取り繕うような笑顔が浮かぶ。

「いや、申し訳ない。えーっと、俺らの特性上、妖怪あやかし怪異の類が済むより、人間が済んでくれた方が力になるの。わかりやすく言えば、あー……充電速度が倍速っていうか? それに、この物件は元々、喫茶店やらブティックやらをしたいってことで建てられたんだ。軽い改装でガラス張りだった一階は大きめ窓付きの壁に回収したけど」

 それ以外はほとんど手付かず、というか手を付けられなかったと彼は話した。

 そこまで話をして、少し考える素振り。

「まずは内見する? 契約するかは、喫茶店とか居酒屋とか飯屋で話を詰めてもいいし……あ、集住さん。その場合の費用って経費でおちたりとか」

 パッと振り返った遠野さんに集住さんはニッコリ笑顔で親指を突き出した。

「可能です。なにせ、正し屋案件ですので」

「そうこなくちゃな。んじゃ、折角だし鰻屋へ行こう。昼時だけど、あそこなら個室用意してくれるだろ」

 うんうん、と頷く遠野さんの言葉でふと疑問が生じた。

 今まで気にも留めなかったけれど、あちらからこっちへ来たのは夜十一時を過ぎていた筈なのだ。なのに、先ほど歩いてきた道は明るく、空も青かった。

「え……私、確か夜に家を出たはず」

「あちらとは時間が正反対になるんです。向こうが深夜ならこっちは昼間ですよ。鰻は私も久しぶりですねぇ。役所勤めとはいってもお小遣いはおおくなくて」

 楽しみですな、とポンッと大きなおなかを叩く集住さん。

 話の流れで、昼ご飯は集住さんお勧めの高級鰻屋へ行くことが決定した。


読んで下さってありがとうございます。

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